岩下俊三(フリージャーナリスト) 「事実にもとづく憲法論議を」 06/02/01
岩下俊三(フリージャーナリスト)
-------1948年生まれ。慶応大学卒、パリ大学在学中から映画制作、BBC、フランス2などでテレビドキュメント制作従事。
1985年よりテレビ朝日をベースにニュースステーション、報道特別番組を制作、世界中の紛争地域を取材。
大学講師(表現文化論)。-------------------------------------------------------------------------------------------------------------
いうまでもなく、私は一介のフリージャーナリストに過ぎず、日本国憲法について垂訓する立場にはない。ないにもかかわらず、昨年夏、テレビ番組で戦後60年間、憲法成立過程での知られざる二つの真実をスクープし、世に問うた。もちろんいわゆる「改憲」の立場をとる学者にも確認を取った上での検証であるからそれらは、れっきとした客観的事実だと、少なくとも私は思っている。
そのひとつは日本国憲法9条2項の冒頭「前項の目的〜」云々。すなわち「芦田修正」の部分である。
第90回帝国議会(1946年)の芦田均小委員会の議事録をみると芦田は最初、現在の一項と二項を逆転させていた。
すなわち戦力不保持が一項でありその目的を達するため「国権の発動たる戦争」を放棄すると提案している。
それが世に言う「芦田修正」となって「自衛権」に含みを持たせたというのは、実は1957年つまり自衛隊が出来上がってしまったあとに、「後付」でつけられた誤った解釈に過ぎない。
当初、芦田は明らかに戦力を有しない、その「目的を達するために」戦争自体を放棄するとしたのであって、本会議で吉田茂が「正当防衛を認むることそれ自体が有害である」と答弁していることとも符合する。
にもかかわらず、現在の衆議院の憲法調査会でも自民党の「草案」策定過程でも、いまだに、「芦田修正」の意味を意識的?に「取り違え」たままで、自衛のための軍隊をもってもいいということにしている。
そしてその「誤った意味」をさらに拡大して「自衛隊」を専守防衛隊から海外遠征軍へと変貌させようとしているのである。
これは「改憲」とか「護憲」とかの政治的イデオロギー以前の問題であり、どのような立場であれ「虚偽」をもとにした議論はまさにナンセンスとしかいいようがない。
さらにもうひとつの「改憲論」の根拠?となっているのが「アメリカに押し付けられた」というものであるが、これについても今回の取材で、「戦争放棄」を最初に提案したのは、A級戦犯で獄死した白鳥敏夫(*注)という「日本人」であったということを検証した。もちろんこのことについてはさらに調査中であるけれど、確かなことは、憲法成立過程で内閣法制局長であった金森徳次郎自身が「白鳥がマッカーサーと幣原さんに対して、戦争放棄しなければならんという陳述書をだした」と証言していることだ。
戦後「憲法の成立」過程については、自分の意見を正当化するために虚実とりまぜた、さまざまな議論がなされてきたので、私の見解もそのひとつにすぎないとされるのはかまわない。しかし私はその金森徳次郎の「肉声」のテープと白鳥の陳述書をこの耳で聞き、この目で見、しかもそれを手に持っているのだけれど・・・・。
こと憲法論議に限らずとも、論議というものは「ためにする」ものではなく、検証された事実に基づいておこなうべきものだと私が思うのは、自らの浅学非才の故の「勘違い」であろうか?諸賢の異論・反論をこの場を借りてお願いしたいものである。
*注、外交官。1940年松岡外相の下で外務省顧問に就任、日独伊三国同盟の締結をリードした。