岩下俊三/ジャーナリスト/■岩下俊三/ジャーナリスト/権力に操られる「あるある大事典」のような問題―安倍内閣のしかけている巧妙なワナー/07/03/15
岩下俊三(ジャーナリスト)
いうまでもなくメディア特にマス(大衆)メディアはもともと諸刃の剣であって、社会の木鐸などということもありながら、しばしば”権力の走狗“と揶揄されることも少なくない。しかしそれが世間の見方しだいであるだけでなく、「本当に”紙一重“の綱渡り人生を歩んできたなぁ」とジャーナリストの私自身が述懐するのだから間違いなくそうだろう。つまりマスコミが意識的にそうであろうとなかろうといつの間にか権力にとりこまれ、いつのまにか”走狗“となってその役割を忠実に果たしていることは歴史的にもよくある話で、戦前の日本やドイツの例を挙げるまでもない。しかしながら、今、この現代の状況の下でよくある話として済ましてはならない、と思う。しかるにNHK問題がそうであり、「あるある大辞典」問題がそうであるように、これらの問題は問題の質が違うように見えるけれども、実はその”走狗“振りは同じである。いずれも権力の思うがままにあやつられていることに結果相違ないのであって、いかに権力側(安倍や中川)が内心ほくそえんでいるか想像するに難くない。NHK問題は日本政府の思わぬ展開となって複雑化しているので(つまりアメリカの権力の走狗となったニューヨーク・タイムズ紙との「慰安婦問題」扱いへの齟齬)他に譲るが、「あるある」のほうは構造的格差露呈がひいてはマスメディアへの権力介入を容易にしたという意味では憲法9条、その前にある「国民投票法案」(改憲手続き法案)にも関係があるので、この問題は看過するわけにはいかないのである。
そもそもこうした重大な事件を、フジテレビ系列で関西テレビのただの孫請けがやった“おばかなバライティの不祥事”で片づけてもらっては困るのである。このことがメディア自らが権力介入の土壌を作ったというだけではなくて、これを引き起こした根源のいわゆる「格差」社会の構造的なテレビの本質的問題として解明しないと、それこそマスコミ自身が自ら“権力の走狗”に堕す危険性を孕むことになる。では筆者の言う「格差」社会の構造とは具体的にどのようなものであろうか?それはテレビの関係者だけが知っているノーム・チョムスキーいうところの一部エリートに牛耳られた(権力、金銭的なエリート)マスコミの“公然の秘密”であり長年筆者の関わってきたテレビ業界の醜さそのものの露呈でもあったのだ。そして憲法9条改憲の策謀がテレビの“格差”という一見関係なさそうなレベルの政治イッシューにあったとはこれもマスコミが報じていない驚きである。これもまた国民投票からせまって金でメディアをとりこむ策略(有料政治広告など)、世耕議員はじめプロもいることだし、必ずしも偶然に孫請けの“ドジ“が生まれたとは言い難いところもあったりするのである。
そして格差社会の典型がテレビ業界にあった。そもそも今回「あるある大辞典」で問題の発端となった放送作家にしても“放送雑貨”などと陰口を叩かれる存在であり、まして下請けの下請けの放送作家はその生活苦からあるいは世間の蔑視から逃れ這い上がる手段はただ一つあくなき視聴率競争しかない。既得権益といわれる民放と政府べったりのNHKも視聴率というバロメターしかなく、出世の手段としてあるいは、にらまれて首にならないためには二十代で年収1000万を超える“局員”といえども視聴率こそが命、ましてその下請けの末端では覚えめでたくしてもらえるように視聴率の取れる番組企画をもちこむ競争になるのは必定。そこで若き局員の年収の三分の一にもならない作家、リサーチャーたちは手っ取り早く視聴率の稼げる企画を持ち込むため、捏造された“くだらない企画”を次々と考えることになるのであって、そこでうとまれるような“まともな企画”など生まれるはずはないのである。嘘でくだらないといえば、昔ならエログロナンセンス、当然権力のメディアコントローラーの思う壺となっていくのである。もともと真実を伝えるための媒体がウソを伝える、そうすると乗り出してくる国家権力、その後起きてくるワンパターンはもう言うまでもないだろう。考えない国民に戦争を強いるためのシステム、憲法改正の巧妙な罠はこうして仕掛けられ、まずは詐欺的な国民投票法(改憲手続き法)で国民を欺いていく、それが安倍内閣の手口である。
だから格差はなるべく広がったほうが政府にとって都合がよく、一見関係ないようにみえる憲法改正への政府の策動は、実は密接にこれにリンクしていることを見抜かなければならない。マスのしかもテレビの“業界”にいる僕らが気がつかないで毎日垂れ流しているのは腐った“走狗”なのかもしれない。気をつけようぞ!おのおのがた。真のジャーナリストでありたいのなら、安倍内閣の仕掛けた巧妙な罠にくれぐれも乗らないように!