岩下俊三/ジャーナリスト/民主主義最大の危機/07/04/12


民主主義最大の危機

安倍首相の思惑通りにことを運ばせていいのか?

 

岩下俊三(フリージャーナリスト)

 残念ながらというか予定通りというか選挙のときだけ猫をかぶって、通り過ぎればその本質をむき出しにする男の前で、ひたすら自分の非力を嘆くしかない落胆した野党の知事候補、それに比べて応援したはずの周辺の政党の冷静さをテレビの画面からチラッと垣間見たのは僕だけではあるまい。あの改憲派右翼の桜井よしこですらその野党の体たらくを見ておもわずその狙いが「第二の保守合同」にあるのではないか?と口走ったほどである。もちろん今回の都知事選の結果のテレビ解説でのコメントである。幸いして(?)だれも注目していなかったために問題にならなかったが、僕にはなぜか60余年間の日本の野党(勢力)の生態をいいあてている感じがしてならなかったし、はっともした。もちろんわが身の浅学のせいであろうし自省の意味もあった。世間でも、当然いろいろ解説はされていたし、いろんな事情もそれなりにも知ってはいた、にもかかわらずメディアに長くかかわってきた僕が彼女のテレビメディアでのコメントにある種の衝撃を受けたのである。

 もっともわざわざ桜井さんに教えてもらわなくても、有効投票率のなかでしかも圧倒的な無党派の動向によって、民主主義に擬制が貫徹され、与党の姑息な手段と、あいもかわらぬ狭い政局ねらいの「野党」の敗北主義とが歩調をあわせた結果、今回もまた単独採決を通過させようとしているというようなことは感じてはいたし、多くのメディア従事者もそう思ってはいた。有効投票の過半数という基準を採用し、最低投票率の定めもない、50パーセント前後の投票率で全有権者の2割台の賛成しかなくても「改憲」できる手続き法「国民投票法」の発議が与党単独で決められようとしている今、「かんじていた、おもっていた」で間に合うとは思えない。あとで嘆いても覆水は盆にはかえらないのだ!風雲急なのである。

 おもえばメディアだって「野党」と同じように、明日の飯のために本来伝えるべきことをつたえず,多くの電波芸者と称される人を使って予定されたコメントを、言わせてきた。政府ににらまれないように、あるいはスポンサーに気に入られるために、視聴率を上げることに血道をあげてきたではないか。理念的なきれいごとで際どいことは避けてきたではないか(たとえば皇室報道に異常な気の使いようを例にすればわかるように)、本来の伝えるという業務をせずに今日まできた悪しき習慣のために、理念としてある憲法よりもとりあえずの明日の経済的私益を優先させ、自らの延命のために政党への批判をせずにきた。そして今回もまた金にまかせたCMの容認という「国民投票」の仕掛けに乗せられることだろう。それでいいの?普通の議員立法ならそれもこれもテレビの画面を賑わす国会のいつのも風物詩で民主化の遅れた部族社会(日本)にあっては残念ながらありがちなことであるからそうそう嘆くことではないのかもしれない。しかしことは法治国家の根底をゆるがしかねない憲法問題である。本当にそれでいいの?

 政局に影響されないという約束の下、議論はされていたはずであったけれどここへきて急にそのからめ手としての「国民投票法」が、衆院憲法特別調査委員会で12日自・公に単独強行採決されたが、それに対する危機意識があまりにも薄いのはどうしたことか?
 格差社会に関して教育、医療、介護、年金など生活に密着した課題に野党はなんら有効な争点が見出せないでいる。一方そういうことにはお構いなく「戦後レジ―ムからの脱却」というウソの旗印を地方選挙はまずまずと思っている安倍総理は憲法改正へと更に強く推し進めようとしている。また、このまま過ぎていくなら、野党が姑息な対抗法案しか出せないとするならば、自・公のまったく詐術的、ファッショ的な議会運営にのせられ、夏の参議院選も同じような結果が予想される。平成猿芝居にのせられた国民、不満を吸い上げられない野党が結局(実際に地方議会などに国民の意思表示はあるにもかかわらず)国民を無党派層というマスコミ造語圏に追い込んでしまうとするならば、いったい民意はどこにあるのかと改めて問いたくなる。まさに憲法の危機、民主主義の危機である!

 ことここにいたらしめた、つまり沖縄の戦時下の軍による住民への集団自決の強制や従軍慰安婦問題など歴史の事実を強引に歪曲したり、議会審議の与党の傲慢さを許し「国民投票法」をあげさせ、改憲への道をひらかせた直接的原因は「野党」(民主党)のだらしなさにあるのであろう。
 しかしながらそれ以上に、唯々諾々と政府の思うままに操られているマスメディアこそ糾弾されるべきである!本来、一番権力の走狗になってはならないはずだった反権力の国民の耳目たるべき報道よ、いまこそ奮起せよ!子々孫々にいたるまで普通の国、すなわち銃をもった国家に再びなることのないよう憲法を守るのだ!命がけで。まさか飯を食うためだけにジャーナリストになったわけじゃあるまい。同士諸君!初心にかえろう。

(1948年生まれ。慶応大学卒、パリ大学在学中から映画制作、BBC、フランス2などでテレビドキュメント制作従事。1985年よりテレビ朝日をベースにニュースステーション、報道特別番組を制作、世界中の紛争地域を取材。大学講師[表現文化論])。