岩下俊三(フリージャーナリスト)
いわずとしれたことだけど、誰が総理大臣であろうが、どのような政権であろうが、た とえ保革逆転しようが、わが国における日米関係とりわけ日米安保体制は重要である。
しかし、かの吉田茂がサンフランシスコ講和条約を単独ながら成立させたその日のうちに、 総理ひとりでひそやかにアメリカと結んだ条約が、いまや“日米同盟”となって、実質、海外それも周辺事態をはるかに超えたインド洋にまでわが国の「自衛」のための軍隊を派遣すること自体、あきらかな“憲法”違反であり、この原則をしたり顔でないがしろにして、「国益」のために、すくなくとも給油だけは続けたいという「戦争」を知らない、“浅薄”な理論武装だけしている若手の政治家、与野党を問わず、たとえば中西元や前原誠司など僕が直に話した議員には呆れてしまうのでる。
もちろん政治には裏も表もあるだろうし、イデオロギーの違い、あるいは見識のちがい も含めたいろいろな意見があってしかるべきだし、それが民主主義の要諦であるといえば それまでだが、いわゆる政治権力を国民の耳目となって監視する立場にあるマスコミ人までが、そのような不勉強、不見識では困るのである。そういう意味では、昔は自民党であっても、たとえ意見が多少ちがっても、僕みたいな若く過激な意見にも“聞く耳”を持った政治家がいた。たとえば後藤田正晴、宮沢喜一はもちろん中曽根康弘にしてもそうであった。そうして我々も勉強したのである。
しかし安定した職場のなかで、あるいは記者クラブ制度に“守られて”いる今のメディア従事者にとってそうした勉強よりも、一般企業と同じく実績をあげ、目立たず個人的スキルアップに邁進することのほうが大事なようだ。ちなみにそれらの記者に「なぜジャーナリストになったのか」と聞くと、新日鉄に入れなかったとか、官僚になれなかったからとか、東京海上に受かったけどこっちの内定が早かったとか、もともとジャーナリズムの精神など関心がなかったという人が大半だ。
これは笑い話ではない。少子高齢化で優秀な人材は限られているが、なにをもって優秀というか別として、どの業界でもそうだが、少なくともジャーナリスト志願者は金銭(つまり初任給など)ではなかったはずだ。なのに“人類”が移り変わってきたと、職場の日常のやり取りや行動、対応で感じていると思う。ちなみに件の「給油」問題にしても、今はタレント化してはいるものの元官僚で、橋本龍太郎の秘書官をしていた江田憲治議員に耳打ちするまでは、あるいはテレビでいいだすまでは、「国益」議論の根底であるディエゴガルシアでの給油の実態は誰も知らなかった。(知らないことになっていた)
もとより軍事機密であるからその実態はアメリカ政府と日本の関係者に一部知らされているだけである。しかしそれでも何とかしてこじ開けようとするのが“記者魂”というのではないだろうか。しかもディエゴガルシア島民が自分の島を追い出され、何時帰れる保障もない苦しみを取材する記者もいないという体たらくである。そして例の給油活動が米海軍のホームページにイラクで展開している空母、例えばシティフォークやミニッツなどに給油してくれるニッポンに感謝しており、その油の85パーセントがイラク戦争に使われているのであって、“日本の洋上給油は15パーセントしかアフガンでは使われていない”という「事実」。しかも、アメリカ海軍自体がずいぶん前から公表している「事実」を、アフガンでの日本の国際貢献としてなんとか「テロ特措法」を、もしくはそれに類した新法を成立させたいという政府が、ごまかしているのも許せないが、それを知っていて報道しない記者にも苦言を言いたい! ちょっと調べればわかる事実。わかっているけど発表しない事実。エリートの自分だけの秘密。
いったい貴方はジャーナリストですか?ならば知らせるべきではないですか。 それともなれなかった官僚のマネをして「寄らしむべし、知らしむべからず」と気取っているのですか。
1948年生まれ。慶応大学卒、パリ大学在学中から映画制作、BBC、フランス2などでテレビドキュメント制作従事。1985年よりテレビ朝日をベースにニュースステーション、報道特別番組を制作、世界中の紛争地域を取材。大学講師(表現文化論)。