小中陽太郎/作家/レバノンの名前が響き続けた1週間だった。 /06/12/03


レバノンの名前が響き続けた1週間だった

小中陽太郎(作家)
 
元レバノン大使天木直人氏を招いてのシンポジウム,名古屋で。

 11月21日名古屋で、これで18回目を数える「市民と言論シンポジウム」開催、「イラク戦争・日本の針路・メディア」と題して、元レバノン大使天木直人氏を招き、小中がコーディネーターをつとめた。
前日、レバノンでは親シリア派のジェマイエル産業相が暗殺された。イラクのサドルシティでは、シーア・スンニ両派の対立で100人を超える死者を出しほとんど内戦状態となる。
 天木氏は、アメリカ軍の攻撃直前2003年3月14日、イラク攻撃の危機にいたたまれず、現地から攻撃反対の公電を打った。3月末、外務省から電話があり、辞職を求められた。イラクへの自衛隊派兵を憲法違反として訴える氏の裁判はわたしも多くの原告のひとり。さらに天木氏は退職を強要されたとして損害賠償を求めたが、11月10日に却下された。しかし現実は氏の正しさを証明しているではないか。共和党はその3日前のアメリカ中間選挙で惨敗、9日ラムズフェルドは解任された。
司会は、木村直樹(マスコミ夜塾)の司会で進み、天木氏はアメリカのイラク戦争が国際法無視、国連をも無視したものであること、小泉前首相のアメリカ追随がいかに間違っていて中東諸国との親善を損なっているかを体験に基づき厳しく指摘した。それに伴い、メディアの責任も厳しく問われた。
わたしはまとめで「いま何をするべきか」を質問した。天木氏は「参院全国区にひとり送り出す案」を提案した。わたし自身は、市民の自発的な運動を育てる立場である。それらがテーマごとに集まるのがいいと思うが、しかしいろんな人がそれぞれの知恵を出し合うのが今は大切だと思う。この夜は、120人の参加者。天木氏の率直な発言に呼応して、本音で議論したのがよかった。田中全港湾委員長は、イスラエルとアメリカの関係についてもなぜここまで一体化するのか、という質問が出た。「アメリカそのものがイスラエル化している」というのが天木氏の見方だった。
帰京して、同じレバノンでもいっぷう変わった楽しい会に出た。11月23日はレバノン建国記念日だそうで、カルロス・ゴーン夫人リタさんの経営するレバノン料理店MY Lebanonで開かれたパーティに大使を案内した。リタさんの友人クリストフ(日本女性)と島崎酒造が、レバノンという国の文化を知ってほしいと願って開いたもので、ワインとダンスでもり上がった。
 ついで25日には、板垣雄三東大名誉教授の講演とパレスチナのエドワード・サイードの足跡を現地に辿るドキュメント「OUT of PLACE」を中野ポレポレで見た。板垣先生とはAA作家会議運動以来のお付き合い。教授は、「一口にユダヤ民族というが、イスラエルといういまの国家の政治的対応のみをユダヤ民族と、きめつけることはできない」と中東の多様性を強調し、あわせて、日本を単一民族と考える過ちを鋭く批判した。
そもそもパレスチナへのこのところのわたしの関心は、30年前AA作家会議の会議で、ベルリンで起居を共にしたマフムード・ダルウィーシュの詩集「壁に描く」(四方田犬彦訳)を手に取りユダヤ教もキリスト教も含みこむイスラムの大きさに打たれたからである。このあと12月16日には明治学院でモハメッド・バクリ公演「悲観楽観悲運のサイード」(ひとり芝居)が楽しみだ。
天木氏には日本ペン・クラブに入会していただいた。氏は現実の政治に積極的に加わる方針のようだ。わたしはそれに芸術、映画や詩をあわせたい。

銀座・数寄屋橋マリオン前でのトークリレー、東京で。

 NHKの優れた後輩桜井 均(『テレビは戦争をどう描いてきたか』の著者)から「9条の会」のHPに動画が入ったことを知らされ早速、視聴して感心した。マスコミ9条の会のこのホームページにも7月14日の姜尚中さんのお話、10月11日の沢地久枝さんの講演が動画で登場させている。インターネットがテレビに匹敵する時代がきた。
実はわたしは来年3月17日に名古屋のヤマハホールで「絶滅種テレビを発掘する」という企画を練っている。わたしたちのつくったアメリカ脱走兵のフィルムやミュージカルの記録を使い当時の出演者(映画「黒い雨」にもでた山田昌さんなどに登場してもらおうと思っている。そして桜井君も参加してくれる。さらに戦争慰安婦の番組で、放送時の部長だった中田整一(『満州国皇帝の秘録』幻戯書房で毎日出版文化賞を受賞)も来てくれる。27日は出版文化賞授賞式だった。翌日28日はわたしの親しいマスコミの友人たちをお招きした集まりをやった。いまや映像と出版の壁を乗り越える頼もしい人たちである。


 さて今週のしめくくりは、12月2日(土曜日)、銀座・数寄屋橋マリオンの前で行われたマスコミ9条の会連絡会と自由法曹団、MIC、JCJなどとの共同による「国民投票法案反対」のトークリレーだ。わたしは、ミュージカル「ラメール」をやってくれた碧川るり子のコンサートで4時過ぎに駆けつけたが、すでに2時半から、亀井 淳(JCJ代表委員)、坂本 修(自由法曹団前団長)、関 千枝子(ジャーナリスト)、吉武輝子(評論家)、田中 隆(自由法曹団 幹事長)など弁護士、ジャーナリスト、新聞、出版,映画、航空などの労働組合の幹部18名が次々と熱弁をふるい、合間をぬって腹話術師2人が交代で語り、この国民投票法案が憲法改正のための地慣らしであること、公務員や教育者がこの運動をすることを禁じられ、行った場合には2年以下の禁固刑を受けること、テレビなどのマスコミコマーシャルは規制せず改憲デマ宣伝のシャワーを浴びせられるなど訴えていた。60名の人たちの参加で35,000枚のリーフレットが通行人に手渡される。
 わたしは、この共闘組織が頼んで来てもらっているチンドンヤの太鼓の音を背中に、目の前の劇場で上映中の『武士の一分』の山田洋次監督も映画人9条の会の呼びかけ人であることなども紹介し、宝くじを買うため行列している人たちにも改憲の狙いについて話した。わたしは、「憲法改悪は国会議員の3分の2で発議できるが、それは発議であって、そのあと国民の過半数の賛成が必要なのだ。憲法は主権者である私達の力で守れるのだ。そのためにはこんな不平等で非民主的な、詐術的な、自民党などの議席数の多い政党の有利な国民投票法案で憲法を勝手に変えさせてはならない。民主主義、人権、言論の自由を守り発展させるためにも今こそ、主権者の私たちが憲法改悪反対の運動に半歩でも一歩でも足を踏み出そう」ということを訴えた。
 会には、東映闘争の小林義明監督も来ていて、70年当時の戦いの中で拙著「王国の芸人たち」が勇気付けてくれたといってくれてうれしかった。碧川にすすめて来年は、当時の東映動画部の高畑勲(「蛍の墓」の監督)の原作を劇化しようと今想を練っている。むかしの仲間に再会できてうれしい街頭宣伝だった。寒風のなかを、車の上に2時間半立ちづめで司会した自由法曹団の弁護士
山口真美さんに拍手。12月2日。