仲築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ-/連載「六日のあやめ 十日の菊」(65)

日本航空「整理解雇」問題とテレビ 11/02/16

 

日本航空「整理解雇」問題とテレビ

 

仲築間卓蔵 (元日本テレビプロデューサー)

 

 ちょっと古い話になりますが
  昨年12月16日。日本航空のキャビンクルーユニオン(CCU)の集会に呼ばれて話をしました。内容は「日本航空とメディア」です。
  大会議室は超満員。寒い日でしたが、熱気ムンムン。高揚感を味わいましたねえ。
  日本航空労働組合とのつき合いは古いのです。1970年代 お互いに賃金昇格差別問題で共同行動をやったものです。丸の内中通りでデモをやったものです。全国に「総行動」方式が広まったのは 「千代田総行動」がはじまりなのです。そんな中で日本航空労組も日本テレビ労組も勝利的解決をみた。だから、日本航空問題となると他人事ではないのです。

 歴史は繰り返すのでしょうかねえ。いま日テレ労組は賃金体系改悪で会社と争っています。経営側の「身勝手さ」「やりすぎ」との対決は日航も日テレも同じですよ。
  日テレの賃金切り下げは、国民の”いのち”に直接関係しないが、番組の”質”に関わる問題です。日航のパイロットや客室乗務員の「整理解雇」は、利用者の”いのち”と”安全”に直接つながるのです。なにしろ 165人のベテランを解雇したのですからね。「ハドソン川の奇跡」は誰でも知っているでしょう。とっさの判断でハドソン川に緊急着水の決断をしたのは57歳のベテラン機長でした。乗客、乗員155名は全員無事でした。
 
  12月25日。日航本社前緊急抗議集会に駆けつけましたよ。
  12月31日付けで「解雇」を強行されたパイロットと客室乗務員は、1月19日 東京地裁に提訴しました。支援の輪は広がりつづけていますね。

 だが メディアの対応はどうか。
  日航問題を真正面から取り上げようとしません。
  2月1日。テレビ東京系で『ガイアの夜明け』「激動のJAL 復活の行方は」という番組が放送されました。ラジオ・テレビ欄に「独占」と書かれていたものですから 興味をそそられて見ることにしたのですが、主なスポンサーが日経新聞とキャノンだとわかって 結論は見えましたね。
  番組は、解雇通告されたベテラン客室乗務員の「涙」、機長を夢見ていた副操縦士の戸惑いなどではじまりましたが、日航が なぜ破綻したのかについての検証はゼロ。番組の力点は、稲盛和夫会長の「経営哲学」と従業員の「意識改革」「リーダー教育」でした。
  待合室の子どもに制帽をかぶらせて写真をとってやったり、カードを配ったりしてお愛想をふりまく機長。機長の(「JALは生まれ変わりました」という)「機内アナウンスに感動した」という投書の紹介、それを読みながら涙するお客様係りの女性と機長。「いままで株主のことなど考えたこともなかった」と「リーダー教育」後の感想を述べるグループ責任者・・・。いかにして利用客を呼び戻すだけに腐心する場面のつき重ねです。
  そこには 安全の「あ」の字もありません。「独占」というキャッチコピーは、稲盛会長の「意識改革」方針の「独占放送」だったのです。
  視聴率(ビデオリサーチ調べ)は6.3%。関東圏で60万人が見せられた計算になります。怖ろしささえ感じましたよ。

 しんぶん「赤旗」(2月13日付け)の記事を読んでおどろきました。
  「日本記者クラブで8日におこなった日本航空・稲盛和夫会長の講演に、耳を疑いました。昨年末のパイロットと客室乗務員165人の整理解雇は、必要ないとわかっていながら強行したものだと認めたからです」というのです。
  であれば なおさら 裁判を待たずに解雇当事者を直ちに職場に戻すべきです。

 テレビ東京『ガイアの夜明け』とは対照的な番組がありました。
  2月11日放送の日本テレビ系”金曜特別ロードショー”『沈まぬ太陽』です。
  何人かの友人から電話がかかってきました。「日テレもやるねえ」「いまのタイミングでやるなんて、プロデューサーはたいしたものだねえ」というものです。
  日テレに訊いた訳ではありませんが、日航の「整理解雇」問題にあわせて放映したのではないと思いますね。「金曜ロードショー」は年間スケジュールが決まっているのですよ。4時間に及ぶ大作映画の放送ですから 思いつきで放送できるというものではありません。たまたま2月11日が 「整理解雇」問題の最中だったということだとおもいます。
  それにしても タイムリーな企画でした。日テレ「金曜ロードショー」の株が上がったのは間違いありません。日テレ出身者としては うれしいですねえ。
 
  この2ヶ月近くの間、いろんなことがありましたが、放送する側の「見識」についてあらためて考えさせられましたね。


 

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