仲築間卓蔵/元日本テレビプロデューサ-/連載「六日のあやめ 十日の菊」(85)

『臨界幻想2011』(青年劇場公演)が問うもの 12/05/24

『臨界幻想2011』(青年劇場公演)が問うもの

仲築間卓蔵 (元日本テレビプロデューサー)

 

 5月22日(火) あいにくの雨模様。
  にもかかわらず、新宿・紀伊国屋サザンシアターは満員でした。
  青年劇場の『臨界幻想2011』です。

 この日の舞台は、予鈴 本鈴なし。
  開幕前から東日本大震災による被災の模様がスクリーンに映し出されます。破壊された福島第一原発、うず高く詰まれたままの瓦礫・・・・・。画面は、静かな(開幕に向けての)導入効果になっています。客席も、そのことに気づいたのか、私語もなくなり、やがて静かになりました。
  舞台は、原発で働く青年の死からはじまります。
  原発を「未来の産業」とあこがれ、原子力発電所に就職して7年目のことです。
  死因は心筋梗塞。
  残された母親は、息子の本当の死因は何だったのか・・・疑問を抱きはじめます。
  暴力沙汰・・・因果関係を認めようとしない医師・・・内部告発・・・電力会社による口封じ・・・。
  しかし、やがて隠されていた真実があきらかになっていきます。

 ふじたあさやさんの「臨界幻想」は、千田是也さんの演出で1981年~82年に全国公演されていたのです。知りませんでしたねえ。
  今回はふじたあさやさん自身の演出になるものです。
  芝居のテンポのよさに感心しましたねえ。一人何役ももたされた俳優さんは大変だったと思う。急いで衣装換えしている舞台裏を想像するだけでもスリルがありましたよ。
  母親役の藤木久美子さんは敢闘賞ものです。

福島明夫さんが劇団代表になったのを知ったのは つい最近です。製作ごくろうさまです。
  休憩時間に旧知の俳優・後藤陽吉さんに(久しぶりに)会うことができたのも「臨界幻想」のおかげです。客演ででも舞台に立ってほしいねえ。

 舞台は、これから果てしなくつづくであろう「放射能」とのたたかいを予言するように終わります。
  福島では、いま、放射能という言葉は”ご法度”だといいます。
  放射能問題は、いまや「虎の尾」になりつつあります。
  大手メディアが避けて通るなら、身近な小さな(地域や職場の新聞など)オルタナティブメディアで「放射能」問題を追及しつづけることが大事でしょう。
  青年劇場の『臨界幻想2011』は、いわゆる商業演劇ではできないオルタナティブ(もう一つの)演劇です。
  来年には全国公演を考えておられるようですが、可能ならば早めてほしいものです。これは青年劇場の「当たり芝居」になるにちがいありません。


 

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