高橋邦夫/映演労連フリーユニオン委員長・映画人九条の会事務局長/持続可能な社会とエネルギー ──ドキュメンタリー映画「ミツバチの羽音と地球の回転」11/02/20
高橋邦夫(映演労連フリーユニオン委員長/映画人九条の会事務局長)
「ヒバクシャ 世界の終わりに」「六ヶ所村ラプソディー」と被曝の問題を追い続けてきた鎌仲ひとみ監督が、新たに作り上げたのが「ミツバチの羽音と地球の回転」。舞台は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島──山口県上関町・祝島だ。
おばあちゃんたちも島内デモで“原発反対”
映画は、祝島の海岸でヒジキを採る島のおばあちゃんたちの明るい姿から淡々と始まる。だがこの祝島では28年間、島を挙げて原子力発電所の建設反対運動が闘い続けられてきた。1982年に中国電力が島の対岸わずか3.5kmの上関町田ノ浦に、2基の原発建設計画を発表したからである。
映画は、数年前に島に戻ってきた若夫婦を中心に、平均年齢75歳という島民の生活や闘いを描き出すが、凄いのは原発反対運動が日常生活にしっかりと定着していることだ。なんと、おばあちゃんたちによる島内デモが毎週1回行われているのだ。
祝島の自然は豊かだ。海では多様な魚が獲れ、海岸ではヒジキやワカメなどが採れる。オレンジの自由化でみかん業は壊滅状態になったが、島民の頑張りで農業も続き、無農薬のビワも生る。島民は、貧しいながらも自然とともに「持続可能」な社会を作って来たのだ。そう、この映画のテーマは、この「持続可能」な社会とエネルギーの在り方だ。
映画は中盤からスウェーデンに飛ぶ。最北端にあるオーバートーネオ市では、すでに電力の半分を自然エネルギーでまかなっている。スウェーデンでは、電力を自由化することによって、市民が風力発電など環境に良い電気を選ぶことができるのだ。スウェーデンのエネルギー庁長官は「日本は新しいエネルギーを拒むバリアーを外せ」と語る。
電力を一部の巨大企業が独占し、原子力発電を強引に推し進めてきた日本の、愚かしいほどの後進性が浮かび上がってくる。
たたかい続けて未来に希望を
映画は後半、中国電力が埋め立て用のブイを海に投入しようとする場面になる。海上に連なる小さな漁船がそれを阻止しようとする。この映画のクライマックスだ。
「このまま第一次産業だけでこの島が良くなると本当にお考えですか。人口は年々減っていって、お年寄りばかりの町になっているのは、皆さんが一番おわかりだと思います」
中国電力の船の舳先に立った中国電力社員がスピーカーで繰り返す小賢しい説得に、島民は怒りをぶつける。見ている私にも怒りがこみ上げてくる。
監督は、この映画で「希望」を描きたいと言った。埋め立て用のブイまで投入され、祝島の人びとに希望はないように見える。しかし島の人びとはあきらめない。あきらめずに闘い続けることで未来に希望を掴もうとしている。「ミツバチの羽音は小さくても、地球の回転にすら影響を与えているかもしれない」という監督の思いが、映画からしみじみと伝わってくる。ドキュメンタリー映画の秀作だと思う。
この映画はすでに全国で公開が始まっているが、東京では2月19日から渋谷ユーロスペースでロードショー公開される。
*2011年2月15日発行の「月刊全労連」に掲載。見出し、小見出しは編集部。