丸山重威 (関東学院教授)【いまを読む−若者のためのメディア論】(3)

Change! と Yes! We Can! 若者が加わった「憲法ひろば」の集会から(1)

 

 


Change! と Yes! We Can!

若者が加わった「憲法ひろば」の集会から(1)

 

 私は東京の西部、世田谷と府中に挟まれたあたり、調布市に住んでいますが、ここにも「九条の会」があり、通称「調布憲法ひろば」と呼んでいます。ことしは12月13日に、結成4周年記念集会が開かれました。

 

 昨年は市内在住の奥平康弘さんの講演だったのですが、ことしは市内の演劇集団の公演をメーンに、いろんな市内の団体が活動を報告したり、素人芸の出し物をしたり、楽しい会になりました。ちょうど学生たちの「ピースナイト9」ですか、早稲田の集会の翌日でしたが、障がい者の支援活動をしている若者や、原水禁大会などに行った市内のいくつかの大学の学生など、若い人たちが結構参加してくれたことがみんなに勇気を与えました。

 

 演劇集団「人」の公演では、ジョン・レノンの「イマジン」の詩の自由訳が朗読されたのですが、若者のグループからは、「想像してごらん、9万7,000という人の死を…」というイラク戦争のことを歌う替え歌も出て、「想像してごらん、戦争も兵器もない世界を」というレノンの呼び掛けが、何度も繰り返されたのも印象的なことでした。

 

 世話人の一人であることもあって、「プログラムにこの1年の報告を載せよう」という話から議論が始まり、「問題提起」という文章を書きました。最初の原稿はそんなに長くはなかったのですが、メールで「ここはわかりにくいから丁寧に」「この問題もあるだろう」など、何人かの方の意見を聞きながら書いて行くうち、ちょっと長いものになり、結局「個人的意見」ということで発表することになりました。

 

 こうした議論でもわかるように、私たちは、会の運営からそこでの提起まで、徹底的に議論しながらやっています。今の情勢をどう見るか、何が大切か、集まった人数だけ、意見が出ます。「日本人は議論が下手だ」とよく言われます。PTAでも町内会でも、違う意見を出すとどうも居心地が悪くなる。私にもそんな経験があります。

 

 私たちが「九条の会」を「憲法ひろば」と呼んでいるのは、みんなが違うことを前提にして話し合い交流しあおう、と考えたからなのです。あくまで「事実」に忠実に、「事実」に基づき、みんなで意見を出し合って議論する。私はそんな議論が本当に大切だと思うのです。

 

 以下はその文章のほぼ全文です。取りあえず、現時点出、今年を振り返ってみる意味で、読んでいただきたいと思います。(「調布憲法ひろば」のホームページにもあります。)

 

 

 

 

  そう、私たちもできるんだ! 「改憲問題」の現状と課題

         − 問題提起に代えて−

             

 2008年は、世界にとっても日本国憲法にとっても、記念すべき転換点に立つ年になりました。

 

 「九条の会」は全国で7,000を超し、春の読売新聞の世論調査では「憲法は変えない方がいい」という意見は、15年ぶりで「変えた方がいい」を上回りました。日本国憲法がうたう「非戦・非武装」の精神は、国際的に広がり「九条世界会議」を成功させました。

 

一方、日本の政権は、小泉さんに続いて安倍さん、福田さんとたらい回しされ、9月には麻生太郎首相が登場しましたが、3年後の消費税アップを公言する一方で、選挙目当てのばらまき給付金問題や、道路財源、補正予算問題などで迷走し、支持率も下がって、既に「政権末期」と言われるに至っています。

 

▼オバマ氏の登場とアメリカ型資本主義の危機

 

 世界では依然として、アフガニスタン、イラクで戦争が続いていますが、国際的な批判や米国内での矛盾が深まった結果、ブッシュ大統領もその誤りを認めなければならなくなり、米国民は、「チェンジ」=「変革」を唱えるアフリカ系米国人として初めて、民主党のバラク・オバマ候補を、来年1月20日就任の次期、第44代大統領に選出しました。

 

既にいろいろな形で論評されていますが、オバマ政権が誕生したからといって、アメリカの政策がすぐ大転換するわけもありませんし、またそうできるわけがないことは確かです。

 

 彼はイラクからは「16ヵ月以内の撤兵」を公約したものの、アフガニスタンには「増派が必要だ」といっていますし、本人も、民主党の綱領でも「核兵器のない世界をめざす」と表明し、「ロシアとの軍縮交渉に入る」とも言っていますが、いますぐすべての核兵器を廃棄するわけではないし、日米安保についても、もちろん「廃棄する」などとは言っていません。

 

 オバマ新大統領が、ヒラリー・クリントン国務長官やブッシュ政権から引き継いだゲーツ国防長官を指揮して、これまで米国が取ってきた「先制攻撃・単独行動主義」と独善的な外交姿勢を変え、軍産複合体と多国籍企業を抑えて、「国際協調路線」への「転換」を本当に図っていくことができるかどうか。本人も語っているように、それは容易なことではないし、時間がかかる仕事だと思います。

 

 しかし、かつて奴隷制度があり、学校や公共施設だけでなくバスの中でさえ黒人と白人が分けられて生活しなければならなかった状況を変えた「公民権闘争」の中で、マーチン・ルーサー・キング牧師が、「私には夢がある」と、黒人の子と白人の子が同胞として同じテーブルにつく日が必ず来るのだ、と語ってから45年。依然として課題は数多く残っていますが、米国では以前「夢」だったことの第一歩が刻まれ始めているように思います。人々の声が結集するとき、みんなが願う方向は必ず実現することができる、ということを実現させたことが、米国と世界の人々に、希望と勇気を与え、こんなに騒がれているのだと思います。

 

 歴史学者のハワード・ジン氏は、クリントン国務長官やゲーツ国防長官の起用に疑問を呈しながら、米国の政治を変えるためには「大規模な国民の社会運動が不可欠だ。オバマ氏や議会に対してそれを要求して迫っていく運動こそ必要だ」と語っています。まさに、さまざまな形での「抵抗」を押し破って、彼に多くの障害を乗り越えさせ、国際協調と軍縮・平和への政策に進ませる力は、米国民の運動だと思いますし、私たち国際世論の力だということも、確認しておきたいと思います。

 

 「カジノ資本主義」と呼ばれた金融バブル経済は、破綻を見越した低所得者向け住宅ローンの問題から、老舗の投資銀行リーマンブラザースの倒産、世界同時株安へと続いて、既に米国や先進国だけでは解決することができなくなってしまいました。11月に、新興国を交えた「G20」が開かれて、そこで対応せざるを得なくなったのはその表れです。

 

 夏の「洞爺湖サミット」でも、新興国やアフリカ諸国を招いて拡大会合が開かれましたが、世界は世界人口のわずか13%くらいしか代表しているに過ぎない8つの国(G8=米、英、仏、独、伊、加、露、日)の代表だけでは、環境問題を一つとっても、問題を解決することができなくなっているのです。冷戦が終わって20年近く、アメリカ唯一の超大国として世界を動かし、「アメリカ型グローバリズム」などと言われてきました。

 

 米国人たちにとっては、多分全くの「善意」だったその政策が、世界中で様々な矛盾を生み、それに反対する途上国や新興国の人々の切実な声が、NGO(非政府組織)を動かし、それぞれの政府を動かし、世界を動かし始めているのだと思います。

 いま、米国が、そして世界が、大きく変わろうとしているのではないでしょうか。

 

 昨年の「憲法ひろば」3周年記念の集会で、奥平康弘さんが「憲法九条を変えようという企てを阻止することができれば、私たちは歴史上初めて、国民が主人公になるという新しい日本の歴史を創ることになる」との趣旨を語っておられましたが、もしかしたら私たちはいま、世界中で君主や独裁者ではなく、ごく普通の国民が声を出して、世界を動かしていく世界史的な時代に生きているかもしれない、と思うのです。
(続く)

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