視角/ 丸山重威 (関東学院大学教授) (JCJジャーナリストより転載)12/08/17

 

ジャーナリズムが変わる

 JCJ賞に選ばれる作品や活動は、常に時代を象徴し、いまのジャーナリズムの意味を問い返している。今年とりわけそんな思いが強いのは、メディアが総体として時代に追いつけない中で、それを打ち破る作品だったからだ▼大賞の東京新聞「こちら特報部」は、発表などを追って結局それに縛られるのではなく、あくまでも自分たちの発想と感覚を基に事実を追い、真実に迫った。それが新聞全体を変え、読者の信頼を得てきている。琉球新報の「オフレコ破り」は「記者とソースの約束」という既成のオフレコ論に「読者の知る権利」という、考えてみれば当たり前だが意識されなかった新たな視点を提唱した▼白石草さんたち「アワプラ」の受賞は、まさに「オルタナティブ・メディアを無視できなくなった情勢」の現れともいえる。「NNNドキュメント12」は、最も深刻な放射性廃棄物の処理問題をネットワークを生かして提起。「ネットと愛国」は、危うい日本社会そのものを描いた。そして「横浜事件」の記録は、直面する「秘密保全法」の闘いにつながる▼柄谷行人氏が「世界」9月号で「デモで社会は変わる、なぜなら、デモをすることで、『人がデモをする社会』に変わるからだ」と書いている。デモを忘れてきた日本社会も、いま、「デモをする社会」に変わりつつある。メディアも、送り手と受け手が重なり「みんながジャーナリストになる時代」に変わりつつある▼賞を考えることは、ジャーナリズムを考えることだ。そこに変革への示唆も含まれている。