視角/ 丸山重威 (関東学院大学教授) (JCJジャーナリストより転載)13/08/13

 

「静かなクーデター」

 

 「参院選が終わったら集団的自衛権や9条改憲が出てくる」―安倍首相の戦略をそう読んだ識者は多かった。だが、選挙の余韻が残るうちにいきなり出てきたのが法制局長官の交代だった▼意表を突いたわけではない。防衛大綱の改正で「専守防衛」を捨てる布石は打った。次は、日銀総裁を黒田東彦氏に替えたのと同じ、憲法9条政府解釈変更派の長官にクビをすげ替える。ナチスの手口を勧める麻生副総理も、「軍法会議には死刑も」という石破幹事長も、当然ながらおとがめなし。テンポは速い▼考えてみれば憲法9条の政府解釈は、軍隊を持たないとする憲法9条と自衛隊を両立させる「積み木細工」だ。①戦争放棄のため陸海空軍その他の「戦力」は持たない。②その「戦力」は「近代戦を遂行できる戦力」で、自衛隊はそこまで行っていない③自衛権はどの国にも誰にもあるから侵略に対抗する。だから「専守防衛」④一緒に戦争に巻き込まれるのは困るから「集団的自衛権」の行使も、海外派兵もしないし、核兵器も持たない▼ざっとこんな感じ。とても、その通りとは言えない理屈だが、実はこれが、対米従属の中でも日本が米国の戦争に参加せず、何とか平和を守ってきた論理だった。「護憲」を高らかに掲げないが、ここには「法匪」と言われながらの法律家や政治家の「良心」があった。法制局はその一つの砦だ▼「憲法改正は静かに…」と麻生さんは言った。次は安保法制懇報告、答弁の変更、安全保障基本法案…。始まった「静かなクーデター」への闘いを急ごう。