視角/ 丸山重威 (関東学院大学教授) (JCJジャーナリストより転載)15/11/23

物言えぬ社会

 「『ニュース23』の岸井成格氏の『メディアとしても安保法案の廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ』という発言は、テレビ局を代表するものであり、放送法違反だ」―。14日と15日、産経新聞と読売新聞に掲載された「放送法遵守を求める視聴者の会」(呼び掛け人・渡部昇一上智大名誉教授ら)の全面意見広告は、いよいよ「言論に対するテロ」の時代が始まったか、と感じさせる▼テレビのニュース番組で意見表明することを「違法な発言」として糾弾する。「違法な報道を見逃せません」と大見出し、「私たちの『知る権利』はどこへ?」と世論喚起を図る。広告では総務省に「全体から見てバランスがとれているか判断することが大切」という総務大臣見解の見直しを要求。ネットでは公開質問状で、局や岸井氏個人の回答も求めている▼一方で、議員会館の集会に参加する市民のバッグに「アベ政治を許さない」のステッカーがついていたら、「外せ」と強要されたという。「なぜですか?」と聞いてもまともに答えられない。学者の会とシールズが共催した集会は「学問に無関係」と立教大学が会場使用を断った。練馬区は主催団体に地元の九条の会が入っていたとして映画会の「後援」を拒否した▼じわじわと狭められる言論の自由。進む物言えぬ社会…。攻撃は当たり前の発言への個人攻撃まで進んだ。そしてその先兵に読売、産経が立っている。「表現の自由を攻撃する表現」は「表現の自由」ではない。読売、産経に「表現の自由」を語る資格はない。
  戦争法が成立して1カ月余。安倍首相は「アベノミクスは第2段階。参院選では改憲がテーマ。一億総活躍社会を作る」と宣言。全員「日本会議」の右派総結集で内閣を作ったが、デモと追及を恐れ憲法に基づく臨時国会召集も拒否。一方、運動の側は「これからが闘いだ」と、毎月19日の総掛かり行動など大小集会が目白押し。「野党協力を」の声も強まっている▼国会を逃れた首相が国連で打ち上げたのは「法改正で一層の国際貢献が可能になった。常任理事国に入れて」という大国主義。非常任理事国には当選したが、難民受け入れを聞かれると「人口問題として言えば我々は移民を受け入れる前に女性の活躍と高齢者の活躍」という恥かしい答えだった▼なぜこんなに一生懸命分からないが、米財界の「代貸し」になったTPPでは、農産物95%、工業製品100%の関税撤廃。怖いのは進出企業万能の「投資家対国家紛争解決」(ISDS)制度や、特許、保険など重要項目だが、すべて説明しないまま。ことは「日本の文化」の問題だ▼辺野古問題では翁長知事が埋め立て認可を取り消したが、防衛省は執行停止と異議を申し立てた。国の異議申し立てを別の省が審査するというあり得ない措置だ。改造人事では「うちわ」でなく「カレンダー」を配った閣僚、補助金を受けた企業、指名停止の企業からの献金を受けた閣僚各1人、昔の「下着ドロ」疑惑の閣僚も1人▼国会召集要求拒否はそのまま民主主義と立憲主義の不在を示している。やっぱり、安倍内閣は退陣しかない。