池田龍夫/ジャーナリスト・元毎日新聞記者/中・韓首脳会談での対日批判を憂慮ない 14/07/07

              中・韓首脳会談での対日批判を憂慮

                        池田 龍夫 ( ジャーナリスト ・元毎日新聞)

 中国の習近平国家主席は7月3~4日訪韓し、朴槿恵大統領と会談した。中国国家主席が就任後北朝鮮に先立って韓国を訪問したことは初めてで、中・韓連携の表れであろう。

  同盟国・米国とのバランスに腐心する韓国
  日本とともに米国の同盟国である韓国は、日・韓関係や対米関係を配慮して、首脳会談後の共同声明には歴史問題への言及がなかった。付属文書で慰安婦問題に関する共同研究が盛り込まれるにとどまった。毎日新聞5日付社説は、「韓国は米国との同盟関係を重視しつつ経済関係の拡大が続く中国との間でどうバランスを取るかに腐心している。中韓の貿易総額は日韓と米韓の合計よりも多くなったが、北朝鮮の野核、ミサイル開発が続く中、安全保障面で在韓米軍に頼る構造に変わりないからだ。(中略)日本が拉致問題の解決に取り組むのは当然だが、北朝鮮が対日関係に活路を求めているという構図を忘れてはならない。重要なことは、朝鮮半島の安定を保ちながら、『北朝鮮の核開発阻止』という日米韓と中国の共通の目標を優先し、北朝鮮への対応がおろそかになっては元も子もない」と指摘した通り、「半島の安定が最優先課題」である。

  来年は終戦70周年
  今月下旬に、日清戦争開戦120年を迎える。思い起こすのは、朝鮮半島にいる自国民の保護との名目で、日本軍が出兵していた歴史である。「『日本の軍国主義は中韓両国に野蛮な侵略戦争を発動した』。4日、習氏は訪問先のソウル大学で訴えた。共産党政権は格好の口実を得た形で、来年の終戦70周年に向け、対日反の宣伝を強めている。(中略)安倍政権のやるべきだったのは、この地域の民の感情に気を使い、説明を尽くし、不信を解いていく努力ではなかったか。十数億人に上る東アジアの人々を敵に回すような『抑止力』はむしろ、日本の安全を脅かしかねない」(朝日新聞5日付朝刊)との警鐘に、耳を傾けたい。

  「宿題」を突きつけられた安倍政権
  ソウル5日発時事電もまた、「中国の習近平国家主席の韓国訪問は、米中間で対応に苦慮する朴槿恵大統領の姿を浮き彫りにした。当初は米国を意識して対日批判を自制したが、翌日には中国との『共闘』を発表。中国とほぼ同様の反日的な韓国世論を背景に中国と歩調を合わせる形となり、『国内人気のために外交を犠牲にし』(韓国紙京郷新聞)との懸念の声も上がった。3日の首脳会談後に発表された共同声明や共同記者会見では、日本への言及はなく、声明の『付属文書』で慰安婦問題に関する民間レベルの共同研究を盛り込むにとどめた。1日に日米韓の制服組トップによる会合を開催するなど、日米韓の連携にくさびを打ち込もうとする中国を警戒する米国に配慮したとの見方が一般的だ。
  これに対し、中国は3日夜、国営メディアを通じ、習主席が、中国の『抗日戦争勝利』と朝鮮半島『解放』から来年で70年を迎えるのに合わせ、共同の記念活動を提案したと一方的に発表。習主席は4日午前の講演で「20世紀前半に日本軍国主義者が中韓に野蛮な侵略を強行し、両国民は生死を共にして助け合った」と、対日「共闘」を呼び掛けた。
  韓国は結局、共闘を求める中国の圧力に抗し切れず、大統領府は4日午後、日本の河野談話検証、集団的自衛権行使容認、対北朝鮮制裁解除などで両首脳が懸念を共有したと発表。直前にテレビ出演した趙太庸外務第1次官は「日本について協調する姿を対外的に見せるのは望ましくない」と述べており、政府内の十分な意思統一が図られないまま発表した可能性が高い」と同様な見方を示していた。
  安倍政権がこの動きをどう捕らえたか。従軍慰安婦、歴史認識などに宿題が突きつけられた格好だが、東アジア安定のため明確なビジョンを打ち出してもらいたい。
           (いけだ・たつお)毎日新聞0B、元紙面審査委員長など。