池田龍夫/ジャーナリスト/イラク戦へ流用疑惑ー「インド洋給油」の徹底解明をー07/11/01


 


       イラク戦へ流用疑惑
   ー「インド洋給油」の徹底解明を

       池田龍夫(ジャーナリスト)

 安倍晋三政権突然の瓦解によって誕生した福田康夫新政権から一カ月余、衆参ねじれ現象≠フ混乱は依然つづいている。ポピュリズムと復古調を綯い交ぜにした小泉→安倍政権六年の荒廃が社会に澱んで、庶民の嘆きがあちこちから聞こえてくる。

  こんな中で10月1日、福田首相初の所信表明演説で臨時国会の論戦が再スタートした。福田首相は「自立と共生」「安心と希望」のスローガンを強調し、施政方針でも国会質疑でも「野党と重要な政策課題について誠意を持って話し合う」と繰り返し述べて、対話重視の姿勢をアピール。 小泉・安倍政権と打って変わった様変わりで、低姿勢の新政権スタートとなった。

しかし、前政権からの負の遺産≠ェ重くのしかかる現状をどう打開するか、思い切った抜本策を提示しない点に不満が残る。新聞各紙は「劇場政治」から脱皮して地味で落ち着いた政権に戻ったことを評価しつつも、「新政策展開の具体性に乏しい」と、一様に論評していた。
 
  とにかく、年金・医療・教育・政治資金問題などのほか、外交・防衛をめぐる諸懸案が山積している。今月号では、当面の「テロ特別措置法」(11月1日で期限切れ)の動向に絞って考察を試みたい。
「テロ特措法」については、9月号本欄でも取り上げたが、隠されていた実態がその後次々明るみに出てきており、それらの情報を踏まえて、問題点を指摘したいと思う。


     間接給油=c海自→米補給艦→空母


 
 「自衛隊給油をイラク戦争に転用?」という重大な問題提起に衝撃を受けた。江田憲司衆院議員(無所属)がテレビ朝日「朝まで生テレビ」(9・1未明放映)で指摘した問題で、大きな波紋を巻き起こしている。内容は、江田議員のHPに詳しく掲載されているので、主要部分を紹介しておく。

 「海上自衛艦による燃料補給は、インド洋の海上阻止行動『不朽の自由作戦』にとどまらず、イラク戦争『イラク自由作戦』に従事する艦船にも、間接給油されているのではないかとの強い疑念を提起した。米海軍中央司令部&第五艦隊HPの一部と思われるサイトに、『イラク自由作戦』として『有志連合の貢献』の項目があり、『日本政府は、不朽の自由作戦の開始以来、86.629.675ガロン以上の燃料(7.600万j以上相当)を貢献した』と書かれている。

  これが真正なHPで事実とすると、リットル、円換算で約33万`g(80億円)となる」(注=このHP記述に現在アクセス不能)。

 ただ、江田議員は「この数字は、イラク、アフガン渾然一体となった統計の数字ではないかとも考えられる」と指摘し、「この米海軍HPの真偽を含めて、事実関係を今後精査、検証する必要がある。米国も機密情報を含めた情報開示をすると言明しているのだから、国会で真実を解明していきたい」と述べている。

 最新の防衛省資料に当たった結果、2001年12月から今年8月30日までに海自補給艦が提供した給油量合計は48万4,000`gで、このうち79・5%に当たる38万5,000`gが米艦船向けで、金額合計220億円の74%に当たる162億円分の油が米艦船に無料提供されていることが確認できた。「江田証言」を裏づける給油実態だったことは間違いなかろう。

 政府は10月2日の閣議で江田議員の質問趣意書への答弁書を決定したが、米艦船に給油した合計38万5,000`gのうち、洋上警備に当たっている米駆逐艦への直接給油より米補給艦への間接給油がはるかに多い実態が明らかになったことは重大。間接給油量が何と全体の六割強、23万6700`gという。これによって、補給艦から空母キティ―ホークなどへ再給油され、イラク戦争に流用されたとの疑惑がますます深まった。
 
  さらに、米軍のイラク戦争流用を裏書きする米側資料が明るみに出た。NPО法人ピースデポが米国の情報公開制度を活用し、キティーホークの航海日誌を調査した結果で、9月20日と10月4日に記者会見で発表された。調査報告の責任者、梅林宏道代表が寄稿した一文(朝日10・4朝刊)からリアルな実態を引用し、参考に供したい。

 「キティーホークの航海日誌などを調査した結果、03年2月25日に海自『ときわ』から米給油艦『ペコス』に約80万ガロンの燃料が給油され、ペコスがその後キティーホークに直行して同じ日に給油していたことが判明した。キティーホークはそのままペルシャ湾に向かい、イラクの南方監視作戦(ОSW)とイラク自由作戦(ОIF)に従事していた。

  日本政府は当初、提供量を20万ガロンとしていたが、私たちが会見で指摘した翌日の9月21日に、誤りを認めて80万ガロンに訂正した。その間、同艦はペルシャ湾の奥深くに展開。この場所から、アフガンでの対テロ戦争に従事していたと主張するのは極めて困難だろう。重要なのは、流用はこの日のキティーホークに限ったことなのかという点だ。

  アフガニスタンとイラク、さらにはイランをも睨んだ作戦で、従事する艦船を分ける理由はない。福田政権はこの疑念をいかに晴らすのか」。
 また、米中東軍のホームズ作戦部長は10月3日ワシントンでの記者会見で、「給油を受けた米艦船に対して給油後の活動はアフガン関連の『不朽の自由作戦』に限ると指示を出しているか」との質問に対し、「そうした指示は承知していない」と言明している(毎日10・4夕刊)。

 イラクやアフガンなどでの軍事行動を管轄している米中東軍責任者の発言だけに、「イラクの自由作戦」への流用を言外に認めたと勘繰れる。

     ペルシャ湾で不可解な米空母の航跡

 

 11月1日に時間切れとなる「テロ特措法」延長が不可能となったため、政府与党は急きょ「新法」を国会に提出、インド洋給油の国際公約′p続を図る方針だが、このために11月10日までの臨時国会の会期延長は必至である。

  10月9日、緊迫の中で開かれた衆院予算委の冒頭、福田首相は「海自の給油活動は憲法九条が禁じる武力行使に当たらない」と述べ、小沢一郎民主党代表の「給油活動は国連決議に基づくものではなく違憲だ」との主張を真っ向から批判した。

  続く10日の同委員会での菅直人議員(民主党代表代行)の追及は厳しく、03年官房長官だった福田氏の間違った答弁を撤回させる一幕も。防衛省が最近になって当時の給油量を20万ガロンから80万ガロンに訂正したため、シャッポを脱がざるを得なかったのだ。

  政府の情報隠し≠フボロが出て、石破茂防衛相はついに「間接給油された米空母キティーホークがペルシャ湾内で活動していた」との苦しい答弁。しかし、「イラク戦への燃料転用はなかった」との弁明を繰り返した。

  一方、日本の給油継続を期待している米国防総省は10日「キティーホークに給油した燃料は、アフガニスタンでの『不朽の自由作戦』で使用され、イラク戦争に転用した事実はない」と異例の否定声明を発表した。日米が口裏合わせしたような印象である。
 「空母の艦載機がペルシャ湾内からアフガンまで飛ぶには、国交のないイラン上空を飛ばなければならない。それは無理だろうから、大きく迂回して飛んだことになる。

  事実なら、なんとも不自然だ。そもそも、空母がイラクに向かってペルシャ湾を航行すること自体が、イラク作戦のための行動であり、テロ特措法の目的から外れているように見える。さらに深刻なのは、転用疑惑の対象がこの空母の件だけなのかという点だ。

  給油を受けた米艦の六割が補給艦である。その先にどう使われたのか、給油活動全容についてデータを開示しなければ、判断のしようがない」との指摘(朝日10・11社説)は的を射ている。「給油ストップは、国際信用を失墜し、国益を損なう」と強弁して、疑惑解明の動きに蓋をすることは許せない。

 いずれにせよ、11月1日「テロ特措法」は失効し、インド洋給油は中断せざるを得ない。そこで政府は「給油・給水活動」だけに限定した「新特措法」によって打開を図る方針だが、イラク戦への給油転用疑惑♂明を迫る野党が、原則的姿勢を崩すことはあるまい。従って臨時国会終盤は波乱含みで、参院で否決された法案を、衆院で再議決できる「三分の二条項」を行使するかどうか、福田内閣にとっての重大局面になってきた。

 激しい攻勢を仕掛ける民主党だが、小沢代表は月刊誌「世界」(11月号)に掲載した論文で「国連決議に基づいてアフガンで活動している国際治安支援部隊(ISAF)への参加は違憲ではない」と強調。国際貢献をめぐる論争は、さらに白熱化するに違いない。 このぺーじのあたまにもどる