池田龍夫/元毎日新聞・ジャーナリスト/(46)クラスター爆弾禁止、核廃絶を 軍縮への潮流が強まる/09/01/02
池田龍夫=ジャーナリスト
2001年発足した米ブッシュ政権は2期8年にわたり軍事大国・金融大国として世界に君臨してきたが、「驕れる者久しからず」の理どおり、内外の信用を失墜して敗退。「パックスアメリカーナ」終焉を印象づけた。
新年早々、共和党に代わって第44代米大統領に就任する民主党オバマ氏は、荒廃した世界を“Change”できるだろうか。軍事的・経済的混乱を克服する道は険しいが、オバマ政権の行動力に期待する声は高い。
アフガニスタン・イラク戦争の早期終結、貧困・飢餓からの脱却は、人類共通の課題である。米国の独善的一国主義に代わるドラスティックな国際的枠組みの構築こそ優先課題だが、軍事費削減→民生安定への処方箋づくりに衆知を集めなければ今世紀の将来は危うい。
新年第1号となる本稿では、軍縮をめぐる国際会議を中心テーマに据え、自衛隊・防衛問題などについての考察も試みたい。
「オスロ条約」 100ヵ国超す署名
昨年末の国際会議で採択された二つの「軍縮決議」は、混迷する国際情勢に対する貴重な警鐘であり、各国が目指すべき指標を提示した。
先ず、クラスター爆弾禁止へ向けた国際的連帯が一段と高まってきたことに注目したい。「オスロ条約」と称される「クラスター爆弾禁止条約」署名式が2008年12月3日オスロで開かれ、4日の閉幕までに署名国数は、日英独仏など94ヵ国に達した。今後の署名受付は国連本部に移るが、数週間以内に百カ国を超える見込みだ。
空中から多数の子爆弾を落として市民を殺戮するクラスター爆弾の恐怖は、アフガニスタン、イラク、レバノン、グルジア紛争などで全世界を震撼させている。「禁止条約」発効には30ヵ国以上の批准を要するが、09年中の発効が期待されている。
「使用、開発、製造、保有、備蓄、移転の即時禁止▽発効8年以内に保有在庫を廃棄▽自国の管轄・管理下の地域に残る不発弾を10年以内に除去し廃棄▽被害者に医療、社会復帰、心理的な支援を提供」を骨子とした画期的条約だが、「子爆弾が10個未満で目標への誘導装置、電子的自己破壊装置などの機能すべてを備えたものは禁止対象外」との妥協的一項が盛り込まれている。
「オスロプロセス」は、CCW(特定通常兵器使用禁止制限条約)とは別の枠組みでクラスター爆弾規制を論議するため、ノルウェー、アイルランドなどの有志国とNGOの呼びかけで07年2月に発足した。
日本の姿勢は当初消極的だったが、条約案賛成に舵を切り替え、今回の決議で禁止対象外≠ニされた最新型爆弾導入も拒み、文字通り「全廃」を表明したことに賛意を表したい。
クラスター爆弾の主要生産国・保有国である米国、中国、ロシアなどが署名式をボイコットしている現状を見て、実効性は期待できないと冷ややかに論評する向きも少なくないが、国連加盟国(192ヵ国)大多数の使用禁止決議に反して、残虐な爆弾を投下し続けられるだろうか。156ヵ国に支持された「対人地雷禁止条約」(1997年)にも米国は、いぜん同調していないが、使用を控えているのは事実。
中国も地雷輸出を中止したと伝えられており、保有大国が無視しても対人地雷禁止条約に抑止効果のあったことが実証されている。従って、今回のクラスター爆弾禁止条約に、同様な抑止効果はあるはずで、殺戮兵器の防波堤の役割を果たすに違いない。
「『ノルウェーにとって日本は軍縮・不拡散問題での強力なパートナーだ』。署名式を前にオスロで中曽根弘文外相と会談したストーレ・ノルウェー外相が予期せぬ賛辞を贈った。旧来の軍縮の枠組みに依拠せず、各国政府が市民団体も加えて独自に関連のある兵器廃絶を進める方式に日本がもっと積極的に参加するよう求める意図がにじむ。日本が受身から脱し、軍縮の舞台に積極果敢に乗り出すことを望む声は世界に根強い」(『毎日』12.8朝刊)との指摘は前向きで、力強い。
「11年前に締結された対人地雷禁止条約で、日本政府は地雷除去や被害者救済にいち早く乗り出し、国際社会で高い評価を受けている。クラスター弾の被害者支援や不発弾除去でも、同様に積極的な貢献ができるはずだ。同時に米国、中国、ロシアなどクラスター弾を大量に保有する非加盟の40ヵ国に使用・移譲の停止を求め、条約への参加を促すことが必要だ。日本外交にその主導的な役割を求めたい。そうした外交努力が国際世論の大きな流れを生み、米中ロなどへの圧力となって条約に実効性を持たせることになる。『先例』を私たちは知っている。大量保有国の米国、中国などが加盟していないにもかかわらず、156ヵ国が加盟する禁止条約が国際規範、国際圧力となり、いまでは実質的に『使えない兵器』となった対人地雷だ」(西日本新聞12.5社説)。
国連総会・核廃絶決議に173ヵ国賛成
「オセロ条約」署名式前日の12月2日開かれた国連総会で、日本など58ヵ国が共同提案した核兵器廃絶決議案が賛成173、反対4(米、インド、北朝鮮、イスラエル)、棄権6(中国、イラン、ミャンマー、パキスタン、キューバ、ブータン)で採択された。昨年の170票を上回る過去最多の支持票であり、15年連続で核廃絶決議が採択されたことを高く評価すべきだが、“恒例行事”のような新聞各紙の扱い方に問題意識の欠如を感じた。
今年の決議は洞爺湖サミット(昨年7月)首脳宣言の表現を踏襲して「すべての核兵器国に透明性ある方法で核兵器削減を実施するよう呼び掛ける」と明記したにも拘わらず、米国、インド、北朝鮮がこれまで同様反対、前年棄権だったイスラエルも反対した。
中国は棄権したが、前年棄権したフランスは賛成に転じた。核兵器を保有する国連常任理事国のうち、英仏露3ヵ国が賛成、中国は棄権、米国がいぜん反対を続ける現状は何を物語るか。たとえ時間がかかろうとも、核廃絶へ向けた運動を世界各地で展開していかなければならないことを痛感する。
悔悟するブッシュ、オバマへの期待
ブッシュ米大統領は米ABCテレビのインタビュー(12.1放映)で「8年間に及ぶ在任中最大の痛恨事はイラクに関する情報の誤りだった」と述べ、イラク開戦(03・3)に踏み切る最大の理由とした大量破壊兵器がイラク国内に存在しなかったことを率直に悔やんだ。ベトナム戦争の愚を繰り返した米国の軍事大国主義の罪は大きく、中東各地域の混乱と恐怖は今なお続いている。
新生オバマ政権の重要課題は、軍事優先主義からの決別と市場原理主義がもたらした金融危機克服である。「大統領就任後の100日間が勝負」と言われるが、当面は経済建て直しに全力投球するに違いあるまい。だが、イラク、アフガニスタン紛争などの打開策も“待った無し”の急務だ。
クラスター爆弾禁止条約について、オバマ大統領政権移行チームのスポークスマンは12月四日「オバマ氏は新条約を注意深く再点検していく」と答えたと共同電が伝えていたが、確かにオバマ上院議員は06年「民間人居住地域におけるクラスター爆弾を禁じる修正法案」に賛成している。この一事を信じて、残虐兵器廃絶へ向けた米外交の方向転換に望みを託したい。
オバマ氏は、既にイラクから早期撤退して、対テロ戦争の照準をアフガニスタンに移すと表明しているが、今後の戦略にはなお疑念が残る。ただ、軍事力増強に狂奔したブッシュ政権の方針を転換して、国防予算削減に大ナタを揮うと観測されている点に注目したい。
「09会計年度の国防費(要求ベース)は5,154億j。このうち標的になるのはオバマ氏が早くから見直す考えを示しているミサイル防衛(104億j)だ。国防総省関係者によると、発射直後の弾道ミサイルを航空機に搭載したレーザーで撃破するエアボーンレーザー計画(実験段階)が凍結される可能性があるという。ポーランドへの迎撃ミサイル配備についても再検討され、『イージス艦による海上配備型への変更も視野に入れる』なども考えられる」と、『毎日』ワシントン電(12.3朝刊)が貴重な情報を伝えている。
オバマ新政権誕生で、ミサイル防衛システム導入など日米軍事協力強化の見直し、ひいては日本独自の「平和外交」の構築・推進に絶好の機会が訪れたと考えたい。「田母神・空幕長暴言」で右往左往するような醜態から脱却し、「平和憲法」を基軸とした外交戦略を早急に打ち出すべきである。