鈴木益邦/新聞OBの会幹事/憲法九条破壊の危険 「海外派兵」恒久法の策動
08/02/27
憲法九条破壊の危険
「海外派兵」恒久法の策動
鈴木 益邦(新聞OB九条の会幹事)
憲法九条を破壊する動きが一段と強められようとしています。自衛隊の海外派兵を政府判断で、何時でもできる一般法(恒久法)の法制化の動きです。政府与党と民主党も加わっての、この危険な動きに注目し、九条守る取り組みを一層強めましょう。
●いつでも、どこでも派兵
二月十三日、自民党は「国際平和協力の一般法(恒久法)に関する合同部会」を立ち上げました。同時に公明党とのプロジェクトチーム設置、調整をはじめました。合同部会幹部は「政府判断で、いつでもどこでも海外に自衛隊を派兵する法的枠組みをつくるもの」といっています。
政府与党が一月に「新テロ特措法」を衆院で再可決、給油が再開されました。多くの国民もメディアも反対、慎重審議を求めていたのです。再可決後の共同世論調査でも新テロ特措法反対46・7%、賛成38・8%でした。
ところが、日経は「与野党は恒久法合意へ論議深めよ」と社説を掲げ「再可決は当然、今後一年間で恒久法合意を」と呼びかけました。産経も「国際社会と共同歩調を 国益の実現に必要な再可決 恒久法ふくめ妥協点を見つける努力を」と注文したのでした。
給油再開で終わったのではなく、もっと恐ろしい策動が強められようとしています。それは憲法九条の「武力の行使、交戦権の否認」をくつがえしかねない「武器使用」「国連軍、米軍と一体の軍事行動」を政府判断でできるようにするという危険な恒久法づくりの策動だからです。
ご存知のように、民主党は先の国会で「新テロ特措法」に対する「対案」を提出、継続審議になり、今国会に引き継がれています。政府与党は予算を通した以降、これを機会に一歩踏み込む構えです。
●恐ろしい武器使用拡大
自民党の恒久法の「たたき台」は国際平和協力法案=石破試案です。
九二年のPKO法、九九年の周辺事態法、〇三年のイラク特措法、〇八年の新テロ特措法と今まで自衛隊の派兵が強行されてきました。いずれも国連決議、国際機関または国連加盟国その他の国の要請があれば派兵できるとしています。これを網羅した【人道復興支援、停戦監視、安全確保、後方支援】に加えて、新たに【警護、船舶検査、強制措置の一時的拘束、土地、建物、船車の立入り、停船命令】が加わります。武器使用も【やむを得ない場合の小型武器での生命・身体防衛に限定】から、加えて【小型武器、武器】【一時的拘束への妨害、排除防止、抵抗の抑止、停船命令に対する抵抗逃亡】などが拡大され、織り込まれています。また【多数集団に対して武器使用で鎮圧、防止、危険がある場合には殺傷を加えてよいなどの規定】もあり、「組織体としての戦闘行為=武力の行使」になるような、憲法九条を破壊し、海外での武力行使に限りなく近づくものです。
●国連決議ならいいのか
民主党のアフガン復興支援特措法「対案」の特徴は、人道復興支援に限定していますが、海上だけでなく陸上自衛隊の派兵もできる(四条)、海上阻止活動参加はその時々で検討(二七条)、恒久法の速やかな整備(二五条)を盛り込んでいます。派兵の根拠は「国連安保理の決議による」としています。慎重な構えのようですが、国連決議があれば何でもあり、武器使用可、恒久法づくりに手を貸すことに通じます。 国連決議による多国籍軍への参加は、イラク戦争で英、豪、韓国軍が同盟軍として参加したのと同様に、またアフガン國際治安部隊(ISAF)=有志連合・多国籍軍と同じように参加するなどして、米軍と一緒に武力の行使を可能にする道につながります。
●無茶な防衛危険な自衛隊
いま、米軍と自衛隊のでたらめさと危険性には、国民の厳しい批判が広がっています。与党、政府のなかでも「お粗末、何をやっているのだ」と批判が高まりました。ルール無視の漁船衝突など国民の生命財産の破壊、防衛省の隠蔽体質、癒着疑惑、政・官・軍需産業の腐敗、国民生活を省みない五兆円の無駄の多い軍事費、毎年六千億円のアメリカ言いなりの思いやり予算、三兆円の米軍再編の日本負担分(米国務次官発表、日本は未発表)これらの一つ一つが、憲法九条に違反、破壊している中で起こっているのです。
●草の根からの論議が力
それにしても、メディアが、これらの問題で国民の立場、憲法の立場から、ジャーナリズム性を発揮し、批判力を発揮していないことは困ったものです。
そのなかで北海道新聞は社説で「憲法を揺るがす議論だ 恒久法反対、憲法九条の改定や理念を踏み外す恐れ」と指摘。河北新報は「懸念されるなし崩し改憲」中国新聞は「平和国家の未来にかかわる 拙速は慎め」毎日は「駆け込み審議する性質のものではない (来年一月の)期限切れにらみ今の段階から慎重論議を」熊本日日「国民のコンセンサスが前提」と注文しています。
国民の中には、憲法九条の立場で危機感が広がっています。一方で「平和協力のためなら」「国連軍なら」「普通の国として軍隊を持つ」「専守防衛ならいいが、海外派兵はイヤだ」「アメリカ軍と一体は危険だ」など多様です。メディアがこの問題を真剣に取り上げるべきでしょう。また二年後をにらんだ憲法改悪の手続き法(国民投票法)の国会論議も、法相の「十八歳成年問題論議提案」自民党の憲法審議会の始動などが同時進行で画策しています。それだけに憲法九条の立場での草の根からの国民的議論がいよいよ大事になってきました。