鈴木益邦/新聞OBの会幹事/九条破壊の危険な現実 ―決して目をつぶってはならない自衛隊の変質―08/05/04


 


近頃の「自衛隊の変貌と九条」について考えた。何としても日米の「血の同盟」「海外派兵」で、殺しあう体制は押し止めたい。

九条破壊の危険な現実(上)
―決して目をつぶってはならない自衛隊の変質―

                   鈴木益邦 新聞OB九条の会幹事
【イラク派遣は違憲】
画期的な名古屋高裁判断が出た。「自衛隊空輸は他国の武力行使と一体の行動でイラク特措法と憲法9条に違反」「平和的生存権は憲法上の基本的理念にとどまらず法的な権利」とした。差し止め請求は却下された。
福田首相は、却下されたことから「国の判断が正しい。特別どうとは考えない」「不要な傍論」と認めようとはしない。空自の幕僚長は「隊員の気持ちを代弁すれば、そんなの関係ない」と開き直った。
改めて自衛隊派遣の実像が浮かび上がった。と同時に、憲法9条の光、大きな力を確認できた。愛知県など住民1122人の原告団、全国5500人に及ぶ原告団の5年にわたる運動、憲法9条を守り生かす草の根からの国民運動の急速な広がりが支えに勝ち取った大きな成果だ。
「画期的だが極めて常識的な判断だ」と北海道新聞が言い、神奈川、沖縄、山陽、沖縄の多くの新聞が撤退をよびかけている。読売は「事実誤認や法解釈に誤り」産経は「蛇足判決」などと批判にもならない政府擁護論だ。73年長沼ナイキ判決で有名な福島元判事は「三権分立の司法が憲法判断でも証拠にもとづいて裁決するのは常道」「真摯に受け止め国民的論議を」と強調している。政府は直ちにイラクからの撤退を決め、海外派兵の「恒久法」の立法化なんかは止めるべきだ。

【従属的な日米同盟】
アメリカに遠慮することはない。大体日本はおかしい。先日、参院外交防衛委員会で「思いやり予算」(日米特別協定)の3年間延長を否決した。衆院は多数で可決、延長した。米軍基地の労務費、光熱費、施設建設費、米軍移転費などで地位協定にない特別協定として負担させられてきたものだ(08年では米軍駐留経費6100億のうちの思いやり分2173億円)。こんな国はほかにない。
さらに、米軍再編の経費負担(3兆円)を上乗せしようとしている。米軍犯罪の多発と基地被害の広がりの中で屈辱的な地位協定の見直しの声が高まっている。だれが見ても、「極めて異常な対米従属の状態」だ。アメリカ言いなりの政治の異常さは極端だ。
許せないのは、米軍と自衛隊のでたらめさと危険な体質だ。自衛隊法は「平和と独立、国民を守る」とある。にも拘らず、あのルール無視の漁船衝突事件の対応だ。国民の生命財産をどう考えているのか。防衛省の人命軽視と隠ぺい体質、癒着疑惑、政・官・軍・軍需産業の腐敗、貧困と格差にさらされている国民生活を省みない5兆円の無駄の多い軍事費、このあたりを政治もマスコミも追求が少ない。
駐屯地11箇所に専用ゴルフ場があるのは見直しっていう問題どころの話ではない。

【米軍再編が変質と連動】
01年の同時多発テロ以降からアメリカの先制的な世界戦略が打ち出された。日米軍事同盟は、日米安保条約の枠組みを超え「世界の中の日米同盟」「地球的規模での日米同盟」へと変質した。05年「米軍再編」の日米合意は「共通戦略」を確認、06年、小泉政権とブッシュ米大統領は「21世紀の地球的規模での新しい日米同盟」を共同で宣言し、安倍政権が「軍事同盟は血の同盟=vで一層拍車をかけた。自衛隊が急速に変わるのも、そこらへんからだ。

【より戦える軍隊に】
米国「国防戦略05」では@同盟国の役割を強化するA不確実性と戦うため柔軟性を高めるB地域を超えた役割をもたせるC迅速に展開する能力を発展させるD数でなくて能力を重視する、などが指針として示された。これは米軍だけでなく、同盟国の日本政府、自衛隊にまでつらぬかれた。
防衛大綱、中期防衛力整備計画が制定され、米軍再編と同時に、同盟軍としての自衛隊の国際化(より安定した安全保障環境の構築への貢献)、柔軟性、即応性、戦争能力の飛躍が要求された。指揮系統でも日米図上作戦訓練など即応できる、より密接な協力関係、交流が構築されている。

【海外派遣軍へ】
アメリカの世界戦略にもとづいて、自衛隊は、従来の「日本の防衛」「周辺事態」「専守防衛」を飛び越えて世界の防衛、軍事戦略を担う軍隊に変質することになった。
07年防衛省が創設され、海外活動を本来任務とする自衛隊法の改正…。「多国籍軍」や「国連軍」の一部として「派遣」を越え「派兵」として戦闘に加われる「軍」に実態的にも体制を作り変えることに拍車がかかった。
陸上自衛隊に「中央即応集団」が新設された。海外派遣計画・訓練・指揮を一元的に担い、空挺部隊、対テロ・ゲリラ特殊作戦群を含む部隊として即応できる「先遣隊」の役割を持たせた。
これを取り仕切る中央即応集団司令部が、埼玉県朝霞市の陸自駐屯地から12年までに神奈川県座間市の米陸軍キャンプへ移転、同じく移設してくる米陸軍第一軍団司令部と連携一体化する。
すでに省内ではイラク戦争での日米共同作戦、海外出動態勢、安定化作戦、海上の護衛給油実施、陸上パトロールと狙撃など脅威への対応、米空軍輸送隊と航空自衛隊の共同作戦、米中央軍司令部と多国籍軍との調整、指揮一元化などを総括、教訓化し、訓練に生かしている。また都市型戦闘訓練、ゲリラ撃退訓練などが米軍仕込みで各演習場や訓練場で本格化している。

【空も海も遠征軍の一役】
航空自衛隊の変貌も重大だ。米軍再編で「航空宇宙遠征軍」の基地が編成強化された。それを受けて東京横田基地の米空軍司令部と航空自衛隊の統括司令部も併置。沖縄嘉手納米軍基地の戦闘機訓練が全国各地の航空自衛隊基地に拡大され、共同訓練や相互運用が進んでいる。またハワイ、日本、アラスカでの共同訓練は長距離打撃力,海外遠征軍訓練の一環だ。
空母を持たない海自は米原子力空母の護衛に従事する。海自の新編成はイージス・ミサイル艦を主力の艦隊、空母護衛のヘリコプター搭載護衛艦、護衛艦、給油艦と日米一体の海外遠征の速戦体制が深化されている。
また米軍と自衛隊の指揮・情報の一元化が大きく進行している。横田基地に日米戦争司令部、「日米共同調整所」が設置され、航空司令部も併置された。レーダー・サイトの日米共同使用が進み、情報の共有、弾道ミサイル防衛の能力向上で統合指揮統制などが強化されてきた。
まさに集団的自衛権行使(軍事同盟)の体制が、着々と世界的規模で拡大、変貌しつつあることを示している。
(つづく)

 

 

 


自衛隊の変質の中で、越えられない壁がある。
この歯止めこそ、憲法9条の存在だ。米軍と一体
の海外派兵、『戦争をする国』にさせぬ金字塔だ。

九条破壊の危険な現実(下)
―決して目をつぶっては
ならない自衛隊の変質―

【ミサイル防衛網の危険】
多発テロ、ミサイル・大量破壊兵器・核の拡散など世界の安全保障の環境が変わった。当然、軍備、装備なども大きく変わってきている。05年小泉政権は「ミサイル防衛システム」の構築と「次世代型イージス艦(巡洋艦)ミサイル配備システム」導入を決めた。
相手国が発射した弾道ミサイルを海、空、陸から打ち落とすシステムで、アメリカの本土防衛の網(迎撃網)を地球上に張り巡らすというものだ。
同時に核弾道ミサイルや原子力潜水艦核発射ミサイル、核兵器の小型化の開発など戦術的核兵器の活用が可能になり、ミサイル防衛は果てしない軍拡と核兵器の先制攻撃体制と一体になるものだ。ブッシュ政権は核兵器小型化開発を指示している。ところが日本はミサイル防衛開発に多額の資金を提供する唯一の国(負担増1兆円)、関連部品の輸出まで認めている。最新鋭のイージス艦には射程距離2百キロの防衛ミサイルが74発搭載可能のほか、同時に12発以上のミサイルを別々の標的に向け誘導発射できる装置がある。現在イージス艦6隻分とミサイルシステム配備は5千億を超え、SM3ミサイル一発20億円(保有数は秘密)、レーダー基地4基8百億円にのぼる。共同開発、実験に参加している。

【地対空ミサイル網】
またこれと連動して「地対空ミサイル(PAC3)配備計画」も組み込まれた。海上、陸上、衛星を組み合わせ、地球規模で連携した先制攻撃、迎撃体制が練られている。PAC3は相手国の弾道ミサイルを高度10数キロの上空で迎撃するもので、海上でのイージス艦からの迎撃で打ちもらしたものを地上から迎撃する。
すでに米軍は沖縄嘉手納基地に配備、同様に自衛隊も「首都防衛」を口実に埼玉県入間基地に配備、東京都新宿公園、千葉県習志野、さらに今後茨城県霞ヶ浦、神奈川県武山に配備され、10年までには中京、京阪神、北九州など全国16ヵ所に配備する予定だ。
首都防衛とか言うが、横田など基地防衛が狙いだろう。昨年PAC3の発射ための移動展開訓練・調査を都内各地で行なった。地域も日米同盟の軍事体制、軍備配置も一層米戦略に従属的に組み込まれ加担し、運命共同体の道を突っ走っているということだ。

【違憲、違法の国民監視】
去年6月、自衛隊による国民監視活動の実態が明らかになった。陸上自衛隊情報保全隊の内部資料では、平和運動から年金、医療、国民春闘、消費税増税反対など国民の暮らしを守る運動に至るまで監視活動を行っていた。
対象は学者文化人、ジャーナリスト、地方議員、広範な市民団体、メディアにまで及んでいた。民主、共産、社民など国会議員による抗議・報告集会は「国民監視活動は軍国主義の特徴、すべての国民の問題だ」とメッセージを発表した。「まるで戦前のようだ」(信濃毎日)「まるで特高警察」(中日)の違憲・違法な行動だ。
自衛隊はどっちを向いているのだ。昔から軍隊は国民を守るというのは口実で、権力者を守るもの。武力を行使して勝ち負けだけが問われるといわれる。どこの軍隊でも生命や人間の尊厳、人間性は否定され、制限されるものだ。「漁船団の往来する海域で安全を意識しないイージス艦」「憲法の平和生存権判決に『そんなの関係ない』と自衛隊員を代弁していう幕僚長の発想」に共通する危険を感じる。
災害救助、国際貢献が任務という。それならあのような武器、戦力はいらない。国民、人類を戦争からどう守るか。日本国憲法の前文と9条が明確に指し示している。
日本人、人間、平和と独立を守るというなら、まず憲法を守ることだ。憲法の精神、基本理念をしっかり守る。ということを、きっちり学んでほしい。軍事教育より平和教育だ。しなければなるまい。自衛隊員である以前に、日本人、人間なのだから。

【宇宙の軍事利用の動き】
04年日経連が出した「今後の防衛力整備のあり方」では、防衛産業の視点から自衛隊の任務の多様化、防衛装備のネットワーク化、システム統合化、陸海空の統合運用の対処が求められると指摘。防衛産業政策、技術基盤強化を強調しているが、その具体策の一つとして「安全保障分野での宇宙の活用」では通信、測位、情報収集など宇宙インフラ整備を提言している。
05年の「防衛ミサイル計画」と関連して、政府与党は「宇宙基本法案」の提出準備を進めている。07年2月「情報衛星」が打ち上げられた。「偵察」が目的と専門家は指摘する。06年の自民党の宇宙開発特別委「中間報告」や同年の日経連の「提言」によると、「総合的な安全保障」と「宇宙の産業化」が大きな目的になっている。内閣府の宇宙開発戦略本部と防衛省は「宇宙基本法」が制定されれば「早期警戒衛星」や「高性能探査衛星」の開発・保有も可能と期待している。69年の「宇宙の平和利用」国会決議が反故にされ、「軍事利用に道を開く危険がある。十分な論議を」(中日東京)の指摘は重要だ。

【群がる日米軍事産業】
日米安保戦略会議は、日米の国防、防衛の閣僚や経験者が参画、政治家と軍事産業が一堂に結集する。「ミサイル防衛」兵器展示会なども開かれている。日本の軍需企業792社のうち、防衛省調達品の75%を三菱重工、三菱電機、川崎重工業、石川島播磨重工業など20社が独占、90%が随意契約という。これらの企業の軍需依存率は一位の三菱重工が11・4%、上位10社平均は4・4%だ。(アメリカでは1位のロッキード・マーチン社が63・8%上位10社平均は45・8%)。

【憲法9条の力】
現在、軍需産業は武器輸出3原則により実質的に輸出禁止のため「死の商人」になって、武器の拡散をさせることは許されない。ここにも9条の力が働いている。経団連はこれを変え「武器技術の輸出」をさらに「武器輸出の緩和」へと画策している。前に述べたように、防衛産業の強化発展を目論んでいる。
日本が人殺しの道具、兵器を輸出し、アメリカと一体で「死の商人」になることは絶対に許さない。
軍備を利権の対象にし、軍備増強の流れを、憲法の理念と精神で、平和軍縮に変えることが一層求められている。
21世紀は、地球環境の破壊と温暖化対策の急務、世界の食料確保と維持、自給率向上、世界の貧困と格差の是正にこそ、すべての力を集中する必要がある。戦争禁止、報復不信の連鎖を断ち切り、紛争は対話による平和的解決に全力を挙げる。これ以外に地球の真の安全保障の道はない。
憲法9条を捨て去って米国とともに海外派兵のできる軍事大国への道を歩むことは、日本が完全に世紀の課題に立ち遅れ、世界の平和の流れに逆行、孤立し、批判と警戒を生む。戦争の火種を撒き散らす「戦争をする国」に転落することになるのは明らかだ。これを押し止めるのは憲法9条を守り生かす国民の草の根の力しかない。憲法記念日にあたり新たな決意を込めて!
(おわり)