梅田 正己/ジャーナリスト)/著書『「非戦の国」が崩れゆく』(高文研)他)/9条改悪の前に、日米安保条約の実質改定が進んでいる!/ 05/12/10
/梅田 正己/ジャーナリスト/著書『「非戦の国」が崩れゆく』(高文研)他)
2005年10月29日、日米両政府は、「米軍再編」にもとづく在日米軍基地の再配置計画について合意、発表した。発表された文書の名称は「日米同盟:未来のための変革と再編」という。
その狙いをひと言でいえば、一つはこの日本を、東アジアから中東にいたる、ブッシュ政権のいう「不安定の弧」をにらんだ米軍の作戦・出撃基地とすること、いま一つは、日本の自衛隊を米国の戦略に基づいてその作戦段階から組み込んでゆく、ということだ。
そのことは、米国陸軍第一軍団司令部を米本土から神奈川県のキャンプ座間に移し、「統合作戦司令部」に改編するとともに、あわせてそこに陸上自衛隊の「中央即応集団司令部」なるものを新設して、やがては“日米共同作戦本部”を設けるという計画に端的に示されている。
新設する「中央即応集団司令部」とはどういうものか。わかりやすく言えば、陸上自衛隊の“特殊部隊”の派遣司令部のことだ。
今後予想される戦争の形態としては、双方が戦車隊や重砲隊を繰り出しての会戦は、もはや考えられない。考えられるのは、米国自身が「対テロ戦争」といっているように、イラク戦争型のゲリラ戦だ。そのため、米本国にある陸軍や海兵隊の演習場にはすべて都市型戦闘訓練施設が設けられ、それを使ってゲリラ戦訓練を行っている。沖縄の米軍基地、キャンプ・ハンセンで住民の居住地に接して造られたグリーンベレーのための都市型戦闘訓練施設が住民の村を挙げての反対で撤去されたのは1992年のことだったが、いままた同じキャンプ・ハンセンに新設された都市型戦闘訓練施設が、知事まで加わった激しい反対運動にさらされている。
数年前から、日本の陸上自衛隊も米軍に学びながら、この都市型戦闘訓練施設を使った訓練をやるようになった。米本土の陸軍の演習場に出かけて、その施設を借りて実戦経験を持つ米兵の指導を受けながら訓練をするとともに、日本国内にも新たにこの都市型戦闘訓練施設を造って(東富士演習場や北九州の曽根訓練場など)訓練を行っている。
あわせて、特殊部隊の編制もすすんでいる。02年には、佐世保の相浦駐屯地に西部方面隊の直轄部隊として「西部方面普通科連隊」(660名)が新設された。半数がレンジャー記章をもつ精強部隊だ。つづいて03年には習志野駐屯地に300名からなる「特殊作戦群」が編制された。個人用の暗視装置なども装備した対ゲリラ戦の専門部隊だ。
「特殊部隊」の拡充は今後も続く見込みだ。今回の「変革と再編」では、キャンプ座間に隣接する米軍の相模補給廠に「陸自普通科連隊」が置かれることになっている。1300人からなる防衛庁長官直属の部隊だ。これまでの流れから、これが特殊部隊だということは容易に想像がつく。
つまり、キャンプ座間に新設される「中央即応集団司令部」は、この1300人の特殊部隊とセットになっているのであり、陸自特殊部隊全体を動かす司令部なのだ。
この中央即応集団司令部と、米軍の統合作戦司令部が、同じキャンプ座間に同居して、ゆくゆくは共同作戦本部を構成するというのが、今回の「変革と再編」構想だといえる。しかし共同作戦本部といっても、主導権を取るのが米軍であることはいうまでもない。米軍の戦略・作戦にもとづいて、陸自特殊部隊が米陸軍特殊部隊や海兵隊とともに「不安定の弧」へと出撃してゆく光景が、今回の「日米同盟:未来のための変革と再編」からは浮かんでくる。
もう一つ、東京の横田基地には米軍の第5空軍司令部が置かれているが、今回の「再編と変革」ではその横田基地に、現在、東京・府中市にある航空自衛隊の航空総隊司令部を移すとされている。空自もまた、米空軍の空中給油機を使い、米軍の指導を受けてF15戦闘機への空中給油訓練をつづけてきた。空中給油さえ受ければ、戦闘機は世界のどこへでも飛んでゆける。その空中給油機そのものも、空自は06年度から導入してゆくことになっている。空自航空総隊司令部が横田へ移ることによって、米日空軍運用の一体化が一段とすすむことになる。
横田にはまた、在日米軍の司令部が置かれている。その横田に米軍と自衛隊の「共同統合運用調整所」を設けるということも書かれている。それにより「自衛隊と在日米軍の間の連接性、調整及び相互運用性が不断に確保される」のだという。
要するに今回の日米合意は、米国の世界戦略遂行のために米軍と自衛隊のスクラムを飛躍的に固めるための「変革と再編」なのだ。
この文書の「U.役割・任務・能力」の中に次の一文がある。
「世界における共通の戦略目標を達成するため……(日米の)二国間協力は、同盟の重要な要素となった」
また、次の一文もある。
「自衛隊及び米軍は、国際的な安全保障環境を改善するための国際的な活動に寄与するため、他国との協力を強化する」
日米の軍事協力が、「世界における共通の戦略目標の達成」「国際的な安全保障環境の改善」を目標にすえていることが、ここにはっきりと示されている。
しかし「日米同盟」の法的基盤である日米安保条約には、そんなことは書かれていない。日米安保条約の大前提は「日本の安全」と「極東の安全」であり、その範囲は明確に限定されている。したがって今回の「変革と再編」は、明らかに日米安保条約の枠組みそのものを踏み破ったものと言わなくてはならない。言い換えれば、日米安保条約の実質的改定にほかならないということだ。
今から45年前、安保条約の改定をめぐって、日本は大揺れに揺れた。大デモの波が連日、国会に押し寄せ、議事堂を包囲した。いわゆる60年安保闘争だ。新(現)安保条約は自然成立したが、岸内閣は退陣を強いられた。
この60年の安保改定に比べても、今回の“実質的改定”ははるかに決定的だと言える。これにより、日米安保の性質ががらりと変わるからだ。自衛隊の「役割・任務・能力」も「専守防衛」から「外征軍」へと一変する。
にもかかわらず、この重大な問題が、国会ではひとことも論議にならない。マスメディアもほとんど言及しない。
「日米同盟:未来のための変革と再編」は外務省のホームページで見ることが出来る。未見の方はぜひともそれを読み解かれることをおすすめする。(05・12・8、記)
警告】当サイト内に掲載されているすべての文章の無断転載、転用を禁止します。すべての文章は日本の著作権法及び国際条約によって保護を受けています。
Copyright 2005 マスコミ九条の会. All rights reserved. Never reproduce or republicate without written permission.