梅田正己/編集者/「史上最も成熟した日米関係」とは何か/06/07/03

 


日米首脳の共同文書
「史上最も成熟した日米関係」とは何をいうのか?

            梅田 正己(編集者。『「非戦の国」が崩れゆく』高文研ほか)

大統領専用機エア・フォース・ワンにブッシュ大統領と同乗、プレスリー記念館に案内された小泉首相のはしゃぎぶりはちょっと異様だった。国内ではオペラファンの首相も、根っからのファンだったプレスリーの遺品を前に、思わず地が出てしまったのかも知れない。

しかし、個人的趣味はどうでもかまわない。どうでもよくないのは、国家と国家の関係、日米関係である。
今回の訪米で、小泉首相はブッシュ大統領とともに、日米共同文書「新世紀の日米同盟」を発表した。その中に、今日の日米関係は「史上最も成熟した二国間関係」であり、「世界の中の日米同盟」だという文言があった。

「史上最も成熟した日米関係」とは何なのか。両首脳の“蜜月関係”を写し出した自画自賛なのか。それとも、両国関係の良好さを誇示するための単なるレトリックなのか。
そうは思わない。いま構築されつつある日米関係は、たしかに一種の“成熟状態”に入りつつあると思うからだ。

昨年10月末、「日米同盟――未来のための変革と再編」を発表した日米の防衛、外交の担当大臣による日米安保協議委員会(2プラス2)は、この8カ月前、05年2月にも重要な共同発表を行っている。「日米共通の戦略目標」の確認だ。
マスメディアではあまり報道されなかったが、2プラス2では、「アジア太平洋地域における共通の戦略目標」12項目、「世界における共通の戦略目標」6項目を挙げて確認し合ったのだった。

「共通の戦略目標」を確認し合うとは、平たく言えば「共通の敵}を確認し合うということだ。
日米2プラス2は、この「共通の敵」を持つことを確認し合った上で、「日米同盟のための変革と再編」、つまり日米軍事同盟の再構築のプランをまとめ上げ、発表したのだ。

その「変革と再編」のプランでは、前回のこのコラムで書いたように、日米両軍の司令部が統合されることになる。
まず陸軍では、米本土ワシントン州の米陸軍第1軍団の司令部を改編した統合作戦司令部と、陸上自衛隊の中央即応集団司令部がキャンプ座間に同居することになる。
次に、空軍は、米第5空軍司令部(在日米空軍司令部)がいる横田基地に、現在は府中にいる航空自衛隊の総司令部(航空総隊司令部)が移転して同居することになる。
海軍は、すでに横須賀で、米第7艦隊司令部と、自衛艦隊司令部が並存している。

要するに、「共通の戦略目標(共通の敵)」を確認し合った日米両軍が、双方の司令部を一体化させるというのが、今回の日米安保協議の最大の課題だったのだ。

それにしても、二つの独立国が(それもGNP1位と2位の国だ!)「共通の敵」を確認し合った上に、双方の陸海空軍司令部が同じ基地内で机を並べるということが、これまでの歴史にあっただろうか。
同じアングロサクソンの国である米英の間でも、こんな密着はなかったのではないか。
その意味で、小泉首相とブッシュ大統領が共同でつくり出したこの「日米同盟関係」は、「史上最も成熟した二国間関係」だといってよい。それは決して誇張ではない。

ただし、日米「合意」文書に記された、この同盟関係における日米両軍の位置関係は、前回のこのコラムで紹介したように、米軍が「決定的に重要な中核的な能力」であるのに対し、日本の自衛隊は「追加的かつ補完的な能力」であるに過ぎない。
両者の力関係にこんなに大きな落差がある以上、米国側が主導権をにぎることは言うまでもない。自衛隊は、米軍の要請と指令にもとづいて動くということになる。

「史上最も成熟した同盟関係」は、日本側から見れば、「最も従属的な同盟関係」となる。
この日本にとって「最も従属的な同盟関係」を、この9月に退陣する小泉首相は、国民への置きみやげとしてプレゼントしてくれたのだ。熟しすぎた果物は、腐臭で食えたものではないのだが。