梅田正己/編集者/「もしも北朝鮮が日本に攻めてきたら、どうするの?」と訊かれたら/06/09/18


「もしも北朝鮮が日本に攻めてきたら、どうするの?」と訊かれたら

           梅田 正己(編集者。著書『「非戦の国」が崩れゆく』他)

「もしも北朝鮮が日本に本当に攻めてきたら、どうします?」

市井の会話の中で、よく聞かれる質問だ。

庶民の会話だけではない。さる7月の北朝鮮のミサイル発射(訓練)のさいも、テレビから何度か聞こえてきた。

じっさいに口に出して言わなくても、テレビでの今にも戦争が始まりそうな興奮した議論の背後に、この「疑問」が横たわっていたのはたしかだ。

ついには現役の閣僚の口から、先制的な「敵基地攻撃論」まで飛び出してきた。

こうしたことが語られるのには、やはり相応の理由がある。

日本政府自身が、「北朝鮮の脅威」を、正式の防衛政策の中で採用しているからだ。

何を理由に、そう言えるのか。「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」の中で、実質的にそう明言しているからだ。

政府の防衛政策は、閣議決定された「防衛計画の大綱」にもとづいてすすめられる。

現行の「防衛大綱」は昨年度から実施に移された上記の「大綱」だが、その中で、今後に予想される「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」の1番目と2番目に挙げられているのは、次の二つである。

では、(ア)のミサイルは、どこの国のミサイルだろうか。先だってのミサイル発射のさいの大騒ぎを見れば、答えは明らかだ。

次に(イ)の「ゲリラや特殊部隊」はどこの国の「ゲリラ、特殊部隊」だろうか。

昨年9月26日付の朝日新聞で報じられた、陸上幕僚監部(陸上自衛隊のスタッフ部門。旧陸軍でいえば参謀本部にあたる)の機密資料「防衛警備計画」では、日本に潜入してくるのは北朝鮮のゲリラや特殊部隊となっている。

つまり、日本政府がいま予想している最大の脅威国、自衛隊にとっての最大の「仮想敵国」は、一にも二にも北朝鮮なのだ。

こうした政府の防衛政策が基底にあり、その上にテレビを中心とするマスメディアの北朝鮮に対する憎悪や蔑視、敵対心をあおりたてる「報道」があって、北朝鮮が日本に攻め込んでくるという「脅威幻想」が作り出されているのである。

それにしても、「北朝鮮の脅威」がこれだけ語られる中で、一つだけ、だれにも語られない重要な問題点がある。

「北朝鮮は、どんな理由で、いかなる目的をもって、日本に攻め込んでくるのか?」という問題だ。

第二次世界大戦前の帝国主義の時代は別として、現代の戦争で何の理由もなく起こった戦争はない。どんな戦争にも、理由・原因がある。

大別すれば、領土(国境線)問題、資源問題、国家体制(イデオロギー)の相違による対立、民族的対立、宗教・宗派の対立などの問題だ。

では、北朝鮮と日本との間に、上記のような対立点はあるだろうか?

あるのは、国家体制の相違だけだが、これも冷戦終結後は対立点ではなくなった。

つまり、北朝鮮と日本の間に、戦争の原因となるものは何ひとつないのだ。

かりに北朝鮮軍が日本に攻めてきて、日本を占領できたとしても、略奪する資源は何もない。あるのは工場と技術、それに北朝鮮の5倍もいる人間だけだ。

そんな国を軍事占領して、北朝鮮は、何を得ることが出来るだろう?

ほんの少し考えれば、「北朝鮮が攻めてくる」というのは、現実にありえない「妄想」だとわかる。

したがって、「北朝鮮が攻めてきたら、どうするんですか?」と訊かれたら、ただちにこう反問すればよい。

「北朝鮮は、何を理由に、何の目的で、何を得ようとして、日本に攻めてくるのですか?」