梅田正己/編集者/「特殊部隊」を「PKO協力隊」にすりかえた 朝日の大型解説記事 /07/03/2
梅田 正己(編集者。近著に『変貌する自衛隊と日米同盟』)
報道機関としてのマスメディアが犯す過ちには、次の3種類がある。
第一は、事実と異なる虚偽を記事にし、電波で流す虚偽報道である。
太平洋戦争中の「大本営発表」がその典型だった。
第二は、重大な事態が生起し、進行しているのに、それを報道しない、不作為の罪である。知っていてそうしたのかどうかで道義的評価は違ってくるが、報道機関としての社会的責任の放棄であることに変わりはない。
第三は、報道はするものの、それがきわめて表面的ないしは一面的であるため、結果として伝えるべき事柄の本質を隠蔽したり、すりかえたりすることになる、隠蔽報道、すりかえ報道である。
以上の3種類の過誤のうち、このところ第二と第三の過ちに気がつくことが多くなった。
ここでは、最近ひっかかった朝日の記事について書く。
なお、私が朝日だけをよく批判するのは、今日のマスメディア状況の中で、それでも朝日は私にとって最大の情報源であり、報道機関としてしっかり立ってほしいと願っているからだ。「政府の広報紙」については、こういう「批評」はしない。
さて、朝日はいま、「新戦略を求めて」という大型企画を連載中である。毎回、1ページ全面、時には2ページにわたって記事が掲載されている。
その4月中旬のテーマは「第7章 21世紀の安全保障U」だったが、その第4回のメインタイトルはこうだった。
「自衛隊再編 国際協力を重視」
このタイトルから、読者はどんな内容をイメージするだろうか。
――自衛隊はいよいよPKOに本格的に取り組むんだな、そのために組織を再編するんだな、
と、そう思うのではないだろうか。
じっさい、メインタイトルのすぐ下の図解(別掲の図、参照)のタイトルはこうなっていた。
「国際平和協力業務への取り組みに伴う自衛隊の編成・装備品の変化」
この中の「国際平和協力業務」という用語に注意してほしい。
いわゆるPKO協力法の中で、活動の内容を定めた第3章のタイトルは「国際平和協力業務」となっている。これはつまり、PKOの用語なのだ。
こうした見出しの用語の使い方から、読者が記事全体の内容を「PKOのための自衛隊再編」と受け取るのは当然と言える。
いや、見出しだけでなく、本文でもそうだ。
図解(自衛隊の編成・装備品の変化)の陸上自衛隊(左端)の欄で紹介されているのは、この3月末に新たに編成された「中央即応集団」だ。
この「中央即応集団」について、記事の本文の中で、同集団の司令官となった山口浄秀陸将(旧陸軍でいえば中将に当たる)の言葉を紹介している。こんな言葉だ。
「特定の地域に絞らず、世界各地のPKOを調査研究したい」
これを見ればほとんどの読者は、埼玉県の朝霞駐屯地に司令部の置かれた中央即応集団は、PKOのための部隊だと思うだろう。
しかし、前回のこのコラムで私が書いたとおり、中央即応集団は対ゲリラ戦を主要任務とする特殊部隊の旅団規模の統合組織なのだ。
その証拠に、当面3200人でスタートしたこの中央即応集団の主力は、すでに存在する習志野の第一空挺団や木更津の第一ヘリコプター団など特殊作戦能力をもつ部隊で構成されている。
これに、宇都宮駐屯地で編成作業が始まった中央即応連隊(700人)などが加わって、来年3月末には総勢4100人の中央即応集団が完成するのだ。
この朝日の記事で紹介された山口司令官は、あたかもPKO部隊の責任者のような抱負を語っていたが、自衛隊関係者の機関紙『朝雲』では、その初訓示は次のように紹介されている(4月5日付)。
「いつ、何が起きても不思議ではない今日、自衛隊の即応力が試されている。われわれは事態に即応し、それを確実に達成しうる“所命必遂”の覚悟で国民の負託に応えねばならない。
諸官は武力集団の原点に立ち返り、国際平和、国家国民、部隊・同僚・家族のため、名誉と誇りある部隊を目指し、新たな歴史の創造に向け、チャレンジ精神をもって精進を!」
「武力集団の原点に立ち返り」と、司令官は訓示している。
戦場に最も近い部隊、したがって最も高い戦闘能力を必要とする部隊の司令官として、それは当然の要求といえるだろう。
一昨年10月に日米政府間で合意された「日米同盟――未来のための変革と再編」では、米本土ワシントン州の米国陸軍第一軍団司令部を改編した「統合作戦司令部」が神奈川県のキャンプ座間にやってくる。
そのキャンプ座間で、やがて「統合作戦司令部」と机を並べるのが、陸自の中央即応集団の司令部なのだ。
東アジアから中東にいたる、いわゆる「不安定の弧」をにらんで作戦を統括する統合作戦司令部が予定しているのは、特殊部隊を中心とする特殊作戦だろう。
中央即応集団司令部は、その統合作戦司令部と一体となって共同作戦を展開することを期待されているのである。
中央即応集団の任務の中には、たしかにPKOも含まれていると言えるかもしれない。
しかしそれは、あくまでイチジクの葉っぱにすぎない。
イチジクの葉っぱを、あたかも本体であるかのごとく報道するのは、やはり一種の隠蔽報道、あるいは虚偽報道に近いすりかえ報道と言うしかない。