梅田正己/書籍編集者/再々ソマリア沖自衛艦派遣問題 今からでも遅くない

メディアは海上保安庁の取材を! 09/03/18

 


再々ソマリア沖自衛艦派遣問題

 

今からでも遅くない

メディアは海上保安庁の取材を!

 

梅田 正己(書籍編集者)

 

 

 3月14日、海上自衛隊の護衛艦2隻、「さざなみ」「さみだれ」が、麻生首相の激励を受け、海自呉基地を出航した。

 

 新法が間にあわず、自衛隊法に定める「海上警備行動」の法治国家にあるまじき拡大解釈による派遣である。

 

 翌15日のTBSサンデーモーニングで、さっそくこの問題が取り上げられた。聞き流しなので正確ではないが、コメンテーターのみなさんはだいたいこんな意見だった。

 

 ――国会でまともな議論がほとんどないままに、こういう重大なことが決定され、実行されてゆくのはきわめて危険だ。

 

 ――中国の軍艦も出てゆくのだから日本も、という気持ちは無理からぬとは思うが、それならもっと言葉を尽くして説明すべきだ。

 

 それはいいとして、私が注目したのは、この問題の発端となった国会での質疑の場面がほんのわずかだがテレビ画面に映されたことだ。

 

 昨年10月、民主党の議員が、ソマリア沖海賊問題について、海上保安庁長官に海保としての取り組みをたずねた。

 

 それに対し、長官は、「ソマリア沖まで派遣できる船は海保にはない」と答弁した。

 

 このひと言によって、海保は対策の枠組みからオミットされ、問題は海自の軍艦派遣にしぼられたのだ。

 

 海保長官がこういう答弁をしたのは、私も知っていた。ただし、知ったのはつい1週間前のことだ。

 

 3月8日の朝日新聞「オピニオン」欄に、日本船主協会常務理事の半田収氏の投稿がのっていた。同氏は、協会が昨年10月、国交相にたいし安全対策の要望書を提出したことを述べた後、こう書いていた。

 

 「私たちは初めから海上自衛隊の艦艇の派遣を主張していたわけではありません。公海上での犯罪行為に対する海上警備・警察権の行使ということで第一義的には海上保安庁の管轄と考えていました。

 ところが、海上保安庁長官が国会で、遠方への派遣に耐えられる船は海保には1隻しかないこと、各国が軍艦を出しているところに日本だけが軽装備の警備艇を出すわけにはいかないことなどから、海上保安庁の艦船を派遣するのは困難であると答弁された一方、海上警備行動の範囲内であれば現行法の下でも海自艦の派遣が可能であると聞き及び、今年1月、麻生首相と浜田防衛相に海自艦の即時派遣を要請したのです」

 

 文中、海保長官が、派遣できる船は1隻しかないといっているのは、前々回のこのコラムで紹介した巡視船としては世界最大の6,000トン級「しきしま」のことだ。しかしこのほかにも海保は、3,000トン級、2,000トン級の巡視船を何隻も保有している。

 

 しんぶん赤旗の連載記事「ソマリア沖派兵を問う」の第1回(2月15日)の冒頭に、海保の元幹部のこんな声が引かれていた。

 

 《「日本は憲法9条を持った国だ。その枠組みのなかで海上保安庁は戦後、命がけでやってきた。今、論議されているのは、海保派遣の主張を孤立無援にし、『行け、自衛隊』だ」――長年、海上保安庁で働いてきた元幹部は嘆きます。》

 

 第二次大戦後、海上保安庁の仕事は、大戦末期、米軍が日本の港湾に敷設した機雷を除去することから始まった。島国日本にあって、海の安全確保に取り組んできた海上保安庁職員の実感として、「命がけ」というのはけっして誇張ではなかろう。

 

 前々回、前回で紹介したように、日本の海上保安庁は東南アジアの海賊対策に国際的に取り組み、めざましい実績を挙げてきた。マラッカ海峡の海賊問題も、これでほぼ解決できた。

 

 マラッカ海峡からインド洋を越えれば、そこがソマリア沖だ。東南アジアで出来たことが、なんでソマリア沖では出来ないのか?

 

 「海賊対策は第一義的には海上保安庁の仕事だ」と、麻生首相も明言している。そして海保は、現実に国際的な海賊対策で立派な実績を積んできている。

 

 それなのに、国会で答弁に立った海上保安庁長官のひと言で、任務からはずされてしまった。

 

 海保のホームページを見れば、海保が東南アジアでどんな海賊対策をやってきたかがわかる。質問に立った民主党議員は、海保長官の他人事のような答弁に対して、なんでもう一歩突っ込めなかったのか。国会の質疑として、あまりに軽すぎはしないか。

 

 議員だけではない。メディアの新聞記者や放送記者はどうしていたのか?

 聞かなかったのだろうか、とも思ったが、サンデーモーニングを見ると、ちゃんと「絵」は撮ってあったのだ。

 

 長官の答弁を、聞くことは聞いたのだろう。しかし何の疑問も抱かず、したがって海上保安庁に行って自分の目と耳で確かめることをしなかったのだ。

 

 自衛艦は出航した。しかし、今からでも遅くはない。海賊対策についての海上保安庁の実績と能力を取材し、検証して、それをきちんと報道してほしい。

 

 そうすることが、今回のように法律の一方的な拡大解釈を許し、ほとんど実質的議論もないままに自衛隊の海外出動を黙認するという不愉快な事態を繰り返すのを防ぐことになるからだ。

 

 メディアの役割は、出来事の結果を報道することだけではない。

 

 何でそんなことが起ったのか、その原因を追究し、検証することこそ、たんなる結果報道以上に大切なのである。(了)