梅田正己/編集者/ピンチの鳩山内閣は見世物か?
―メディアがいまだに報道せぬ 「米軍グアム統合計画」 ―10/04/17
ピンチの鳩山内閣は見世物か?
―メディアがいまだに報道せぬ 「米軍グアム統合計画」 ―
梅田 正己 (書籍編集者)
4月13日、 核保安サミットで訪米した鳩山首相は、 やっとオバマ大統領との時間を取ることができた。 だが、 夕食時の10分間だけだった。 翌日の朝日、 読売、 毎日の社説の結びはこうだった。
(朝日) 「いずれも鳩山政権に対する国内外の信頼を決定的に失墜させ、 存亡の危機にすら直面させるだろう。 /残された時間は1ヵ月半である。」
(読売) 「米国や地元との信頼関係がなく、 調整作業にも着手できない中、 どう問題を決着させるのか。 首相に残された時間はあまりない。」
(毎日) 「首相には 『5月決着』 を繰り返してきた言葉の重みをかみしめ、 解決のための行動を急いでもらいたい。」
朝日、 読売とも、 冷ややかに、 突き放している。
「ほらほら、 どうした、 もう時間がないぞ」
そんな言い方に聞こえる。 毎日は 「要望」 で終わっているが、 いかにもおざなりだ。
しかし、 メディアも、 こんなことでいいのだろうか。
◆ 「普天間問題」 は米軍グアム統合計画から始めよ!
さる3月26日付け東京新聞に掲載された半田滋記者による沖縄海兵隊のグアム移転問題の記事についての批判は、 前にこのコラムで書いた。
やっと米軍のグアム統合計画の記事が出たと喜んだものの、 文中に次のような注釈があって、 ガッカリしたのだった。
「ただ、 米軍は独自に進めるグアムの軍事拠点化計画と、 米軍再編で合意した在沖海兵隊の移駐計画との関連を明確にしていない。」
この勝手な注釈がとんでもない間違い、 誤りだということは、 沖縄からグアムへ移動する海兵隊員の具体的な数を挙げて指摘したが、 念のため海軍省が作成した 「環境影響評価ドラフト」 の第1巻の表紙でもう一度確認しておく。 (→画像①を参照)
上から4行目の大きな文字は、 「グアム及び北マリアナ諸島国軍再配置」 で、 その下に再配置される軍の内訳が示されている。 その第一番目が、
「沖縄からの海兵隊の再配置 Relocating Marines from Okinawa」
つまり、 標題で、 グアムに配置されるのは沖縄の海兵隊だと述べているのだ。 それなのに、 半田記者が、
「米軍は独自に進めるグアムの軍事拠点化計画と、 米軍再編で合意した在沖海兵隊の移駐計画との関連を明確にしていない」
と書いたのは、 一体どういうことなのか。
このドラフトの第1巻は全体の 「要約」 だが、 その第1ページには沖縄からの海兵隊のために用意する施設について、 こうか書かれている。
「ここで提案している主要な計画は、 簡単に言うと次の3つである。
1 (a)沖縄からグアムに再配置されるおおよそ8,600人の海兵隊員とその家族9,000人のための施設とインフラストラクチャー。 (b)再配置された海兵隊のためのグアムとテニアンでの訓練・演習施設。」 (続いて、 2=原子力空母の寄港のための埠頭と、 3=陸軍ミサイル防衛隊のための施設の建設が記されている。)
この統合計画では8,600人、 米軍再編のための日米協定 「ロードマップ」 では8,000人の海兵隊がグアムへ移動し、 彼らの住居と訓練・演習施設の建設およびインフラ整備のために、 日本は6,000億円を支出する、 となっているのである。 つまり、 現在沖縄にいる海兵隊1万2,000人の3分の2、 8,000人がグアムへ去る。 沖縄に残るのは4,000人だけとなる。
以上のことは、 機密でもなんでもない。 日米両政府が協定し、 米海軍省がインターネットで公表していることである。 グアムでの新たな海兵隊施設建設の費用として支出する6,000億円のために、 日本の国会は法律も作った。
こうした事実が存在するのに、 それを政府はひとことも言わず、 伏せたまま、 「移設先」 探しに躍起になっている。
メディアもまた、 米軍の詳細なグアム統合計画が昨年11月から半年近くインターネットで公表されているのに、 まったく報道しようとしない。 たまに触れると、 とんでもないウソを書く。
そんなメディアが、 窮地に追い込まれた自国の首相を取り囲んで、 「ほらほら、 時間がないぞ」 とはやしたてている。 こういう光景を、 何と言ったらいいのか。
◆テニアンは統合計画ですでにグアムとセットになっているのだ
ところで、 4月14日付の東京新聞に、 こんな大きな記事が載った。 (→画像②参照)
メインの見出しは、 「テニアン案、 米軍ソッポ?」、 サブ見出しが 「普天間移設、 経済難で 『大歓迎』」
内容は、 不況で観光客がバッタリ来なくなったテニアンに海兵隊がやってくるとしたら、 市長以下大歓迎したい、 しかし米軍側はソッポを向いているようだ、 というもの。
記者が国会議員のテニアン視察に同行して 「取材」 した記事だが、 これにもかんじんのことが抜け落ちている。
先に、 「環境影響評価ドラフト」 の表紙を紹介した。 そのタイトルは、 「GUAM AND CNMI MILITARY RELOCATION」 (グアム及び北マリアナ諸島国軍再配置)
このCNMIは、 「Commonwealth of the Northern Mariana Islands」 の略で、 「自治領北マリアナ諸島」 のことだ。 そしてテニアン島は、 この14の島からなるCNMIの一つである。 米軍の計画では、 このテニアンに海兵隊の実弾演習場を設置することになっている。 沖縄の北部訓練場のような、 実戦さながらの演習がやれる訓練場ではないかと考えられる。
つまり、 米軍の統合計画では、 テニアンもすでにグアムとセットで新たな海兵隊基地計画に組み込まれているのである。 それなのにこの記事では、 そのことにはまったく触れられていない。 そして、
「テニアン案、 米軍ソッポ?」
と大見出しをかかげる。 議員団に同行したのだから、 記者がそれを知らないはずはない。 なのに、 進行中の米軍の統合計画にはまったく触れない。 どういうことなのだろうか。
このテニアンについては、 だいぶ前だが、 共同通信の石山永一郎編集委員によるルポ記事があった。 ここでは琉球新報の3月6日付けの記事 (部分)を掲げる。 (→画像③参照)
上段に、 「普天間移設『歓迎』のテニアン」 とある。 これは東京と同じだ。 次が違っている。 ―― 「米が軍利用拡大の動き」。 そして 「市長『4千人駐留可能』」
現在、 米軍の計画にあるのは訓練場だけで、 海兵隊員はグアムからやってきて訓練することになっている。
そこで、 ただ訓練に来るだけでなく、 ここに住宅を造って駐留してほしい、 と市長は言っているのである。 ただ訓練に来て、 終われば帰っていくのでは、 経済活性化の足しにはならないからである。
◆沖縄海兵隊のグアム移転は米軍自身の計画だ
ところで、 米軍のグアム統合計画であるが、 誤解しないように注意しておきたいことがある。 つまり、 これは決して沖縄の基地負担軽減のためにやむなく考え出したものではない、 ということだ。
前に一部を紹介した第1巻の 「要約」 には、 次のような記述がある。
「グアムは、 太平洋における戦略的提携のカギとなる地点であり、 この地域の安定をささえるのに理想的に適した場所である。」
「沖縄海兵隊のグアムへの移動は、 太平洋において米国が主権をもつ領土のうち本土から最も遠い前進地点への配置となる。 これにより、 行動の自由を最大化できるし、 前駐留地の沖縄に比べて即応時間が増すことについても最小に抑えることができる。」
これだけからも分かるように、 グアム統合計画は、 米政府・軍が自国の利益のために立案し、 策定したものである。 戦略上の地政学的条件と、 最大限の行動の自由を確保できる地点として、 米軍はグアムを選定し、 そこを新たな軍事拠点と定めたのである。
このような米軍の主体的な戦略構築の結果、 沖縄の海兵隊はグアムに移ることになった。 それに必要となる施設の整備・建設のため、 日本は米国よりも多い6,000億円を支出することになっている。 これだけでも、 十分すぎる 「対米奉仕」 ではないかと、 だれもが思うだろう。
しかし、 米国は、 残る海兵隊三分の一のためにも、 新しい基地が必要なのだと言う。 前に (グアム統合計画が出来る10年も前に) SACO案として日米政府で決めた辺野古沿岸を埋め立てて造る基地が最良案だから、 やっぱりそこに造ってくれ、 と言う。
それは虫がよすぎるのではないですか、 と中学生でも思うだろう。 しかし政府は、 条件が変わったことなどひとことも口にせず、 代替地さがしに躍起になっている。 そしてそのピンチの政府を、 大メディアが冷ややかに眺め、 破廉恥な週刊誌がクソミソにたたいている。 これが、 今のこの国の政治の構図だ。
◆メディアは責務を果たせ
に書いたように、 米軍のグアム統合計画が、 今回の普天間問題の大前提だ。 しかし何故なのか、 政府はそのことに触れようとしない。 だったら、 メディアがそのことを取り上げ、 取材し、 こういう事実がある、 どう考えますか、 と国民の前に投げ出すべきではないか。
8,000人はグアムへ行くのだから、 残るのは4,000人だ。 その4,000人のために、 サンゴとジュゴンの海を破壊して、 新たな基地を造る意味と必要があるのですか、 と問いかけるべきではないか。
米軍の太平洋海兵隊司令官は、 北朝鮮の核のために沖縄の海兵隊が必要だと言ったけれども、 海兵隊が果たすどんな役割があるのですか、 と突っ込んで訊けばいいのだ。
米国の領土であるテニアンの市長は、 ぜひ海兵隊に来て欲しいと言っている。4,000人なら駐留可能、 大歓迎すると言っている。 だったら、 沖縄に残る3分の1、 4,000人はテニアンに移したらどうか。 沖縄も一安心、 テニアンは満足、 となるのではないか。
いや、 それでは困る。 沖縄にも海兵隊を残しておきたい、 と米軍が言うなら、 どうしてテニアンではダメで、 沖縄に残しておかなくてはならないのか、 と訊けばいい。 いや、 そんな専門的な軍事問題は、 などと逃げないで欲しい。
こういう議論を避けてきたから、 国民を置き去りにして、 安保条約の勝手な解釈を許し、 日米安保を 「極東安保」 から 「太平洋安保」 へ、 そしてさらに 「地球安保」 へと拡大させてしまったのだ。
国民的な議論のためには、 しっかりした事実の提供が必要だ。 その事実の提供こそが、 メディアに課された第一の社会的責務だ。 ピンチの鳩山内閣を揶揄するのはもうよい。 自分自身の社会的責務をしっかりと果たして欲しい。
時間は、 まだある。