梅田正己/編集者/11月沖縄知事選の最大の争点は、「日米安保をどうとらえるか」 ということ10/11/09

 

11月沖縄知事選の最大の争点は、

「日米安保をどうとらえるか」 ということ

 

梅田  正己 (書籍編集者)

 

 

◆普天間問題は 「ローカル」 な問題なのか

 

  11月6日の朝日新聞に、 こんな見出しの記事があった。

 

  「菅内閣、 冷ややかな対応」 「名護市長、 閣僚に会えず」

 

  沖縄の米軍普天間基地の 「移設先」 として、 日米両政府は今年5月、 名護市辺野古の 「サンゴとジュゴンの海」 埋め立ての合意を再確認している。 それに反対する意見書を、 当の名護市の稲嶺市長と比嘉市議会議長が閣僚に手渡そうと上京したが、 ついに閣僚に面会できぬまま沖縄に帰ったという記事だ。

 

  「名護市幹部によると、 移設容認だった前市長時代は上京時に閣僚が会うのが通例だった」 という。 ところが今回は門前払いで追い返された。 さる9月の市議選では、 移設反対派が大勝、 10月15日には 「日米合意の撤回を求める意見書」 を採択した。 その意見書を届けようと沖縄から上京、 前もって内閣府や外務、 防衛両省の政務三役、 民主党幹部に会いたいと申し入れていたのに、 誰にも会えなかったというわけだ。

 

  このことについて、 仙谷官房長官は記者会見でこう言ったそうだ。

 

  「どこに、 どう申し入れたのか関知していない」

 

  記事も 「冷ややか」 と書いていたが、 テレビで見るあの姿が目に浮かぶ。 さらに、 官房長官はこうも言ったという。

 

  「沖縄に対する優先度は (他自治体の) 100倍くらい時間を作って会っている。 誠意を持って対応している」

 

  この発言の真偽は問わない。 問題は、 他の自治体との対比でとらえ、 しゃべっていることだ。 つまり、 稲嶺名護市長らの会見申し入れを 「ローカルな問題」 ととらえていることだ。

 

  米軍普天間基地問題=辺野古移設問題は、 たんに 「沖縄の問題」 だろうか。 そんなことはあるまい。 これこそ、 いま日本が直面している日米関係の核心の問題ではないか。 だからこそ、 その対処で行き詰まった鳩山氏は総理の座を降りたのではなかったか。

 

  政権の舵をとっている人物が、 普天間問題を沖縄の 「ローカルな問題」 と見ている。 あるいは見なそうとしている。 こんな有様では、 この国は今後もなお 「対米従属」 を続けざるを得まい。

 

◆今も信じられている 「グアムに移るのは司令部だけ」 というウソ

 

  同じ朝日新聞のその前日 (11月5日付) の紙面である。 「沖縄知事選  2氏対談」 という大きな記事が掲載された。 11月末の沖縄知事選をひかえ、 現知事の仲井真弘多氏と、 その対立候補である伊波洋一 ・ 前宜野湾市長の 「対論」 である。 司会は、 朝日の那覇総局長 ・ 後藤啓文記者がつとめた。

 

  大きな記事と書いたが、 じっさい長時間にわたった対談で、 「アサヒ ・ コム」 で報じられた速記録をプリントアウトすると、 A4の用紙で実に20枚にもなった。 これだけ長文の記録を限られた字数に圧縮するのは大変だったろうと思うが、 ここでは新聞に掲載された記事だけについて述べる。

 

  「対論」 の主題は、 もちろん普天間基地問題である。 司会が、 伊波氏にたずねる。

 

  「――伊波さんは米領グアムへの移転が持論です」

 

  それに対して、 伊波氏が答える。

 

  「米同時多発テロ後の米軍再編の流れだ。 2006年に日米両政府は (14年までの) 普天間の辺野古移設と、 沖縄の海兵隊 (司令部) 8千人のグアム移転に合意した。 だが、 米軍の公開文書などによると、 グアムには米海兵隊の航空部隊も移る。 普天間の航空部隊は辺野古ではなくグアムに移るというのが私の主張の前提だ」

 

  文中、 ( ) は新聞社側の補足である。

 

  二つ目の補足、 「沖縄の海兵隊 (司令部) 8千人のグアム移転」 が、 私には気に入らない。 グアムへ移る8千人は司令部だけ、 というのは最初から政府と、 その言い分を鵜呑みにしてきたメディアが撒き散らしてきたゴマカシである。

 

  そのウソのからくりは、 すでに私はこの同じコラムで明らかにしたが (メディアがいまだに報道せぬ 「米軍グアム統合計画」 =10.04.17)、 もう一度、 述べる。

 

  沖縄にいる海兵隊は、 09年9月末で約1万5,000人である (沖縄県基地対策室) 。 実数は、 ローテーションで外国を回っているためこれよりだいぶ少ないといわれるが、 仮に1万5千人として、 そのうちの8千人、 半分以上が司令部要員だということ――野球チームにたとえれば監督 ・ コーチ陣が選手の数より多いということが――軍の構成として考えられるだろうか?  しかも、 司令部と実戦部隊を――監督 ・ コーチ陣と選手たちを分離するように――海をへだてて分離して配置するということが、 軍の常識として考えられるだろうか?

 

  ちょっと考えれば分かるウソを、 米国政府はつき通してきた。 なぜか?  普天間の代替施設として新たに建設する基地を確保するためには、 実戦部隊 (航空部隊) を沖縄に 「残す」 ことが必要だったからだ。 そのウソを、 日本政府 (自民、 民主ともに) 受け入れ、 メディアもまんまとそれに乗せられてしまったのである。

 

  そしてそのウソを、 メディアは今もって信じているらしい。 それでわざわざ 「沖縄の海兵隊 (司令部) 8千人」 と補足を加えたわけである。 しかし、 先の引用ですぐに続けて、 伊波氏はこう言っている。

 

  「だが、 米軍の公開文書などによると、 グアムには米海兵隊の航空部隊も移る。 普天間の航空部隊は辺野古ではなくグアムに移るというのが私の主張の前提だ」

 

  ここで伊波氏が 「米軍の公開文書」 と言っているのは、 昨年11月公表の、 米海軍省が沖縄海兵隊の移駐を中心とするグアム統合計画を実施するために行った 「環境影響評価」 のことだ。

 

  そこには、 環境アセスを行う前提として、 どんな部隊が、 どれだけ移駐し、 そこで行う訓練や演習のためどんな施設を整備 ・ 建設するかということが具体的に記されていた。

 

  その中に沖縄の海兵航空隊も含まれており、 その移駐先は、 普天間基地の13倍も広い、 既設のアンダーセン空軍基地の北東に位置する飛行場だと明記されていたのだ。

 

  インターネットで公開されたこの 「事実」 をたずさえて、 伊波氏は何度も上京し、 民主党の政府や議員たちに普天間基地問題の根本からの再考を訴えてきた。

 

  しかし、 政府も議員たちのおおかたも耳を貸さず、 メディアもまた黙殺してきた。

 

  つい最近、 私自身、 著名な軍事記者が講演の中で、 「グアムに移るのは司令部だけ」 とあっさり言ってのけるのを聞いた。

 

  引用した伊波氏の発言中、 (司令部) と付け加えたのは新聞社であり、 文意をととのえるために、 その後に 「だが」 という接続詞を挿入したのである。 「アサヒ ・ コム」 の速記録では、 伊波氏はもちろんそんなことは言っていない。 対談のこの部分は、 新聞社側が 「創作」 した発言である。

 

◆グアム統合計画はすでに出発進行している

 

  伊波氏のものとされる上の 「創作発言」 に当たる部分を速記録から探してみると、 次のような発言が目に付く。

 

  「現にグアムで、 普天間の部隊が持っているような、 格納庫や駐機場や整備施設が造られる計画が動いている。 この整備に日本政府は1千億近いものを出している。 どのように、 といいますけれども、 それを実施すれば、 必然的に、 普天間の部隊はグアムに移ることになる。 そのことを日本政府は国民に明らかにしないまま進めているので、 日本国内では普天間問題の本質的な意味をわかっていない」

 

  じっさい、 計画はすでに出発進行している。 それは、 インターネットに 「防衛省  グアム移転」 と打ち込んでクリックすれば、 すぐに分かる。 いくつかの項目が表示されるが、 その一番目が、 「平成22年度予算におけるグアム移転関連経費について」 (22.4.27) である。

 

  それをクリックすると、 「真水」 事業について、 計468億円とあり、 続いて工事費の内訳が示される。 「真水」 とは、 日本の国家予算からの直接的な財政支出のことで、 米軍再編のグアム統合軍事開発計画のために、 今年度、 日本は468億円を負担するための予算措置を行ったということだ

 

 このグアム統合計画の中心は、 繰り返すが、 沖縄の海兵隊員8,600人 ・ 家族9,000人の移転である。

 

  すでに税金から資金を支出しながら、 政府は国民にそれを知らせない。 メディアも知ろうとしない。 前に私がこのコラムで 「世にも不思議な物語」 と書いた状態が今もって継続している。

 

◆今度の沖縄知事選の最大の争点は 「日米安保」

 

  以上に指摘したような問題点はあったが、 この 「対談」 記事は、 今回の知事選の最大の争点というべきテーマを、 はっきりと提示して見せてくれた。 日米安保条約のとらえ方をめぐっての対立だ。

 

  仲井真氏は、 以前は、 普天間代替基地の 「県内移設」 を認め、 それで知事に当選したが、 今回は県民世論の流れに従って、 「県外移設」 へと変わっている。

 

  一方、 伊波氏は、 グアムを予定しての 「国外移設」 だ。 「県外」 か 「国外」 かの違いはあるが、 「県内」 を否定していることでは変わりない。

 

  しかし、 米軍基地の法的な根拠である日米安保条約をどうとらえるか、 になると、 二人は鮮やかな対照を見せる。

 

  まず伊波氏。 「――日米安保条約を改めるべきだということですか」 と尋ねられて、 こう答える。

 

  「改めるべきだ。 米国の戦略に組み込まれるような日米同盟の深化ではなく、 隣の中国などとの関係も大事にしながら、 友好条約に転換する流れを模索すべきだ」

 

  これに対し、 仲井真氏は、 「安保条約は堅持すべきだ。 日本を含む東アジアの平和に貢献してきたが、 まだまだ安定していない」

 

  仲井真氏はまた、 このすぐ後でもこう言っている。

 

  「安保条約を結んでいることが広い意味で抑止力だ」

 

  日米安保条約=安保体制のとらえ方の背後には、 「軍事力 (軍隊 ・ 軍事基地) 」 についての二人の見方の決定的な違いがある。

 

  「――尖閣諸島をめぐり中国との関係が緊張しています。 沖縄県の先島諸島への自衛隊配備をどう考えますか」 の問いに対しては、

 

  仲井真  自衛隊の配備は一定の規模は必要だ。

 

  伊  波  配備すべきではない。

 

  また、 「――政府が辺野古移設を進めるため、 公有水面の埋め立てに必要な知事の許可を求めてきたらどうしますか」 という質問に対しては、 仲井真氏が 「仮にという質問には答えられない」 と交わしたのに対し、 伊波氏は 「認めない」 と言い切っている。

 

  太平洋戦争では、 日米 「最後」 の、 そして 「最大」 の戦闘だった、 3カ月にわたる沖縄戦において、 沖縄県民の4人に1人が命を奪われた。 そして戦後は、 米国 ・ 軍の圧制と、 日本政府の傍観によって、 巨大な軍事力の下での生活を余儀なくされてきた。 1972年の日本への復帰後は、 その 「境遇」 に 「安住」 させるための資金が、 本土政府から注ぎ込まれた。 その結果、 「基地経済」 「土建王国」 といった言葉が生まれた。

 

  しかし、 沖縄戦から65年、 沖縄県民の肝心 (ちむぐくる) に染み付いている沖縄戦以後の歴史的体験が、 いま外部に響く声となって噴き出してきたような気がする。 そのため、 今回の知事選は、 たんなる基地問題を超えて、 日米関係の根幹をなす安保体制を問う選挙となっているのではないか。 私には、 そんなふうに思われるのだが。 (了)