梅田正己/編集者/日本のメディアが伝えない軍事超大国の実像―新刊 『戦争依存症国家アメリカと日本』 紹介―10/11/30

 


 

日本のメディアが伝えない軍事超大国の実像

―新刊 『戦争依存症国家アメリカと日本』 紹介―

 

梅田  正己 (書籍編集者)

 

 

 

  沖縄知事選は、 仲井真候補の再選に終わりました。 伊波知事の誕生を期待していた私としてはまことに残念ですが、 しかし視点を変えれば、 半分は勝利したと言えるのではないでしょうか。

 

  なぜなら、 伊波さんとの対決を迫られるなかで、 仲井真知事もついに普天間基地の 「県外移転」 を明言 ・ 公言せざるを得なかったからです。 もはや、 後戻りは許されません。

 

  仲井真知事の当面の交渉相手は、 菅政権です。 しかし、 菅政権とどんなに交渉を重ねても、 事態の解決は望めません。 現在の民主党政権に、 その当事者能力がないからです。

 

  普天間基地を 「所有」 しているのは、 アメリカ (軍) です。 アメリカに働きかけ、 アメリカを動かさない以上、 事態は動きません。 ところが日本政府は、 アメリカと正面から交渉することが出来ないのです。 戦後65年、 日本の保守政権は、 アメリカの忠実な従僕でありつづけ、 「従属」 がその 「体質」 と化したからです。

  昨年の政権交代が、 その 「体質」 から脱皮するための絶好のチャンスでした。 しかし、 烏合の集団である民主党は、 その機会をむざむざと見逃してしまいました。 いや、 同党のほとんどは、 「機会を見逃した」 という、 そのこと自体に気がついていないのかも知れません。

 

  軍事的に見て、 米軍が普天間基地を必要とする理由はありません。 伊波さんが選挙中くりかえし訴えたように、 米軍は再編によって、 グアムをアジア太平洋のハブ基地とする計画を立て、 すでに着手しているからです。 そこには、 普天間のヘリコプター部隊を含め、 沖縄の8,600人の海兵隊を、 家族9,000人とともに移し、 あわせて、 既存のアプラ軍港を拡張 ・ 整備し、 原子力空母の停泊基地を造ろうとしています。

 

  米海軍は、 現在、 横須賀を母港とする空母ジョージ ・ ワシントンに加え、 もう一隻の空母を投入して、 西太平洋に原子力空母2隻態勢を組むことを望んできました。 グアムのハブ基地化によって、 その念願がかなうのでしょう。

 

  したがって、 普天間のような、 「世界一危険な」 欠陥基地など、 もう要らないのです。 また、 沖縄に海兵隊を置いておく軍事的根拠はなくなったのだから、 滑走路2本 (V字型) に軍港までそなえた 「辺野古基地」 を必要とする理由などあるわけはないのです。

 

  それなのに、 米国は、 グアムのハブ基地建設のために、 日本に費用の6割を負担させながら、 沖縄に新しい基地が必要だという。 日本政府が何の異論もさしはさまず、 唯々諾々と従っているからでもありますが、 何よりも米国が、 軍事力を生きがいとし、 軍事力に頼らなければ生きていけない 「軍事国家」、 いや 「戦争依存国家」 となっているからです。

  さて、 この 「戦争依存症国家」 という用語を書名にした本が出版されました。 いかにも刺激的なネーミングですが、 これは、 出版社が考えたものではありません。 著者の実感から生まれた言葉だと、 「あとがき」 に書かれています。

 

  といって、 著者の吉田健正さんは単なる反米主義者ではありません。 沖縄の高校を出て、 米国ミズーリ大学と同大学院に留学、 卒業後、 AP通信社やニューズウィークの東京支社で働き、 今も何人ものアメリカの友人と交流があるそうです。 それだけに、 現在のアメリカの 「独善覇権国家」 ぶりに苛立ちがつのるのでしょう。

 

  この10月から始まった米国2011会計年度で、 軍事費の国家予算に占める割合は約23%、 第二次大戦後の65年間を通じて最高額に達しています。 あのベトナム戦争当時をはるかに上回っているのです。 またストックホルム国際平和研究所 (SIPRI) の2010年年鑑によると、 米国の軍事費は世界全体の軍事費の半分近く、 43%を占めています。

 

  「貧困大国」 とまで呼ばれる、 この公知の経済危機、 財政危機のなか、 国家予算の4分の1近くを占め、 「聖域」 とされてきた軍事費に対しても、 最近さすがに削減要求の声が議会の内側やマスコミからも噴き出してきました。

 

  下院の有力議員のグループは、 10年間で9,600億ドル (約80兆円) の削減案を提案しています。 その削減策の中には当然、 海外に配備している米軍の削減も含まれています。 実際、 その中の一人、 B.フランク議員 (下院金融委員長) は公共ラジオ放送の中で、 「沖縄駐留の海兵隊は第二次大戦の遺物」 と切って捨てています。

 

  こうした米国内の動きは、 現在の沖縄の基地問題にも大きく影響するはずです。 ところが、 日本のメディアはこうした米国内の動向を殆んど伝えてくれません。 なぜか。 理由は、 安保をめぐる情報は、 日本ではもっぱらR.アーミテージ氏をはじめとするいわゆる 「知日派」 (ジャパン ・ ハンドラーズ) を通じてしか入ってこないからです。 したがって、 日米安保体制を拡大 ・ 強化する方向での情報以外は取り上げられないのです。

 

  米国メディアに勤務した後、 桜美林大学で国際政治を講義し、 4年前に沖縄に帰郷、 沖縄の地でインターネットを駆使して米国の状況を日々フォローしてきた著者による本書は、 こうした日本のメディア状況に対する一つの異議申し立てといえます。

 

◇新刊紹介

 

  「軍事超大国」 アメリカの実像を伝え、 普天間基地問題を含む日本の安保問題を、 主体性をもって考え、 判断する材料を、 本書はふんだんに提供してくれるはずです。

(吉田  健正 著  四六判 ・ 192ページ ・ 1500円 〈税別〉 高文研発行)