梅田正己/編集者/沖縄海兵隊のグアム移転――8000人がなぜ「4700人」になったのか? 12/02/09
沖縄海兵隊のグアム移転――8000人がなぜ「4700人」になったのか?
梅田 正己 (書籍編集者)
2月8日、玄葉外相は、米軍再編見直しについての日米基本合意を発表した。
その中で、沖縄に駐留する海兵隊のグアム移転については、06年の日米合意で決定していた8000人を、4700人に縮小するとなった。
では、なぜ4700人なのだろうか?
何の根拠にもとづいて、こんな半端な数字になったのだろうか?
米国・米軍はそれをどう説明しているのだろうか?
――政府の説明もなく、メディアも伝えていない。
■海兵隊グアム移転のため、日本はすでに963億円を支出!
06年の日米合意のロードマップでは、沖縄の負担を軽減するため、海兵隊8000人とその家族9000人がグアムへ移転することになっていた。
そのためには、軍の施設のほか、住宅をつくり、インフラを整備しなくてはならない。
その費用、103億ドルのうち、日本側が61億ドル、米国側が42億ドルを負担することとされた。
日本と米国、ほぼ6対4の割合である。
グアムは米国の自治領、つまり米国領である。他国の領土にある軍事基地を、日本政府が国民の税金を投入して建設し、整備するというのは、どう考えてもおかしい。
しかし、沖縄の負担軽減のためということで、日本政府は米国側の支出を上回る負担を了承した。いわば立退き料である。
このグアムへの出資を合法化するため、政府は「駐留軍等の再編の円滑な実施に関する特別法」という法案を作って国会に提出、承認された。
現在すでに日本政府は、平成21(2009)年度分として346億円、平成22(2010)年度分として468億円、平成23(2011)年度分として149億円をアメリカに支払っている(合計963億円)。
以上のことは、防衛省のホームページを見ればわかることである。
■4700人の海兵隊員が移転するのに予算はゼロ?
この日本側に対し、米国側は2010年度が約3億ドル(当時のレートで240億円)、2011年度が約1.07億ドル(同86億円)を支出した。予定額のまだ1割にも満たない。
ところが、2012年度は予算措置そのものが出来なかった。
なぜか?
議会が承認しなかったからである。
周知のように、アメリカはいま、日本の財政危機にも劣らぬ火の車となっている。
予算削減のため、オバマ政権はついにこれまで聖域とされてきた軍事費にも手をつけ、今後10年間で4870億ドル(40兆円弱)の防衛予算の圧縮を発表している。
そうした中、移転計画のインフラ部分に疑問がある、また先住民の中に反対運動があるといった理由で、沖縄海兵隊のグアム移転に待ったがかけられたのである。
海兵隊の海外駐留そのものが議会で問題にされる中、米政府・軍の海兵隊グアム移転計画がどうなるか、まだ何といえない。
ただ、予算措置がきわめて困難になったことは明らかである。
それなのに、今回、アメリカ政府は4700人のグアム移転を発表した。
5千人近くの軍人(それにプラス家族も)が新たな土地に移転して駐留するとなれば、まず住宅が必要となるし、上下水道などインフラも整備しなくてはならない。
そのための予算措置もまだ保障されていないのに、アメリカ政府はどんなマジックを使って4700人の海兵隊員をグアムへ移転させるのか?
■日本側の支出だけでグアム移転は可能
ここで簡単な割り算をしてみよう。
4700÷8000
である。答えは、0.5875。四捨五入して0.6、つまり6割。
この6割という数字を見て、何か頭に浮かんでこないだろうか。
そう。在沖海兵隊8000人がグアムへ移転するための日本側負担の割合である。
この6対4という分担比率を決めた際、その支出をどんな施設・設備に使うか、両政府で決められた。それによると、
▼日本側6割の使い先は
――司令部庁舎、教場、海兵隊員の宿舎、家族住宅、それにインフラ整備(電力、上下水道、廃棄物処理)
▼米国側4割の使い先は
――ヘリ発着場、通信施設、訓練支援施設、燃料・弾薬保管施設などと高規格の道路
となっている。
つまり、新たに駐留する海兵隊員が生活するための施設やインフラは、基本的に日本が提供する資金で建設し、整備できるのである。
ということは、アメリカ側の支出がゼロであっても、日本側の支出だけで在沖海兵隊のグアム移転は可能だということだ。
■日本側の出資金で軍事施設の整備も
それに、移転する人数が6割となれば、日本側の当初の支出額61億ドルからはお釣りが来る。
インフラなどは別として、少なくとも住宅などは人数が6割になるなら6割ですむ。
では、余った分をどこに使うか。
ヘリ発着場や訓練施設など、軍事用施設の整備に使うのである。
もともとグアムには、普天間基地の13倍もの広さをもつアンダーセン空軍基地や、天然の良港であるアプラ軍港、広大な海軍弾薬庫などの軍事施設がある。
新たに基地をつくる必要はなく、海兵隊用の訓練施設を整備あるいは新設すればいいのである。
そこで問題をうんと単純化して試算してみる。
* 当初の予算総額:100億ドル、うち日本側の支出額:60億ドル(約60%)
* 当初の海兵隊移転数:8000人
* 今回の海兵隊移転数:4700人(約60%)
* 4700人のための生活施設建設費:36億ドル(60億ドル×0.6)
* 日本支出の剰余=軍事施設整備用: 24億ドル(60億ドル-36億ドル)
こうしてみると、アメリカ側は予算がつかなくても、4700人の海兵隊グアム移転は可能なのである。
■試される野田政権
ところが、これには一つ、問題がある。
日本側から、移転の人員が6割になったのだから、分担額も6割、つまり36億ドルに減額すべきではないか、という申し出が予想されることである。
この当然の要求に、アメリカ側はどう答えるのか。
その答えが、ローテーションである。
当初の移転人数8000から4700を引いた、残り3300人は、オーストラリア、フィリピン、ハワイなどをローテーションさせて、そこで有事に備えながら訓練をする、というのである。(こともあろうに、そのローテーションの候補地に岩国も入っている。)
こうして、グアムに移転するのが4700人、ローテーション組にまわるのが3300人、合わせて8000人が沖縄を離れることになるわけだから、当然、当初の約束どおり、グアム移転費として60億ドル、出してもらえるんでしょうね。
つまり、行き先は分かれるとしても、沖縄を立ち去るのは当初と同じ8000人なのだから、立退き料に変わりはないでしょうね。
――というのが、アメリカ側が立ててくる「論理」であろう。
この「論理」にどう立ち向かうのか、野田政権が試される。