岩崎貞明/放送レポート編集長/教育基本法関連報道に思う /06/12/01    


教育基本法関連報道に思う

岩崎 貞明(放送レポート編集長)

テレビでは「中学生がいじめで自殺」や「高校の未履修・単位不足」など、教育をめ
ぐるニュースは決して少なくない。しかし、安倍首相が「今国会の最重要法案」とし
ている教育基本法改定をめぐるニュースは、ほとんどまったく扱われていない。いま
や教育基本法の改定案は衆議院では野党欠席のまま採決が行われ、今国会で成立の勢
いだとされる。しかし、テレビの報道を見ている限りでは、どのような審議が展開さ
れているのか、またなぜそのように法改正を急ぐのか、わからない点が数多く残され
たままだ。

その少ない中で、

 

 

 

 

TBSの奮闘は目に付いた。夕方の「イブニング5」や夜の「筑紫哲也NEWS23」で、改定案の問題点やタウンミーティングのやらせ問題などについて、努力して報じていた。

 

 

 

 

 

また、関口宏の「サンデーモーニング」でも、改定案の問題点をたびたび指摘していたのも評価したい。

ただ、いずれももう少し早い時期に放送されていれば、といううらみは残る。

日本のテレビニュースは全般的に「事件・事故」が占める割合が圧倒的に多い。最近この傾向はますます強くなっているように感じられる。これは、衝撃的な映像で視聴者の感覚に訴え、高視聴率を稼ごうとする傾向の現れだ。あらゆるニュースが、「数字が取れるかどうか」という基準で価値判断が行われる結果、法案審議のような「絵になりにくい」ニュースより、派手な映像をともなったニュースのほうが好まれるこ
とになる。

教育基本法案関連報道が非常に少ない理由について、あるキー局報道幹部に直裁に聞いてみた。するとしばし黙考の末、「現場記者の問題意識のなさ」ではないかという答えが返ってきた。多分に言い訳めいているところはあるが、この答えを受けて考えたことを二点ほど指摘したい。

 

ひとつは、文字どおり政治記者の取材能力の低下だ。小泉首相のときから一日二回、
立ったまま共同インタビューに応じる「ぶら下がり」取材が行われるようになった。
だが、インタビューのマイクを向けるのはほとんどが記者になったばかり、といった
感じの駆け出し政治記者たちで、彼らは事前に打ち合わせたとおりの質疑応答に終始
して、ろくに追加質問もしていない。これは、「総理番」は「特落ち」のない世界だ
から新人記者でよい、とする旧来の陋習の産物であり、記者クラブ制度の弊害のひと
つとも言えよう。

しかし、あえて若い記者たちを弁護すれば、自ら問題意識を育てることができないほ
ど、現場の若い記者たちは視聴率の「奴隷」のように、日夜こき使われている。自由
にモノを考え、発言することが困難な環境下では、まともな仕事はできない。それ
に、重要な場面で一国の総理に取材するのなら、それなりに経験を積んだ記者が当た
るべきではないだろうか。記者個人の資質もさることながら、組織ジャーナリズムの
真価が、いま問われているのではないかと思う。

もう一点は、私の質問に答えた某局幹部のように、報道の現場において、現状の取材
体制における問題点を曲がりなりにも自覚している人が少ないながらも存在している
ということだ。放送の内容を少しでもましなものにしていくためには、われわれのよ
うに放送局の外にいる者が、局の内部にいる良心的な層に働きかけて、ともに手を結
んでいく以外にないと思われる。放送を担う人々への厳しい批判も必要なのは言うま
でもないが、批判ばかりではまた聞く耳を持たれなくなる、というものだろう。放送
局の内部の人々には、外部の市民の声を積極的に聞く機会を作ってほしいと思うし、
外部のわれわれは、放送局の内部で努力している人たちに届くような声を発していく
必要があると思う。