岩崎貞明/放送レポート編集長/放送法改定案に反対する /07/04/02   


放送法改定案に反対する    

放送レポート編集長 岩崎 貞明

 政府は放送法の改定案を今国会に提出する準備を進めている。この改定案は、関西テ
レビの『発掘!あるある大事典U』の捏造問題を受けて、「虚偽の説明により事実で
ない事項を事実であると誤解させるような放送であって、国民経済又は国民生活に悪
影響を及ぼし、又及ぼすおそれのあるもの」を放送した放送局に対して、総務大臣が
「再発防止計画」の提出を求め、大臣の意見を付けて公表するという制度が新たに導
入されている。
 確かに、実験データやインタビュー内容を捏造して放送したという今回の事態が社
会に大きな混乱をもたらしたことは紛れもない事実で、放送局や番組制作者の責任は
厳しく問われなければならない。しかし、そのことを理由に、行政機関が放送番組の
内容に踏み込んで権限を行使しようとすることは、憲法・放送法が保障する表現の自
由・番組編集の自由の観点から、どうしても容認することができない。
 この改定案では、「虚偽の説明」や「事実でない事項」に該当するのかどうかを判断
する主体は行政当局になる。事実とは何か、というのは認識論にもかかわる実に哲学
的な命題で、少なくとも役所が認定するような種類のものではないはずだ。さらに、
菅総務相の国会答弁によれば、この条項の対象となる番組は報道からバラエティまで
ほとんどすべての番組に及び、放送法三条の二「報道は事実を曲げないですること」
を大きく拡大解釈するものとなる。放送法には「番組調和原則」という条項もあり、
総合放送の放送局は報道・教養・教育・娯楽の各番組をバランスよく配分して放送す
ることを求められている(ちなみに『あるある〜』は娯楽番組ではなく、教養番組と
して総務省に届け出られている)。だとすれば、放送法三条の二「報道は…」は報道
番組にかかるという解釈が自然で、娯楽番組まで「事実を曲げないですること」など
と言われる筋合いはないのではないだろうか。
 そもそも、「事実でないことをさも事実であるかのように見せる」のがフィクション
やパロディの真骨頂であるはずだ。
 このように表現行為というものは実にデリケートな問題を含んでいるもので、もっと
慎重に検討されるべきだ。さらに、「放送倫理・番組向上機構(BPO)」が今回打
ち出した「放送倫理の確立と再発防止に関する委員会(仮称)」の新設のような自主
的な取り組みを、総務省がまったく無視していることにも、強い疑問を抱かざるを得
ない。
 諸外国では、政府の意向が直接、放送の内容に影響を及ぼさないようにするために、
有識者などによる独立規制機関を設置して、放送内容に関する苦情の受付や指導、制
裁などをそこが独立的な判断で行うようにしていることが通例となっている。放送免
許の付与権限を背景に、番組表現状の細かい部分にまで立ち入って厳重注意の処分を
下すというやり方は、世界の非常識だということを念頭に入れたほうがいい。放送業
界の自立的規制など当てにならない、という声は高まるばかりだが、だからこそ、B
POのような自主的第三者機関を一つの軸として、政府からは距離をおいた規制機関
の実現を再考すべきだと思う。