岩崎貞明/放送レポート編集長/読売テレビ『今夜はシャンパリーノ』/07/12/15


       読売テレビ『今夜はシャンパリーノ』

 

 読売テレビ制作、日本テレビ系放送のバラエティ番組『今夜はシャンパリーノ』がさる11月5日、憲法9条を特集した。この番組は、ときに社会的なテーマを取り上げ、それについてお笑いタレントが勉強した上で先生役を務め、タレントたちに講義を行うというユニークなスタイルの番組だ。

 今回、先生役を務めたタレントは、「ギター侍」で一世を風靡した波田陽区。波田は、金田一秀穂・杏林大学教授による憲法9条の現代語訳を紹介する。「日本人は平和が大好きで、決してほかの国と戦争をしたり、戦ったりしない」「そのために、軍隊を持たないし、戦争する権利も持たない」。幅広い視聴者を意識した、うまい意訳 だ。

 もっとも、そのあとに出てきた「ギャル語訳」による憲法9条「ウチらね、まったりしてたいしぃ、平和がスキだからぁ、せんそーいらない」はやりすぎだと思う が。
 波田が紹介する朝日新聞の07年5月の世論調査は、「憲法9条は改正しないほうがよい」が49%、「改正したほうがよい」が33%だった。

 ここで番組司会の島田紳助 が「改正したほうがよいという人の中には、軍隊を持たないことをもっとはっきり 書いたほうがいい、という人も入っている」と、的確な突っ込みをいれる。  
 ここで生徒役のタレントたち(陣内智則・ユンソナ・斎藤洋介・真鍋かをり・出川哲 朗・和希沙也)に護憲・改憲いずれの意見かを問うと、意見が半数ずつに分かれた。 出川は「日本はアメリカに頼りすぎだから、自分の国は自分で守るべき」と言う。

 番組の中心部は波田による各政党代表者へのインタビューだ。自民党の谷垣偵一政調会長は、自民党の「新憲法草案」が自衛隊を「自衛軍」と表記していることについて「自衛隊を持てるとはっきりわかるように変える」「外国からは自衛隊も軍隊と見ら れている」と説明。

 波田の「集団的自衛権は?」という問いに「いままでは持てないという解釈だった」と、新憲法で集団的自衛権を行使することを示唆した。民主党の 鳩山由紀夫幹事長も「自衛隊を認めるような形で9条2項を変えるべき」と、自民党同 様の主張をする。波田がインド洋での給油活動について聞くと、鳩山は「違憲」と答えたが、民主党の小沢一郎党首が主張するISAFへの参加については「ありうる」 と言う。

  波田が「海外で武力行使すれば給油より憲法違反では?」と鋭く切り込むと、鳩山は「国連決議の下なら、危険が高くてもやるべき」とよくわからない回答だった。公明党の太田昭宏代表は自衛隊合憲を書き加える「加憲」を説明。自民党の新憲法草 案には反対を表明したが、インド洋での給油活動は武力行使でないからよいとする。

 波田の「インド洋で攻撃されたら?」の質問には「応戦しないで逃げればいい」と、無責任とも取れる回答だった。共産党の志位和夫委員長は「自衛隊は違憲」と明言して、軍縮に向かうべきだと主張する。

 ただ、現状では「共存はやむを得ない」という判断。これを受けた島田紳助が「禁煙したいと思いながらタバコを吸っている、ということ」と解説して笑いを取る。社民党の福島みずほ党首は「自衛隊が海外に行くの には反対」「災害救助隊、国境警備隊に変えるべき」と主張。国民新党の亀井静香代 表代行は「だれでもわかるような条文にすべき」と改憲を主張するが「今の状況で自衛隊を海外に出すべきでない」とも言う。
 
 波田が07年の通常国会で改憲手続法(国民投票法)が成立したことを紹介すると、なんとスタジオのタレントは誰もそのことを知らないと言う。波田は最低投票率の定めがないことなど、改憲手続法の問題点を指摘する。その上でもう一度、タレントたちに改憲の是非を問うと、当初は改憲に挙げていた出川哲朗が「危ない気がしてき た」と護憲に回った。
 
 しかし、当初護憲だった真鍋かをりが「あいまいなところをはっきりさせたほうがいい」と改憲に転じて、番組としてバランスに細かく配慮する 姿勢を見せていたのは、政治的公平に対する制作スタッフの努力(?)を垣間見たよ うな気がした。  

 番組では、波田の後見人として小沢隆一・慈恵医大教授が時おり補足説明をして視聴 者の理解を助けていたし、島田紳助もおおむね適切なフォローをしていたが、もっとも特筆すべきは波田陽区の優れたインタビューアーぶりだろう。各政党代表が主張することに対し、臆せずにポイントを突いた質問を重ねて先方をうならせていたのが印 象的だった。  

 
  一方、同番組では12月3日放送分で沖縄の米軍基地を特集したが、こちらのほうはちょっと疑問を感じる内容だった。お笑いタレントのほっしゃん。が先生役を務め、 在沖縄アメリカ総領事などにインタビューを行って基地問題の実情を調べ、スタジオのタレントたちに解説していくのだが、番組全体として「日本の防衛のために沖縄に米軍が駐留することは必要だ」という観点で制作・編集されていたように感じた。

  例えば、在日米軍に対する「思いやり予算」の約60%が米軍基地に勤める日本人従業員の労務費であることを強調したり、辺野古で基地移転反対運動を展開している市民 のことには一言も言及しなかったりと、ある意味で意図的な番組作りがなされていた ように思われる。何よりも、スーパーバイザーとして保守派の論客である森本敏拓殖大学大学院教授を招いていたことが、番組の性格を如実に物語っていたと言えよう。

 沖縄には日本テレビ系列局がないから、沖縄の立場をまるで軽視するような番組を作ってもかまわないと考えたのだろうか?
このページのあたまにもどる (放送レポート編集長 岩崎 貞明)