岩崎貞明/NHK「日本のこれから」 06年6月10日放送/06/06/15

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NHK「日本のこれから」 06年6月10日放送

『放送レポート』編集長 岩崎 貞明 ▲http://www.mediasoken.org/

 

NHKがシリーズで数カ月おきに放送している大型討論番組『日本のこれから』。今回は米軍再編問題を取り上げて、三時間近くの生放送を行った。スタジオには額賀福志郎・防衛庁長官、森本敏・拓殖大学教授、漫画家の小林よしのりさん、女優の東ち づるさん、鈴木佑司。法政大学教授、ジャーナリストの斎藤貴男さんをゲストに迎え、全国の視聴者約50人がその後ろのひな壇にずらりと並んだ。司会はNHKアナウンサーの三宅民夫(下写真)・武内陶子の両氏。番組は「日本に米軍基地は必要か」「米軍との 連携を強化すべきか」などの質問をもとに、討論を展開していく。視聴者も携帯電話からアンケートに回答することができ、その結果も番組内で紹介された。


右派の論客として、いまや多くの若者の支持を集めている小林よしのりさんは以外にも「米軍基地は必要ない」。自国は自前の軍隊で守るべきだという、なるほど“民族派”らしい答えだった。東ちづるさんは軍隊の存在に対する一市民としての素朴な疑 問を提示して、好感が持てた。
スタジオに集められた視聴者には、沖縄在住の人(嘉手納市長を含む)、本土でも岩国や相模原など基地周辺の住民が多く、米軍基地のもたらす被害について訴えた。また、日本在住の中国人、韓国人もひとりずつではあったが、米軍再編問題について意 見をのべる機会を与えられていた。また、スタジオに巨大なスピーカーを持ち込んで、米軍の戦闘機による軍事演習の際の騒音を実体験するという試みも行われた。
今の時期、米軍再編問題をめぐってNHKが討論番組を組むことは意義のあることだと思われる。もっとも、米軍再編計画が確定する前にやるべきだった、という意見もあるだろう。しかし、筆者としてはNHKの番組編成には一定の評価を与えたい。ま た、視聴者を討論に参加させ、現職の防衛庁長官と直接対話を促し、沖縄在住の人に全国放送で発言する機会を提供したことの意義は認められる。
しかし、そうした点を勘案しても、この番組は国策宣伝の域を出ていなかったのではないだろうか。額賀長官には十分な意見陳述の時間を与える一方、スタジオの視聴者の意見は途中でもさえぎって番組を進行させる場面が何回か見られた。額賀長官が軍 事的な拡大への懸念に対して「日本の民主主義に自身を持っていい」と発言した際、斎藤さんがすかさず「ではなぜ憲法改正しようとしているのか」と突っ込んだが、答えがないまま進行していた。80歳になろうという沖縄戦体験者の女性の体験談も三宅アナウンサーによって途中で打ち切られたが、東京のスタジオまで高齢者を呼んでおいて、こんな失礼な対応はないだろう。
実は、この番組に先立って、6月8日、9日の2日間にわたってNHKスペシャル『シリーズ 変貌する日米同盟』が放送されていた。一日目は「負担は軽減されるのか」と題して沖縄や岩国など基地周辺の住民に取材した内容、二日目は「加速する一体 化」と題して米軍と日本の自衛隊の一体化が進むようすをルポし、あわせてスタジオ討論も行うという内容だった。基地負担の問題は現実をそのままレポートしたもので、地元住民の怒りはある程度伝わってきたが、「すでに決まってしまって仕方がな いもの」という印象で番組が構成されていたように思えた。二日目も現状報告に留まり、スタジオ討論では『日本のこれから』にも出演した森本・額賀・鈴木の3氏に加えて、アメリカの戦略国際問題研究所に本部長のマイケル・グリーン氏が中継で参 加。つまり、米軍基地容認・一体化推進派三人に鈴木教授が孤軍奮闘するというNHKとしてはひどくバランスを欠いた構成だった。これらの番組については、斎藤貴男さんが「ひどい番組だった」と『日本のこれから』の中で切り捨てていた。
この『日本のこれから』、国策宣伝のための「ガス抜き」番組だったと言ったら言いすぎだろうか。沖縄はまたしてもダシに使われただけだった、との印象をぬぐえない。ちなみに、携帯電話によるアンケートでは「日本に米軍が必要」という意見が多 数だったが、自衛隊と米軍の連携強化については「強化すべき」は少数だった。また、「平和を守るためには」という問に対する答えは「外交努力」がトップで、「米軍による安全保障」という回答は少なかった。沖縄と本土には、とても埋められそうもない深い断層が横たわっていることを改めて実感した。三宅アナウンサーが沖縄在住のスタジオ出演者に向かって「なぜ沖縄の心が本土に届かないのか」と問いかけていたが、この問いは本土の人に向けて発せられるべきものだろう。本土の視聴者一人ひとり、そして三宅さん、あなた自身に対しても。(了)