河野慎二/テレビウオッチ3/改憲先取りのテレビニュース/06/03/28
ケフモガッコウヘユケルノハ/ヘイタイサンノオカゲデス
/ヘイタイサンヨアリガトウ/
オクニノタメニ/オクニノタメニタタカッタ
/ヘイタイサンヨアリガトウ
−僕らの年なら、第2次世界大戦中だった子供のころ、こんな歌を歌っていた。半世紀以上過ぎたというのに、この歌詞がスラスラ出てくるのだから、「刷り込み(インプリン
ト)現象」は恐ろしい。 驚いたことに、最近のテレビニュースを視ていたら、またこんな歌を歌わされるんじゃないかと、錯覚を起こすようなシーンに出くわした。
2月12日、日本テレビの「真相報道 バンキシャ!」は、陸上自衛隊・離島専門部隊が米海兵隊と共同で実施した「日本の島を海から守る特殊訓練」の模様を放送した。
特殊訓練は、カリフォルニア州の米海軍コロナド基地で、米軍司令官の指導のもとで行われた。銃を抱え、防弾チョッキを着用した戦闘服姿の自衛隊員がプールを泳いで渡る訓練から映像が始まる。「プールの底に立つな!泳げ!実戦なら死んでしまうぞ!」と、米軍司令官の激が飛ぶ。高速艇で島に上陸する訓練では、重装備で海中から高速艇に這い上がる訓練や、銃を構えて上陸する訓練などがオンエアされる。
びっくりしたのは、スタジオのコメントである。女性コメンテーターは「専守防衛を逸脱している疑いがある。憲法上問題があるのではないか」とまっとうなコメント。ところが、「ご意見番」の河上和雄氏は「自衛隊の訓練は当然だ。何の問題もない」と強い調子で断言。河上氏は検察官出身の弁護士で、安全保障や防衛問題には門外漢のはずだが、女性コメンテーター氏も二の句を告げない“ド迫力”だ。
オイオイ、憲法や放送法はどうなんだ、日本テレビの番組基準を踏み外しているじゃないかと、思わず画面に向かって叫んでしまったが、翌日、日本テレビのホームページを見て仰天した。
そこで河上氏は「最近の北朝鮮や中国の動きを見ていると、中国を仮想敵国にするつもりはありませんが、中国が台湾を征服しようとした場合、沖縄を叩かれるということも十分あり得ます」と語っている。「中国が台湾を征服」とか「(中国に)沖縄を叩かれる」など、過激というよりは荒唐無稽に近い認識だ。問題は、このような考えの人物をレギュラーのコメンテーターとして解説させている日本テレビの姿勢である。
在日米軍の基地再編をめぐる日米協議や日米共同訓練などの実態は、ブラックボックス同然で、国民の目からは事実上遮断されている。米軍普天間飛行場の名護市辺野古崎移設など、今回の在日米軍基地再編問題は、「2プラス2」と呼ばれる「日米安全保障協議委員会」で協議されるが、国民にはその結論が示されるだけで、肝心の協議のプロセスは一切明らかにされない。密室協議の中で、日米間の軍事・防衛強化一体化政策が急ピッチで進められ、憲法はないがしろにされている。
本来なら、新聞・テレビを含めたメディアがこの密室協議の闇に分け入って取材し、その実態を国民に伝えることが望まれる。というのは、メディアが当局の発表を伝えるだけに甘んじていれば、その情報は世論操作の道具となって、読者・視聴者を誤導する結果になるからである。
特にテレビの場合、映像が欠かせない。日米共同訓練の実態を伝えようとすれば、その訓練の映像がないと話にならない。テレビ局が独自に取材を申し入れても、防衛庁や米軍
は簡単にOKしない。自分たちの広報・宣伝に役立つと判断すれば、取材のチャンスを提供する。日本テレビ「バンキシャ!」の特殊訓練はその典型例だ。溺れそうになって必死に上陸訓練を繰り返す自衛隊員の姿は、日米共同訓練の必要性を国民に植え付けるドンピシャの映像だ。
米軍や自衛隊にとっては、共同訓練の映像をテレビが垂れ流すだけでもオンの字なのに、「訓練は当然」「何の問題もない」とヨイショしてくれるのだから、大変な儲けものだ。
このような垂れ流しは「バンキシャ!」だけではない。NHKも1月のニュースで日米共同訓練の映像を、何回も無批判に垂れ流して顰蹙(ひんしゅく)を買っている。メディア全体にこうした風潮が何の抵抗も無く広まっているのは由々しいことだが、例外が無いわけではない。テレビ朝日の「報道ステーション」も昨年秋、「バンキシャ!」と同様、日米共同訓練の映像を使い、日米軍事同盟の実態について特集を組んだ。取材したのは、米フォートルイス基地で、都市型ゲリラを想定した市街戦の共同訓練である。イラクを侵略した米軍による現実の市街戦とダブってくる。共同訓練に参加した米兵が、「いずれ日本の自衛隊と戦場で一緒に戦うことを期待するよ」と、自衛隊員に語りかける。困惑する自衛隊員。ギョっとするシーンだ。
ここまでは「バンキシャ!」と同じ日米共同訓練の映像だが、取材した藤岡ディレクターの解説が“垂れ流し映像批判”から「報道ステーション」を救った。藤岡氏は「国民の知らないところで憲法を逸脱して、自衛隊がアメリカの戦略にどんどん組み込まれている」とコメント。古舘キャスターが「米兵がいずれ戦場で一緒に戦うと言っていたが、大変なことだ」としめくくった。
「バンキシャ!」と「報道ステーション」の二つの報道を見ると、ポイントは憲法にあることがよく分かる。一方は憲法を足蹴にし、他方は憲法に依拠した。その結果、視聴者は日米共同訓練や日米軍事同盟関係のあり方について、180度異なる視界を広げる。
情報へのアクセス手段を持たない視聴者の立場からすれば、テレビメディアには事実を正確に提供して欲しいということに尽きる。「日米共同訓練は当然だ」とか「何の問題もない」などの「意見」は要らない。それは視聴者が判断する。
日本民間放送連盟の放送基準は「政治に関しては公正な立場を守り、一党一派に偏らないように注意する」と定めている。テレビ報道関係者は今一度この基準をかみしめてほしい。テレビが憲法改悪のお先棒をかつぐようなことがあってはならない。
(写真、自衛隊ホームページより転載)
http://www.jda.go.jp/jgsdf/japanese/kyuikukuknren/beijitu/beijitu.html
参考資料
19日にワシントンで開かれた日米安全保障協議委員会の略称。日本側から外相と防衛庁長官、米側から国務長官と国防長官の2閣僚が出席するため、こう呼ぶ。ちなみに、閣僚の代わりに大使や次官が出席する場合、政府部内では「2プラス1・5」とか「1・5プラス1・5」などと呼んだりするという。
同委員会は日米安保条約が改定された1960年、日米間の安全保障分野での協力にかかわる問題を協議するために設置された。米側の出席者は閣僚以下のレベルだったが、冷戦終結後の90年に改組され、日米の外務・防衛担当閣僚による協議機関に格上げされた。
日米間の安保協議機関は事務レベルを含めると数多いが、「2プラス2」は首脳会談に次ぐ高さ。「首脳会談は限られた時間の中で、安保のほか外交や経済などテーマが多岐にわたる。このため具体的で突っ込んだ防衛問題はこの委員会で話し合われる」(外務省)という。委員会は1〜2年に1回の割合で開催。これまでの「2プラス2」では、冷戦終結後の日米の安保協力を列記した「日米防衛協力のためのガイドライン」の公表(97年)や、在日米軍駐留経費を日本側が負担する「思いやり予算」(00年)などの重要事項がまとめられた。
今回は協議後、日米の担当閣僚が合意文書を共同発表した。合意文書では、日米の共通戦略目標として(1)朝鮮半島問題と台湾海峡問題の平和的解決(2)中国との協力関係の発展(3)日本の国連安保理常任理事国入り――が盛られた。また、日米安保・防衛協力の強化では(1)自衛隊と米軍の役割・任務・能力の検討(2)在日米軍の再編協議の強化(抑止力維持と地元負担軽減)――を示した。
共同発表の文書は合意内容を確認したもので、条約や法律のように両国を法的に拘束したり義務を課すものではないが、両政府はこの方針に従って防衛協力を進めていくことになる。最近、北朝鮮は核兵器の保有を宣言し、中国は原潜の日本領海侵犯や海底のガス田開発を進め、東アジアの平和的環境への脅威となることが心配されている。「2プラス2」を中心にした日米の防衛協力は一段と重要性を増してくるのは間違いない。