河野慎二/テレビウオッチ4/衝撃!スクープ映像 公安の尾行、隠し撮り/06/04/21
マンションにイラク派兵反対のビラを入れただけで逮捕され、75日間も拘置されたら誰でもびっくりするだろう。そんな前代未聞の事件が2年前に起きた。
当時、自衛隊のイラク派兵が目前に迫っていた。小泉政権はイラク派兵反対の気運が全国に広まることを恐れていた。そこで公安警察を動かす。市民運動弾圧に、憲法違反のキバを剥いた。叩けば十分な萎縮効果が見込める市民の活動にターゲットを定めて、問答無用の弾圧を加えた。
メディアは、逮捕の事実や1、2審の判決などは伝えたが、憲法に反した異常な長期拘置の狙いや背景など、核心に迫る報道は少なかった。
事件から2年後、憲法改悪が政治日程に乗せられようとする中、これらの事件と言論・表現の自由とのかかわりを改めて見直そうとする意欲的な特集が3月26日、テレビ朝日の「サンデープロジェクト」(「サンプロ」)
http://www.tv-asahi.co.jp/sunpro/で放送された。番組では、複数の公安警察官がビラ配りをしている1人の市民を執拗に尾行し、数台のビデオカメラで隠し撮りを繰り
返す、ショッキングなスクープ映像もオンエアされた。
特集のタイトルは、「『言論は大丈夫か』@『ビラ配りと公安』−拘置75日間の背景―」。番組は、キャスターのジャーナリスト・大谷昭宏氏が事件現場を追跡取材し、インタビューを重ねて真実に迫ろうとする。
ビラ入れで逮捕され、75日間も拘置されたのは、立川市の市民団体「立川テント村」の3人。2004年1月、自衛隊のイラク派兵に反対するビラを、自衛隊立川官舎の集配ポストに入れたことが「住居侵入」容疑に問われ、逮捕された。番組では、裁判の中で自衛隊官舎の住民が出した「被害届」が、実は警察が代行して作成していたことなど、事件が完全に警察主導で展開されたことを明らかにする。
1審は無罪だったが、2審は不当にも逆転有罪。現在、最高裁で争われている。「サンプロ」は警視庁公安部に取材を申し入れたが、同公安部は拒否。インタビューに
応じた元同庁公安部の北芝健氏は3人の逮捕について「お灸をすえる。活動家のビラは有害性がある」と語る。イラク派兵に異を唱える3人の市民をみせしめとして逮捕・長期拘置し「お灸をすえる」。それにより、同じ運動に加わろうとする市民・活動家をすくみ上がらせ、二の足を踏ませる。北芝氏のコメントは警視庁公安部の本音を代弁している。
大谷キャスターは続いて、2005年1月に東京地裁104号法廷で公開された、公安警察官による尾行とビデオ隠し撮りについてリポートする。この尾行と隠し撮り映像は、2003年11月の総選挙で休日に共産党のビラ入れをして国家公務員法違反に問われた堀越さん(社会保険庁職員)の公判で明らかにされた。
ターゲットが国家公務員であるというのが原因なのか。とにかく、尾行と隠し撮りの執念は半端じゃない。マンションの中で1人が、マンションの外側から2人が、ポストにビラ入れする堀越さんを隠し撮りする。
堀越さんが気づかないと見るや、隠し撮りも大胆になる。「近すぎるよ、ビデオが」と公安警察官の声。堀越さんがマンションに入るショットの撮影に成功すると「ヤッター!」と歓声があがる。
堀越さんの尾行は29日間にわたって行われ、投入された公安警察官は最大で1日11人、総数は延べ171人に上った。
なぜ公安警察はひとりの市民の尾行、隠し撮りに、これほどまでに狂奔するのか。
「泥棒や殺人犯を捕まえなくても国は滅ばないが、左翼を泳がせておくと国は滅ぶ。公安警察が国を動かしている」と、元沖縄県警公安警察官の島袋修氏がインタビューに答え
る。時代錯誤も甚だしい発言だが、実は公安では今でも当たり前の認識なのだ。
特集では、公安警察が、戦争直後の下山事件、三鷹事件、松川事件、60年安保闘争などを経て権力基盤をゆるぎないものとしてきたことを明らかにする。歴代20人の警察庁長官のうち、現在の漆間長官を含む約15人が公安警察出身者だ。
91年のソ連崩壊で一時組織存亡の危機を迎えたが、95年のオウムによる地下鉄サリン事件で息を吹き返す。前出の島袋氏は「オウムが出たことが、公安警察が生き延びるひ
とつの要因となった」と証言する。
「サンプロ」の特集は、今後公安が新たな権力肥大化の足がかりにしようとしているのが共謀罪だと指摘する。 共謀罪とは、実際に犯罪を実行も準備もしなくても、計画の「謀議」に加わったと警察が判断すれば処罰ができるというものだ。「平成の治安維持法」と呼ばれる極め付けの悪法である。
長年、オウム事件に取り組んできた宇都宮健児弁護士は番組のインタビューで、「共謀罪が成立すれば、電話盗聴など、これまで公安が秘密裏に行ってきたとされる手法にお墨付きが与えられ、警察国家になるおそれがある」と指摘し、さらに「またぞろ戦前のように公安がしゃしゃり出てきて、しかも一番重要な報道とか表現の自由を抑え込もうとしている」と警鐘を鳴らす。
大谷キャスターは、この特集第3弾で「共謀罪」を取り上げると予告。「本当にこの共謀罪というのは歴史的なターニングポイントになる。日本の歴史の中に大きな問題を残すことになる」と、特集をしめくくる。
この共謀罪だが、国会の動きが急を告げている。衆議院で与党の自民党と公明党が、この超悪法を盛り込んだ組織犯罪処罰法「改正案」(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律)の審議を強行しようとしている。
共謀罪が成立すれば、累はテレビメディアに及ぶ。言論・表現の自由は間違いなく侵害される。「サンプロ」の特集で総合キャスターの田原総一郎氏は「共謀罪の取材は共謀罪になるよ」とコメントし、スタジオの笑いを誘っていたが、これは決して笑い話では済まされない。共謀罪に反対する市民団体の集会を取材した記者が共謀罪教唆に問われるということも、決して架空の話ではない。メディアは今こそ、待ったなしである。「サンプロ」の共謀罪特集も第3弾では遅すぎるのではないか。ぜひ前倒しして、第2弾として早急に放送してほしい。
テレビメディアもこの共謀罪を自らの問題として、ニュースや特集の中で大きく取り上げるべきだ。テレビメディア全体で共謀罪の危険性を訴え、世論を喚起する必要がある。「サンプロ」任せにするだけでは、悔いを千載に残すことになる。http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a163067.htm?OpenDocument