野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト/テレビウオッチ(35)/ オバマ  アフガン増派 「ベトナム」 二の舞の危険―RKBとNHK、 文民支援の重要性を特集―09/07/15

 

 

オバマ  アフガン増派 「ベトナム」 二の舞の危険

 

―RKBとNHK、 文民支援の重要性を特集―

 

  河野慎二

 

 

  イラク駐留の米軍が6月28日、 都市部から部隊撤収を終えた。 オバマ政権は13万1,000人の米軍を年内に12万人規模へ縮小し、 2年半後の2011年末までに完全撤退を目指すとしている。

 

  オバマ米大統領は30日、 ホワイトハウスで演説し、 イラク都市部からの米軍部隊撤収について、 「米国がイラクで達成した重要な一里塚」 と述べた。

 

  オバマ撤収発言は、 ブッシュの負の遺産を解消するための第一歩として、 肯定的な評価が多く見られる。 しかし、 2003年から6年間、 米軍の侵略で破壊の限りを尽くされ、 10万人を超える犠牲者を強いられたイラクに対し、 オバマ大統領はどう償おうとするのか。

 

  NHKは6月29日の 「ニュースウオッチ9」 と、 30日の 「おはよう日本」 で、 この 「米軍都市部から撤収」 のニュースを、 バグダッドからの記者リポート (生中継) を交えて報道した。

 

  記者は 「イラク政府は30日を国民の祝日とした。 やっと米軍がいなくなると、 歓迎する声が聞かれる」 とリポート。 同時に 「アルカイダなど武装勢力はイラク政府への攻撃を強めている」 と伝えた。

 

  実際、 米軍の 「都市部撤収」 を挑発するかのように、 反政府武装勢力による爆弾テロが頻発している。 6月24日にはバグダッドで、 70人以上が爆弾テロの犠牲になった。 「撤収完了」 発表の当日には、 北部キルクークで爆弾を積んだ自動車が爆発、 32人が死亡している。

 

  NHKの報道は、 イラクの市民の怒りを伝える視点が弱い。 ワシントンの見方に傾斜したニュースづくりには不満は残る。 しかし、 全くと言っていいほど無視した民放の報道に比べれば、 まだ、 ましと言うべきか。

 

  筆者が見る限り、 民放で報道したのは、 6月30日早朝のフジテレビだけだったのではないか。 それも、 1分足らずの短い扱いで、 問題点の指摘はゼロ。 イラク戦争に関する民放各局の判断基準の鈍さには疑問符がつく。

 

■オバマ大統領、 アフガンに2万1千人増派命令

  泥沼化、 出口の見えない 「オバマのベトナム戦争」 ?

 

  オバマ大統領が重視するのは、 アフガニスタンの対テロ戦争である。 同大統領は、 アフガニスタンの駐留米軍をさらに2万1千人増派する命令を出した。 駐アフガン米軍は今秋までに6万8千人規模に増大する。

 

  アフガニスタンの治安は、 イラク以上に悪化していると言われている。 オバマ大統領は、 イラクから撤収した兵力をアフガンに投入して局面の打開を図ろうとしているが、 好転の展望は開けない。 NATO諸国も、 オバマ氏の増派要請に対し、 英国など一部を除いて協力する国はない。

 

  米軍の攻撃で民間人の犠牲が増え、 反米感情が高まり、 反政府武装勢力タリバンの攻勢が勢いづく。 隣国パキスタンでも200万人の避難民が出ている。

 

  米軍は2日、 タリバンの拠点になっている南部ヘルマンド州で、 米海兵隊員やNATO軍とアフガン軍など約5千人を投じて掃討作戦を開始した。 作戦名 「オペレーション ・ カンジャール (剣の一撃)」 はオバマ政権の増派開始以来、 最大規模の軍事作戦だが、 タリバンの反撃で多数の米兵が死亡している。

 

  NHKニュース (7月7日、 午前8時半) は、 アフガン北部のクンドゥズ州で6日、 道路脇で爆弾が爆発し、 米兵4人が死亡。 ヘルマンド州などでもタリバンの攻撃で3人が死亡、 合わせて7人の米軍兵士が死亡したと報道した。

 

  アフガンでの米兵の死者数は、 今年に入って147人となり、 前年同期比で30%以上増えている。

 

  オバマ大統領の増派方針により、 アフガン戦争は“オバマのベトナム戦争”と批判されるなど、 一段と泥沼化の様相を強め、 出口の見えない戦争の色合いを見せ始めている。

 

  TBS 「サンデーモーニング」 は7月5日、 イラクから段階的に撤収し、 アフガンに増派するオバマ大統領の戦略を特集した。

 

  番組では、 イラク都市部からの米軍撤収やアフガンの 「剣の一撃」 作戦などを映像で紹介。 これを受けてコメンテーターがスタジオで解説する。 オバマ大統領の新戦略には、 批判的な見解が並んだ。

 

  伊勢崎賢治・東京外語大教授は 「イラクとアフガンのオバマ戦略は、 悲観的に見ている」 と指摘する。 「オバマ大統領が一刻も早くイラクから手を引きたいというのは本音だ。 そのために、 反米武装勢力の一部をイラク国軍に引き入れた。 イラクの治安は小康状態を得たとしているが、 中長期的には国内政治バランスに影響を与え、 内戦の火種を作ってしまった」。

 

  問題は、 アフガニスタンである。 伊勢崎教授は 「オバマ氏はイラクと同じ方針を、 アフガンでもやろうとしている。 非合法勢力を合法勢力 (のアフガン軍) に組み入れようとしている。 しかも、 短期間にやる。 そうなると国内政治は危険な方向に向う。 アフガン政策としては恐ろしい出口戦略になる」 と指摘。 オバマのアフガン戦略は、 ベトナム戦争と同様最悪の形で展開しそうだ。

 

■NHK 「クロ現」、 「混迷のアフガニスタン」 2夜連続特集

  オバマ新戦略 「失敗の可能性も」 とカブールから記者報告

 

  NHKの 「クローズアップ現代」 も7月7日、 8日両日、 アフガニスタン問題を特集した。 シリーズ 「混迷のアフガニスタン」、 初回は 「オバマの新戦略」。 番組では、 オバマ戦略のポイントは、 「アフガン軍だけで治安維持をできるようにすること。 一刻も早く、 治安維持をアフガン軍に委ねること」 だという。

 

  そのために、 米軍基地でアフガン兵士を教育するシーンが紹介される。 長年の戦乱で、 学校教育を受けられない子供が多く、 識字率20%というのが実情だ。 訓練は若者への読み書きや銃の撃ち方から始まる。 米軍のカリキュラムに沿って、 2ヵ月半で兵士を育成する計画だが、 気の遠くなる話だ。

 

  オバマ政権の目標は、 軍と警察を合わせて4万人以上育てたいというものだが、 「急ごしらえの人材育成には危うさが伴う」。 アフガンでは警官の不正が横行している。 番組は、 現職警官を取材する。 押収した武器は、 全て武器商人に横流しする。 「家族を養うために、 仲間とともに武器商売を始めた。 売った武器は確実にタリバンに渡るだろう」 と語る。

 

  首都カブールからNHK記者が中継リポート。 「警察官と軍隊がひとり立ちする条件は整っていない。 アフガニスタン軍へ治安維持権限を移すという計画は失敗する可能性がある」。

 

  オバマ政権は、 軍事面だけでなく、 農業などの開発支援にも力を入れる。 首都カブール市内の農園では、 イチゴの栽培を支援している。 アヘンの原料となる芥子より 「2倍以上稼げる」 と農民。 タリバンの資金源となる麻薬栽培を断つ狙いもある。

 

  だが、 こうした農業開発支援も、 根強い反米感情がネックとなる。 米国の支援を受け入れるかどうか、 番組はアフガンの村の会議を取材した。 会議に参加した村人の中には、 米軍に家族や子どもを殺害された人も少なくない。

 

  会議では、 「アメリカは横暴な国だ。 復興支援と言いながら、 軍隊を増やしている」 「米軍がいる限り、 良くならない」 などの意見が相次いだ。 米軍への反発は根が深い。 結局、 米国の支援は受け入れないという結論になった。

 

■中村哲医師、 23..6キロの用水路建設

  「銃弾より一本の用水路が大きな力を発揮」 (RKB)

 

  こうした中で、 日本がとるべき方策は何か。 RKB毎日放送のドキュメンタリー 「銃弾よりも用水路を  ペシャワール会 中村哲」 (5月29日) と、 NHKの 「クローズアップ現代」 (7月8日) が取り上げている。

 

  RKBの番組は、 アフガニスタンで、 農民のため用水路建設に心血を注いでいる日本人医師、 中村哲さんを取材している。

 

  2000年春に中央アジアを襲った大干ばつで、 農業国アフガンの肥沃な大地は水が枯れて砂漠化が進み、 膨大な農民が難民と化した。 中村さんは現地人を指導して、 2008年までに約1,600本の井戸を掘った。

 

  しかし、 2001年9月、 米同時多発テロで様相が一変した。 テロの首謀者、 オサマ・ビンラディンをかくまったとして、 アメリカが空爆を開始。

 

  空爆下でも井戸掘りは続いたが、 農民の水への要求を満たせない。 中村さんは大河インダスにつながるクナール川流域に用水路を造ることを決断する。

 

  中村さんは、 故郷の筑後川取水堰 (山田堰) を参考に、 独学で用水路の設計図を引き、 工事を進めた。 護岸工事はコンクリートではなく、 日本で古くから使われてきた蛇籠 (じゃかご) 方式を取り入れた。 ワイヤーで編んだ網に現地の石をつめれば、 修復工事も現地の人でできる。

 

  03年には、 米軍ヘリの機銃掃射 (誤爆) を受けるなど、 命がけの建設工事を進め、 09年7月の完成にこぎつけた。

 

  中村さんが手がけた用水路は、 第2期工事も含めて全長23.6キロに及ぶ。 用水路を流れる水が乾いた農地を潤して行く。 その広さは3,000ヘクタール。 18万人の食糧確保が期待できる。

 

  その過程で、 悲劇が中村さんを襲った。 08年8月、 日本人スタッフの伊藤和也さん (31) が武装グループに拉致されたのだ。 村人が総出で伊藤さんを探したが、 翌日殺害された遺体で発見された。

 

  アフガニスタン、 ダラエスールで08年8月、 伊藤さんのお別れ会が開かれた。 荒地の緑化に尽くした日本人の若者を偲び、 多くの村人が集った。 伊藤さんや中村さんの用水路建設が幅広く支持されていたことが分かる。

 

  伊藤さんの殉職で日本人スタッフは引き揚げを余儀なくされた。 しかし、 中村さんは一人アフガンに残って、 09年7月の完成を目指して用水路第2期工事の仕上げに取り組んだ。 同時に、 カンベリ砂漠に水を引く3.6キロの第3期工事にも取り掛かっている。

 

  中村さんは 「何百万発の銃弾よりも、 一本の用水路の方が、 もっと大きな力を発揮する」 と語る。

 

■日本の新復興戦略は 「軍民一体支援」

  危険と隣り合わせ、 住民の支持遠く成果に疑問

 

  NHKの 「クローズアップ現代」 (7月8日) も、 日本の復興支援のあり方を特集した。 タイトルは 「混迷のアフガニスタン②日本の復興戦略」。

 

  日本政府は5月、 「外国の軍隊に護衛されながら、 政府関係者が復興支援を行うという、 初めての活動」 に乗り出した。 番組はこの 「軍民一体支援」 の実態と問題点を、 従来の文民による支援活動と比較しながら取材している。

 

  政府の軍民一体方針のもとでアフガンに派遣されたのは、 外務省職員の石崎妃早子さんと官沢二郎さん。 二人が派遣されたアフガン中部ボール州チャグチャランは電気も水道もなく、 道路も整備されていない。 二人はリトアニア軍を中心とする200人の外国軍に護衛されながら、 学校や病院の建設など、 住民の生活基盤の整備に取り組んでいる。

 

  カメラは、 マデラサ村の教育現場に向かった二人を追う。 授業は土の上に絨毯を敷いて行われている。 直射日光を避ける木陰はない。 「校舎どころか、 先生はいないし、 椅子も机も教科書もないんだ」 と訴える小学生。 二人は 「日本の援助ですぐにでも校舎を建てるべきだ」 と判断した。

 

  外国軍に守られながらの 「軍民一体支援」 はどう見ても異常だ。 何よりもアフガン住民の信頼は得られないだろう。

 

  番組は、 現在14ヵ国が26の地域で 「軍民一体支援」 を実施していると報じている。 しかし、 どういう成果があったかは、 伝えない。 その一方で、 国谷キャスターは 「外国の援助関係者を狙った誘拐や襲撃事件が相次いでいる」 と報告している。 不思議なことに、 どんな誘拐や襲撃があったかについて、 一言も触れない。 視聴者には何とも不親切な構成だ。

 

  危険と隣り合わせの 「軍民一体支援」 の背景には、 米国の度重なる強い要請があったと、 番組は伝える。 「去年春、 山岳地帯や物資の輸送手段が不足しているとして、 米政府が自衛隊ヘリコプターの派遣を打診してきた」 (ナレーション、 以下カッコ内同)。 これに対し 「自衛隊が戦闘に巻き込まれることを懸念した日本は、 昨年のサミット直前、 米国に派遣は難しいと伝えた」。

 

  「アフガンをより重視するオバマ政権が登場。 日本に対し、 国際社会の一員として役割を果たすよう求めてきた」

 

  シーファー米大使 「Yes We Canで大統領は世界を感動させたが、 これに対する日本の答えが No We Can't であってはならない」 「アメリカの求めにどう応じるのか。 出した答えが、 国際部隊の一員として、 文民を派遣することだった」。

 

  石崎さんは 「文民として (アフガンに) いるので、 軍にエスコートして貰いながら、 現地の人に一歩ずつ近づけるような関係づくりを目指したい」 と話す。 表情からは緊張感と恐怖が伝わってくる。 現地NGOの代表も 「復興支援と軍の活動は切り離すべきだ」 と強調する。

 

■緒方貞子氏 「軍民一体支援」 の危険性認める

  JICAは8年間、 文民支援で復興に成果

 

  日本は2001年以降、 アフガン復興支援に2千億円を投じてきた。 世界第3位の額だ。 幹線道路や学校建設、 1万人の教師育成、 職業訓練など、 文民だけによる支援を続け成果を挙げている。

 

  カブールのマルダングルさんは、 JICA (国際協力機構) の職業訓練で電気配線技術を習得し、 仕事を得ている。 マルダングルさんは 「JICAは人道支援や職業訓練に力を入れてくれた。 日本には感謝している」 と語る。

 

  JICAはカブールなど5都市で支援活動を行ってきたが、 治安が悪化したため、 70人いたスタッフを40人に縮小した。

 

  JICAは日本人スタッフの外出を原則禁止とした。 買い物も現地のスタッフに頼んでいる。 8月のアフガン大統領選挙を前に一段の治安悪化が予想され、 さらに10人の削減を決めた。

 

  医師の磯野光夫さんは、 アフガンに患者の多い結核治療に全力を挙げている。 バザールで市民の暮らしを直接見たいのだが、 かなわない。 磯野医師は、 現地の人材を医師として育成する活動に力を入れることにしている。

 

  「アフガンで活動を始めて以来の厳しい状況に直面しているJICA。 文民による支援を維持するための模索が続いている」。

 

  スタジオに出演した緒方貞子・JICA理事長は、 「軍民一体支援は百害あって一利なしと言われているが」 との国谷キャスターの問いに、 「軍民一体支援がどういう成果を出すか、 関心を持って見ている」 としながら、 「それは事実です」 と認めざるを得ない。 そして、 「大統領選後に、 なるべく早く (文民支援に) 戻したい」 と述べている。

 

  アフガニスタンを最重視するオバマ戦略は、 思惑通り成果を上げることができるのか。 「オバマのアフガン戦争」 は、 「オバマのベトナム戦争」 になるおそれはないのか。 その中で、 日本が採るべき道は何か。

 

  RKBの 「銃弾よりも用水路を」 と、 NHK 「クローズアップ現代」 を見ると、 答えはおのずから出る。 外国軍に守られた 「軍民一体支援」 がアフガン復興に真に役立つか、 極めて疑わしい。 アフガンの住民がこれまでの文民支援を期待しているのは一目瞭然だ。

 

  テレビ各局は、 TBSやRKB、 NHK同様、 アフガン問題にもっと関心を向け、 取材を強化すべきだ。 「軍民一体支援」 活動に万一の危害が及んでからでは遅い。