河野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト/テレビウオッチ(39)鳩山政権、普天間全面返還で正念場  テレビも日米安保の呪縛報道脱却を問われる 10/01/20

 

鳩山政権、 普天間全面返還で正念場

 

―テレビも日米安保の呪縛報道脱却を問われる―

 

河野真二 (元日本テレビ社会部長 ・ ジャーナリスト)

 

  2010年が明けた。 今年は、 日米安全保障条約が改定されてから50年を迎える。 その節目の年に、 鳩山連立政権が日米安保や日米軍事同盟をどう見直し 「対等な日米関係」 を構築するのか。 試金石となるのが、 普天間基地返還問題への対応である。

 

  同時に、 半世紀以上も続いた自民党の対米従属路線に疑問を挟むことなく、 日米安保や日米同盟を無批判に推進する報道を繰り返してきたメディアも、 その呪縛から脱却することができるかどうか、 正念場を迎えている。

 

  年明け早々、 鳩山内閣に激震が走った。

 

  1月15日、 東京地検特捜部が、 小沢一郎 ・ 民主党幹事長の政治資金管理団体 「陸山会」 が2004年に取得した土地の購入原資4億円が政治資金収支報告書に記載されていない事件で、 小沢氏の元秘書で衆議院議員の石川知裕容疑者を逮捕した。

 

  同特捜部は16日、 小沢氏の公設第1秘書、 大久保隆規被告も政治資金規制法違反 (虚偽記入) で逮捕した。

 

  これについて小沢幹事長は16日、 「検察の権力行使に全面的に対決する」 と述べ、 幹事長は辞任せず検察と全面的に戦う姿勢を鮮明にした。 鳩山首相も小沢氏に 「どうぞ戦ってください」 と指揮権発動を示唆したとも取れる発言で支持する考えを表明、 鳩山政権が検察と対決するという異常な展開となった。

 

  しかし、 土地購入資金の4億円の出所がどこか。 政治資金なのか、 大手ゼネコンの裏金か、 小沢氏個人の資金なのか、 小沢氏は全く説明していない。 今後小沢氏が説明責任を果たすのか、 地検の強制捜査が小沢氏自身に及ぶのか。 このまま、 小沢氏が強行突破を図ろうとするなら、 国民の反発を招き、 鳩山政権が崩壊の危機に直面することは避けられない。

 

  小沢氏との関連で見逃せないのが、 藤井裕久財務相の突然の辞任である。 藤井氏は自由党幹事長時代 (党首は小沢氏) に、 政党助成金から15億2千万円を組織活動費として受領したが使途不明―などの疑惑が持たれている。 この使途が分からない組織活動費がどう使われのか、 永田町では関心が高まっている。

 

  日米関係でも重要な動きがあった。

 

  岡田外相が13日、 ハワイでクリントン米国務長官と会談した。 普天間基地返還問題は平行線に終わったが、 日米安全保障条約改定50年にあわせ、 日米同盟を 「深化」 させる閣僚協議の開始で合意した。 同時に、 岡田外相は96年の日米安保共同宣言にかわる新宣言をまとめたいと提案した。

 

  98年の共同宣言は、 日本をアメリカの世界戦略に一段と深く組み込み、 日米軍事一体化を加速する結果をもたらした。 岡田外相は 「同盟の深化」 の内実を国民に語っていない。 「新宣言」 についても、 96年の路線を引き継ぐのか、 「対等な日米同盟」 に切り替えるのか。 腰の定まらない提案では、 米国の意向に沿った 「新宣言」 で再定義される恐れが強い。 政権内の基本的議論を怠ったまま、 前のめりの外相提案は危険極まりない。

 

■ 「普天間先送りに不信感、 同盟の意義問われる」

  NHKニュース、 沖縄県民に背を向け一方的報道

 

  日米同盟 「深化」 が声高に叫ばれる中、 まず、 昨年末から年初にかけてのテレビ報道を検証してみよう。 各局に共通するのは、 鳩山政権の対米外交政策が 「日米同盟を危うくする」 の大合唱となっていることだ。

 

  その典型的な例を、 年明け早々の1月2日、 NHKの 「ニュース7」 (午後7時)、 「安保改定50年、 問われる同盟」 に見ることができる。 少し長くなるが、 紹介してみよう。

 

  冒頭、 タイトル部分のアナウンスコメントは 「日米安全保障条約が改定されてから今年で50年を迎えますが、 アメリカ政府は沖縄の普天間基地移設問題で、 鳩山政権が結論を先送りし、 新たな移設先の検討を始めたことに不信感を高めており、 同盟そのものの意義が問われる年になりそうです」 。

 

  ニュースの中身も、 米政府の不信感を殊更に強調する。 その具体例として、 藤崎駐米大使を呼びつけて辺野古移設の実施を迫ったクリントン国務長官と、 ワシントンポストの記事を挙げた。 「有力紙のワシントンポストも『オバマ政権の当局者たちは、 鳩山総理を気まぐれな指導者とみなしている』とする記事を掲載し、 日本の新しい指導者がアメリカ政府の懸念をかきたてていると伝えました」 とアナコメ。

 

  そして、 「アメリカ側が鳩山政権への不信感を高める中、 今後の鳩山政権の対応次第では、 日米関係がさらにぎくしゃくする懸念もあり、 日米安保条約が改定されてから50年の節目となる今年は、 日米同盟の意義そのものが問われることになりそうです」 と締めくくった。

 

  このNHKニュースを見た視聴者はどういう印象を受けるだろうか。 「鳩山首相の先送りはまずい」 「日米関係は大丈夫か」 と、 いの一番に思うのではないか。

 

  日米関係を熟知する元外務審議官の田中均氏は、 NHKのニュースウオッチ9 (12月15日) で 「アメリカが強く反発しているとメディアは取り上げるが、 日米関係はもっと強い」 とコメントしている。 つまり、 日米関係は、 普天間基地問題の見直し程度で揺らぐような弱い関係ではないというのだ。

 

  とすれば、 2日のNHKニュースは著しく公正さを欠いた一方的な報道と批判されてもやむを得ないのではないか。 沖縄県民の悲痛な叫びや国民世論に背を向けたニュースは、 公共放送を掲げるNHKとして許されることではない。

 

■ 「日米関係危険水域に、 修複できない場合も」 とリポート

  日テレZERO、 米政府の主張に沿い、 危機感煽る

 

  日米軍事同盟と日米安保を絶対的な存在とみなし、 普天間基地問題を日米合意通りの案での決着を鳩山政権に迫る報道は、 NHKだけではない。

 

  昨年12月28日、 日本テレビのニュースZEROは 「普天間問題が日米同盟に影響」 をテーマに、 ワシントンからの記者リポートでミニ特集を組んだ。 事実上米政府の主張を代弁する記者の報告が、 視聴者を驚かせた。

 

  番組では、 この種の企画には必ず登場する “知日派” 元国家安全保障会議上級アジア部長のマイケル ・ グリーン氏がインタビューに答え 「アジアでの日本の影響は低下し、 日本は信頼できない国という評価になる」 と “警告” する。

 

  極めつけは、 まとめの記者リポートだ。 「日米関係は完全に危険水域に入った。 鳩山首相の動向如何では、 日米同盟は修復できない場合も予想される」 。 いささか常軌を逸したリポートは、 視聴者に誤った判断材料を与えかねない。

 

  TBSのNEWS23 (1月5日) のミニ企画シリーズ① 「日米安保改定50周年  普天間基地問題は」 もNHK、 日本テレビと同工異曲の内容である。

 

  ワシントンからの記者リポートは、 「(普天間問題の) 協議に時間をかければかけるほど状況が複雑になり、 解決が遠のく」 と米政府の懸念を強調する。

 

  リポートには日本テレビ同様マイケル ・ グリーン氏が登場 「普天間問題で日米関係が悪化すれば、 オバマ政権は厳しい立場になる」 「普天間で失敗すれば、 日米同盟のビジョンは説得力を持たなくなる」 と恫喝まがいのコメントが放送される。

 

  記者は 「日米安保50周年を、 普天間問題を打開し新たな同盟関係を築く転機にできるのか、 鳩山政権の外交力が問われる」 とまとめた。 リポートの特徴は、 普天間基地の返還は二の次で、 軸足が 「新たな同盟関係の構築」 に移っていることだ。 3局のニュースは、 「日米同盟の深化」 を強調する日米政府の主張にぴったり寄り添っている。

 

■日米同盟は 「安全装置」 (朝日) 「生命線」 (読売) と持ち上げ

  亀井金融担当相暴言 「マスコミは占領ボケ」

 

  普天間基地問題を巡る鳩山政権の対米外交姿勢を非難し、 日米同盟 「深化」 の旗振り役を競い合うという点では、 新聞も負けてはいない。

 

  元旦の朝日、 読売、 毎日の各紙は、 「 (日米) 同盟という安全装置」 (朝日)、 「日米同盟は日本の安全保障の生命線」 (読売)、 「外交の基軸である日米同盟の深化が必要」 (毎日) と、 日米安保と日米軍事同盟を礼賛する社説を掲載した。

 

  朝日の社説で際立つのは、 日米軍事同盟と米国の 「抑止力」 を絶対視する姿勢である。 社説は 「日米の同盟関係は重要な役割を担い続けよう。 問題は、 同盟は 『空気』 ではないことだ。 日本の政権交代を機に突きつけられたのはそのことだ」 「(同盟によって) もたらされる利益は大きい。 『対米追従』 か 『日米対等』 かの言葉のぶつけ合いは意味がない」 と主張する。

 

  朝日は昨年12月16日にも社説 「鳩山外交に募る不安」 を掲載し 「日本の安全保障にとって、 米国との同盟は欠かせない柱だ。 在日米軍基地は日本防衛とともに、 この地域の安定を保ち潜在的な脅威を抑止する役割を担っている」 と主張している。

 

  連立政権発足直後は、 鳩山内閣を支える論調を展開していた朝日だが、 日米関係がぎくしゃくし出した頃からそのスタンスを変え、 読売や産経と同様日米同盟の危機を書き立てている。

 

  この問題について、 亀井静香 ・ 金融担当相が新聞批判を展開している。 「朝日、 毎日、 読売とか日刊紙が、 今、 国益を損なうようなことばかり言っている。 鳩山政権が年末までに辺野古に決めないと『日米関係がおかしくなる』と煽りまくっている。 これは決定的に間違っている」 「(新聞は) アメリカの機嫌を損ねたら大変だと、 怯えているだけだ」。

 

  この発言は先月17日、 フリージャーナリストへの定例会見の席で飛び出したものだ。 閣僚のメディア批判は、 言論の自由に対する介入であり、 本来許されることではないが、 亀井氏の批判はさらにエスカレートし暴言に近くなる。

 

  「この問題をおかしくしたのは、 日本のマスコミが一周遅れだからなんだ。 日本のマスコミは『もっとアメリカが怒ってくれないかな』と思っていて、 こういう馬鹿げた倒錯現象が起きている。 占領ボケなんだ、 マスコミの占領ボケ」。

 

■普天間 「移設」 先から 「辺野古は消えた」 ?

  「完全な代替施設は沖縄にはない」 米司令官が証言

 

  鳩山政権は、 5月末までに普天間基地問題の決着を図ることにしているが、 その候補地から 「辺野古は消えた」 との見方が永田町や霞ヶ関に広がっている。

 

  実際、 読売 (12月17日) は、 平野官房長官が 「11日夜の連立3党首会談で、 移設先候補から 『辺野古は除く』 と政府方針に明記する考えまで示していた」 と報じている。

 

  となると、 残された選択肢は、 沖縄の米海兵隊を司令部機能だけでなく、 海兵隊全体の米本土 (グアム) 移転が現実的な解決策ということになるが、 鳩山首相に決断できるか。

 

  沖縄に駐留する米海兵隊員は08年9月時点で、 1万2,400人とされる。 このうち、 5,000人がキャンプ ・ ハンセンに、 2,000人がキャンプ ・ シュワブに配属されている。 米海兵隊員は17万人だから、 沖縄の海兵隊は1割にも満たない。

 

  米国内では、 沖縄の海兵隊を本土に移転させ、 一体化して展開することが、 米国の戦略にメリットをもたらすという意見が制服組からしばしば示されている。

 

  週刊朝日 (12月11日) によると、 米海兵隊司令官のコンウェイ大将は昨年6月4日の米上院軍事委員会で、 「普天間代替施設は、 完全な能力を備えた代替施設であるべきだが、 沖縄では得られそうもない」 と明言している。

 

  コンウェイ司令官はさらに 「グアム移転により、 米領土での多国籍軍事訓練やアジア地域で想定される様々な有事への対応に有利な場所での配備といった、 新しい可能性が生まれる」 と証言し、 グアム移転が米国の国益に貢献するとの考えを表明している。

 

■ 「司令部だけでなく8,600人の海兵隊がグアムに移転」

  米海軍省、 グアム移転の環境影響評価書草案を公開

 

  普天間基地移設問題に関する日米閣僚級作業部会の米側代表を務めるグレグソン国防次官補も、 太平洋海兵隊司令官当時の04年11月、 ハワイが在沖海兵隊の移設先になることについて否定せず、 「ハワイは見かけよりも大きい。 何人ぐらい置きたいか、 なぜ置きたいか、 その後で (兵力) 維持についての作業を開始することができる」 と述べている (赤旗、 11月22日)。

 

  週刊朝日と東京新聞 (09年12月10日) によると、 米海軍省グアム統合計画室は昨年11月20日、 「沖縄からグアムおよび北マリアナ ・ テニアンへの海兵隊移転の環境影響評価/海外環境影響評価書草案」 を公開した。

 

  約8100ページに及ぶ草案には、 沖縄からグアムに移転するのは 「第一海兵航空団と付随部隊の航空戦闘要素、 1,856人」 と 「第三海兵遠征軍司令部要素、 3,046人」 など、 合計 「約8,600人の海兵隊員とその家族」 が挙げられている。 第一海兵航空団は、 普天間基地でヘリ部隊を展開している。

 

  普天間基地を抱える宜野湾市の伊波洋一市長は 「これで、 沖縄の海兵隊は司令部機能のみがグアムに移るのではなく、 ヘリの戦闘部隊を含めて一体的に移転することが裏付けられた」 とし、 鳩山首相や外務省、 防衛省に米海兵隊のグアム全面移転と普天間基地返還を訴えている。

 

■田中氏 「新政権は、 自公政権の延長線上で考えるな」

  「ドイツのように新政権も日米安保を見直せ」 と寺島氏

 

  テレビニュースが、 日米同盟を過剰なまでに持ち上げようとしている中で、 ニュースのVTRインタビューや情報番組のコメンテーターのコメントに、 普天間問題の基本的な解決の方向を見出す指摘が散見される。

 

  ジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、 テレビ朝日のスーパーモーニング (12月15日) で、 「2010年5月までに、 連立の3党はあらゆる事態を想定して結論を出すべきだ。 日米合意とは、 アグリーメントであって、 条約などの強い拘束力はない。 政権交代したのだから、 縛られない。 いったん白紙に戻して、 もう一度、 鳩山政権とオバマ政権で協議すべきだ」 とコメントした。

 

  元外務審議官の田中均氏は、 NHKのニュースウオッチ9 (12月15日) にVTR出演し、 「政権交代が起こったのだから、 新政権は、 自公前政権の延長線上で考えることは止めた方がいい。 連立政権が普天間問題を納得いくまで検討すること自体、 否定されることがあってはならない」 とコメント。

 

  田中氏はさらに、 「普天間は常に、 日本の安全保障と負担軽減という、 二つのバランスを取ることを努力してきた。 専門家によるプロフェショナルな検討が必要だ」 と指摘した。

 

  この田中氏のコメントは、 前出の 「グアム移転環境影響評価書草案」 も念頭に置いたものと考えられる。 「プロフェショナル」 という表現からは、 対等の立場で、 肉を斬らせて骨を斬る位の捨て身の覚悟で対米交渉に臨めという意味あいが読み取れる。

 

  メディアが煽っている 「日米同盟の危機」 についても、 国際政治に詳しい寺島実郎氏は、 TBSのサンデーモーニング (12月6日) で、 「21世紀の日米同盟をどういう方向に持っていくか。 日本も真剣に考えるべきだ。 冷戦時代に出来上がった日米安保について、 ドイツがやったような見直しを日本はやっていない。 戦後60年以上経ったのに、 世界最大の米軍基地トップ5のうち、 4つも日本に存在するのは異常だ」 とコメントし、 日本が自主、 対等の立場で日米安保見直しに取り組むよう提言している。

 

  問題は、 こうした指摘や問題提起が、 外部のコメンテーターのコメントを借りないと表現できないことだ。 各局の記者が自前のカメラとマイクで普天間問題に斬り込み、 自分の取材で 「日米同盟の危機」 問題の真実を報道しないと、 世論を動かす力は強まらないし、 普天間基地返還を実現することは難しくなる。

 

■11月のひき逃げ事件、 被告米兵2ヵ月後に身柄引渡し

  “稀代の不平等条約” 日米地位協定、 盲点衝かれ捜査難航

 

  昨年11月に沖縄県、 読谷村で起きたひき逃げ死亡事件で、 在沖米軍グリーンベレー所属のクライド ・ ガン被告の身柄が、 那覇地検の起訴に伴い、 事件から2ヵ月後の1月7日、 日本側に引き渡され、 那覇拘置支所に留置された。

 

  TBSのNEWS23が1月6日、 「日米同盟を考えるシリーズ」 第2回として、 このひき逃げ死亡事件を中心に、 日米地位協定の問題を取り上げた。 容疑者の米兵が事情聴取を拒否している問題を取材。 「日米地位協定では殺人や強姦など一部の凶悪犯罪に限り、 『基礎前』の引渡しを『考慮』するとしていますが、 ひき逃げ事件は対象ではありません」 。 米兵の出頭拒否で、 日米地位協定の 「盲点が浮き彫りになりました」 と伝えた。

 

  仲井真沖縄県知事のインタビュー。 「地位協定がマニフェストに載ってるでしょう、 (見直しを) 提起するって。 これは初めてだと思いますよ、 日本では。 ここは是非頑張ってもらいたい」。

 

  番組は 「安保改定から50年、 沖縄では常に日米地位協定が県民生活に身近な問題として横たわってきました。 しかし、 半世紀もの間、 協定は一度も改定されていない」 と締めくくった。

 

  日米地位協定は、 「平成の条約改正が必要」 (寺島実郎氏) と言われる程、 現代にも稀な不平等条約である。

 

  この日米地位協定についても、 核密約と同様、 事実上の治外法権条項を盛り込む密約が日米間で交わされたことが、 明らかになっている。

 

■ 「特別な事案除き、 第一次裁判権は行使しない」

  57年前の日米交渉、 日本政府提案で治外法権の密約

 

  日米地位協定の前身である日米行政協定について、 日本政府は1953年8月に対米交渉を行った。 その時の状況をジャーナリストの布施祐仁氏が雑誌 「世界」 (1月号) で、 「もう一つの日米密約、 21世紀ニッポンの治外法権を追う (下)」 と題し、 詳しくリポートしている。

 

  布施氏は1991年に機密解除された外交文書から、 日本政府が当初、 米側が日本の第一次裁判権を認めないなら、 「交渉は決裂の外なし」 との強い決意で臨んだ事実を突き止める。

 

  ところが、 交渉が始まった8月19日から約20日間の 「交渉経過に関する記録がすっぽりと抜けている」 (布施氏、 以下カッコ内同)。

 

  そして、 53年9月10日、 「報告文書に、 突然『一切の問題につき意見の一致を見た』と出てくる」。 布施氏は 「大体日本案によることになった」 との米側担当者の言葉も文書から紹介し、 「まるで米側の譲歩により交渉がまとまったかのように見える」 が、 実はそうではなかったことを明らかにする。

 

  08年9月、 米国立公文書館で見つかった米側の交渉記録によると、 日本の裁判権放棄について在日米大使館のバッシン法律顧問は 「日本側が受け入れられるであろう形式は、 合意した声明文を交渉の秘密記録にして、 双方が調印することだと彼は語った」 と記録している。 「彼」 とは、 当時の外務省 ・ 三宅喜一郎参事官である。

 

  そして、 同年10月28日、 「日本政府は 『日本にとって特に重要と考えられる事案以外については第一次裁判権を行使するつもりがない』 との声明文=密約を、 日米合同委員会刑事裁判権分科委員会の 『非公開議事録』 という形で結んだのである」。

 

  岡田外相が日米同盟を 「深化」 させ、 新たな日米安保共同宣言を米側と協議するのなら、 密約の上に成り立っている日米地位協定も対米交渉のテーブルに乗せ、 真に対等な立場に立った抜本的な改定を盛り込むべきである。

 

■テレビも普天間 「移設」 でなく 「返還」 の風を吹かそう

  日米地位協定も密約にメスを入れ、 対等な協定に改定を

 

  日米安保や日米軍事同盟を巡る問題は山積するが、 当面の焦点は普天間基地全面返還の問題である。

 

  冒頭で指摘したとおり、 テレビも新聞も日米同盟の危機や 「深化」 に軸足を移した報道や論調が目立つ。 だが、 日米同盟の 「深化」 も普天間基地問題が国民、 とりわけ沖縄県民の納得が行く方向で解決することが前提となる。

 

  沖縄県民や国民の納得する解決は、 普天間基地の全面返還である。 メディアの第一線からは 「それは難しい」 という声が聞こえてきそうだが、 ここは腰を据えて普天間基地返還実現に向けた取材に取り組むべきではないのか。

 

  朝日のコラムニスト、 早野透記者が14日の同紙 「ポリティカにっぽん」 で、 「鳩山さんがかねて 『駐留なき安保』 を考えているなら、 (略) 未来永劫、 米軍基地があっていいはずもなく、 鳩山さんの考えもひとつの考えである。 この際、 『代替基地提供』 の呪縛から脱して、 普天間の無条件返還を求めてはどうか」 と指摘している。

 

  これは極めて真っ当な意見であり、 正論である。

 

  テレビを初めメディアは、 米海軍省の環境影響評価書草案を手掛かりに、 沖縄の米軍基地やグアム、 ハワイなどに足を運び、 普天間返還の可能性を現場から取材する必要がある。

 

  日米地位協定についても、 テレビは公開されている外務省機密文書や米側資料を渉猟し、 カメラとマイクを駆使して取材のメスを入れてほしい。

 

  肝心なことは、 日米安保や日米軍事同盟を絶対視したり、 自公政権とブッシュ政権の 「日米合意」 を不変のものとして聖域視したりしないことだ。

 

  琉球新報は1月1日 「軍の論理より民 (たみ) の尊厳守る年」 と題する社説を掲載、 「現在の日本で、 ゆがんだ残像の最たるものは日米軍事同盟であろう。 友好な日米関係を築くことは大切だが、 精鋭化する軍事同盟のあり方については根本から見直す時期に来ている」 と主張している。

 

  北沢防衛相は15日、 インド洋で給油活動を続けていた海上自衛隊に撤収命令を出した。 2001年12月から8年間、 米艦艇などに938回、 約51万キロリットル、 244億円の燃料を提供した給油活動に終止符が打たれた。

 

  鳩山政権が、 給油活動中止を打ち出した昨秋、 メディアは 「日米関係を危うくする」 と中止反対の大合唱を競演したが、 撤収命令に際しては、 テレビではNHKが現地の海自司令官が隊員に撤収を伝えるシーンを、 短いニュースで伝えただけだった。

 

  このことは、 インド洋給油活動の撤収というニュースが、 テレビメディアとして取り上げる価値を殆ど見出さない素材だったということを示している。 「あの大騒ぎは、 一体何だったのか」 という問いをテレビに投げかけている。

 

  いま、 普天間基地返還問題の結論を5月に出すとした鳩山政権の方針について、 「日米同盟は危険水域」 「日米関係は修復できない場合も」 などと危機を煽る報道がテレビを支配しているが、 インド洋給油の報道をケーススタディとして検証すれば、 テレビ局の基本認識と大仰な表現が、 単なる杞憂にとどまらず、 国民を誤導しかねない危険な報道であることが分かる。

 

  テレビは今こそ、 日米安保や日米軍事同盟を金科玉条のものとしてどっぷり浸かり込んだ報道姿勢から脱却し、 21世紀に相応しい報道の地平を切り拓いてほしい。

 

  冷戦時代の呪縛を断ち切れずに、 旧態依然の報道を続けるのか、 それとも、 そのくびきを解き放って国民の声に真に共鳴するメディアにチェンジするのか。 安保改定50年の今年、 テレビ報道は厳しく問われている。