河野慎二/元日本テレビ社会部長・ジャーナリスト/テレビウオッチ(45)東日本大震災、 東電福島原発災害の陰で…「沖縄はゆすりの名人」 更迭のメア氏復権の動き11/03/26
東日本大震災、 東電福島原発災害の陰で…
「沖縄はゆすりの名人」 更迭のメア氏復権の動き
河野真二 (ジャーナリスト ・ 元日本テレビ社会部長)
「沖縄の人はごまかしとゆすりの名人」 など、 沖縄県民を侮辱する暴言を吐いた米国務省のケビン ・ メア日本部長が10日、 更迭された。 早速原稿の取りまとめに入ったが、 翌11日に東日本大震災が発生した。
25日現在、 死者は1万人を超え、 行方不明者を合わせると犠牲者は2万8千人を超す未曾有の大惨事である。 とりわけ、 東京電力の福島原子力発電所で、 炉心溶融とも見られる原子炉破壊が止められていない。 日本列島は未体験の惨害の危機と直面している。
テレビや新聞は連日、 東日本大震災と東電福島原発事故に番組と紙面を集中して、 報道している。 メア暴言はすっかり画 (紙) 面から消えた。 と思いきや、 この隙を狙うかの様に失脚したメア氏が復権しようとしている。 米国務省はメア氏を東日本大震災の 「調整担当」 に就けたのだ。 メア氏登用は、 日本国民を二重の意味で侮辱する挑発人事だ。
本稿ではメア暴言とテレビ報道を取り上げる。 メア暴言は極めて重要な問題を内包している。 「沖縄はゆすりの名人」 などの発言は、 沖縄県民を侮辱する占領者意識丸出しの暴言である。 同時に、 メア氏は憲法9条にまで踏み込み、 思いやり予算では米政府の本音をあけすけに語っている。 テレビは、 このメア暴言をどう伝えたのか。
メア暴言は、 共同通信のスクープで7日、 明るみに出た。 日米両政府は、 キャンベル国務次官補が 「個人的に謝罪する」 ことで収拾を図ろうとしたが、 わずか4日で更迭に追い込まれた。 異例のスピード更迭が、 ワシントンの危機感を示している。
菅首相も 「米政府の対応は適切」 と火消しに躍起の片棒担ぎだ。 沖縄の過剰な米軍基地負担は、 日米両政府が利害を共にする 「沖縄差別」 政策に基づいている。 メア暴言が点火した怒りの炎が広がると、 両政府は窮地に追いつめられる。 だから、 日米両政府は “臭いものに蓋 (ふた)” をして、 幕引きを図った。
メア日本部長は、 あたかも宗主国が植民地を見下すがごとく、 沖縄県民を侮蔑、 愚民視する暴言を繰り返した。 大学生相手の講義で緊張感が緩み、 単なる 「放言」 のレベルを逸脱し、 米政府の沖縄支配の本音をストレートに語っている。
この際、 メア暴言をチャンスに、 普天間基地に代わる辺野古新基地反対をはじめ、 沖縄米軍基地反対への取組みを強化する必要がある。 そして、 諸悪の根源である日米安保条約についても、 反対運動を強める転機とすべきではないのか。 メディアもメア更迭で一件落着とせず、 沖縄米軍基地の問題や現地の闘争を継続的に報道することが求められる。
■「沖縄の人はごまかしとゆすりの名人」
占領者意識丸出しのメア暴言、 沖縄を侮辱、 愚民視
占領者意識丸出しのメア暴言は、 読めば読むほど怒りが込み上げてくる。 メア氏は 「日本の文化は合意に基づく和の文化だ。 しかし、 ここで言う合意とはゆすりで、 日本人は合意を追い求めるふりをし、 できるだけ多くの金を得ようとする。 沖縄の人は日本政府に対するごまかしとゆすりの名人だ」 と沖縄県民を侮辱する暴言を吐く。
続けて 「沖縄ではゴーヤーも栽培しているが、 他県の栽培量の方が多い。 沖縄の人は怠惰で栽培できないからだ」 と侮辱発言はピークに。 さらに 「沖縄の人は普天間飛行場が世界で最も危険な基地と言うが、 それが本当ではないと知っている。 (住宅地に近い) 福岡空港や伊丹空港だって、 同じように危険だ」 と県民感情を逆なでする。
米海兵隊のグアム移転については 「日本は移転費を払う。 これは日本による実態的な努力のしるしだ」 と傲慢なコメント。 「日本政府は沖縄県の知事に対して 『もしお金がほしいならサインしろ』 と言う必要がある」 と内政干渉まがいの暴言。 「自民党の方が現在の民主党政権よりも沖縄と通じ合い、 沖縄の関心を理解している」 と述べ、 「鳩山首相は左派の政治家だ」 と切って捨て、 自民党政権復帰への露骨な期待を隠そうとしない。
メア氏は憲法9条にも言及する。 「日本国憲法9条を変える必要はない。 日本の憲法が変わると日本は米軍を必要としなくなる。 米国は国益増進のために日本の領土を使えなくなるので、 よくない」。 これはとんでもない、 逆立ちした論理だ。 辺野古新基地計画に待ったをかけているのは、 憲法9条をバックボーンにした沖縄県民の闘いの力だ。
もし、 9条が改悪されれば、 米政府は制限なしに日本の領土を基地として使用できる権利を手にする。 9条改悪反対と辺野古新基地反対の闘いは一体のものだ。 9条は間違いなく辺野古新基地建設を阻止する〝抑止力〟になっている。 言いがかりにも等しい低レベルのメア暴言は、 辺野古新基地が頓挫していることへの苛立ちの表れである。
メア暴言は思いやり予算にも及ぶ。 「日本政府が現在支払っている高額の米軍駐留経費負担 (思いやり予算) は米国に利益をもたらしている。 米国は日本で非常に得な取引をしている」。 これは米国の本音を率直に語った発言だが、 米政府高官としては絶対に口にしてはならない禁句である。 米政府は、 この暴言を放っておくと日米安保条約の根幹にも火がつきかねないと判断、 メア更迭に踏み切ったのだ。
■NHK 「ニュース7」 メア更迭をトップで報道
憲法9条、 思いやり予算のメア暴言ボツは疑問
ケビン ・ メア前日本部長の暴言をテレビはどう伝えたか。 テレビ各局がメア暴言を一斉に報道したのは、 沖縄県議会がクリントン米国務長官らに抗議する決議を全会一致で可決した3月8日の昼ニュースからだ。 那覇市議会も 「植民地扱い」 と抗議決議を可決、 沖縄ではメア暴言への怒りが渦巻いた。 ただし、 共同のスクープより一日遅れている。
メア部長更迭が発表された3月10日のテレビニュースを検証してみよう。 NHK 「ニュース7」 はトップ項目で約8分間伝えた。 キャンベル国務次官補が松本外相との会談でメア更迭を伝えた。 キャンベル氏は外務省職員がカメラマンを退室させようとするのを待たせて 「沖縄への感謝や友情に反する。 深くお詫びする」 とパフォーマンス。
メア更迭を急いだ米政府の対応について、 キャンベル次官補は 「日米の信頼関係を損ねた。 (普天間問題など) 重要な会議を控えた時期にある」 とコメント。 「メア部長に事実関係を確認したか」 の質問には 「すでに更迭し、 立場は明確にしている」 と答えを避けた。 NHKニュース7はなぜか、 キャンベル氏の対応をそれ以上掘り下げない。
市民にカメラを向ける。 「アメリカの本音が出た」 「沖縄を馬鹿にするな」 と怒りの声を拾う。 ルース米大使が沖縄県庁で、 仲井真知事に謝罪する。 「簡単じゃない。 県民の感情の問題がある」 と仲井真知事。 まとめの記者リポート。 「沖縄を軽視するアメリカの本音と受け止められている。 謝罪を受けても県民の反発は止まっていない」。
NHKが基幹ニュースのトップ項目で報道したので注目したが、 それにしては記者リポートも含めて貧弱な内容だった。 まず何よりも、 憲法9条と思いやり予算への言及をボツにしたのは理解に苦しむ。 「ゆすりの名人」 暴言と並んで、 最優先で伝えるべき発言をカットしていては、 メア暴言と更迭の真実は分からない。
「謝罪しても沖縄の反発は止まらない」 との記者リポートも違和感がある。 「沖縄は怒っている」 のは、 市民へのインタビューで分かっている。 メア暴言の事実関係確認への説明を、 キャンベル次官補はなぜ逃げたのか。 視聴者は記者リポートでその真意と背景の解説を聞きたいのに応えていない。 これではNHKニュースに疑問が湧き、 信頼を失う。
■メア暴言への沖縄県民の反応はボツ
“ワシントン目線” で編成した 「ニュースウオッチ9」
MHKの 「ニュースウオッチ9 (NW9)」 を見て驚いたのは、 沖縄県民の反応がほとんど欠落していたことだ。 憲法9条や思いやり予算への言及はボツ、 県民の怒りの声もほんのわずか報じただけだった。 メア暴言の事実確認を拒否したキャンベル氏のコメントもカットされた。 NW9に一貫していたのは、 ワシントン目線のニュース作りである。
NW9は、 メア暴言の 「背景には普天間移設問題が進まないいら立ちがある」 とメア氏への同情を露わにした。 そして 「メア氏は沖縄と深いつながりがあり、 沖縄に精通していた。 国務省を辞めたら日本に帰化してもいいと言っていた」 などと美化。 メア氏が沖縄総領事時代に多くの暴言で問題を起こした事実には一切触れなかった。
NW9は 「民主党は沖縄を理解していない。 まだ、 自民党の方が沖縄と通じて、 沖縄を理解している」 とのメア発言を紹介し、 大越キャスターが 「アメリカは、 日本政府の沖縄説得に期待したが、 実現しないことにいら立ちがある」 と解説した。 菅政権に愛想尽かしをしているホワイトハウスの代弁をしているように聞こえる。
大越キャスターは解説で 「メア発言の背景を考えると、 日本政府にも責任がある。 アメリカとも沖縄とも関係をこじらせてしまった」 と菅政権を批判した。 それは間違いではないが、 日米両政府が普天間問題で立ち往生しているのは、 「県内移設反対」 が沖縄の世論になっているからなのだ。 仲井真知事の 「県内移設反対」 鞍替えが端的な証拠だ。
NW9は、 その現実には背を向けて、 沖縄県民の声を客観的に報道していない。 メア氏を美化し、 米政府の 「いら立ち」 の伝達に躍起となっている。 テレビ報道としては著しく公正さを欠いている。 メア暴言に関するNW9の報道は 「政治的に公平」 で、 「事実を曲げることなく」 報道することを定めた放送法3条に反している。
NHKを槍玉に挙げた格好になったが、 「二ュースウオッチ9」 (NW9) はあまりにも米政府の立場に力点を置き過ぎ、 一方的な報道になっている。 「辺野古に新基地は造らないでほしい」 という沖縄県民の願いに敵対する内容だ。 伝えるべき事実を伝えず、 底の浅い報道に終始した 「7時のニュース」 も含め、 厳しい批判が避けられない。
■ 「思いやり予算はアメリカにとって非常に得な取引」
テレビはメア暴言の核心を掘り下げて報道すべきだ
民放については、 「NW9」 のような偏ったニュース構成はなかったものの、 全体としては、 メア暴言を掘り下げた報道は皆無と言わざるをえない。 メア暴言のうち、 「沖縄はゆすりの名人」 「ゴーヤーも栽培できない」 などの一部分を取り上げただけで、 メア更迭とキャンベル氏謝罪で〝一件落着〟というまとめかただった。
その中で、 日本テレビ 「ニュースZERO」 の村尾キャスターが、 「メア氏は、 『憲法9条改正は不都合だ。 9条が改正されると、 日本は再武装し米軍を必要としなくなり、 米軍は日本の領土を使えなくなる。 思いやり予算については、 米国にとっていい取引だ』と言っている。 メア氏の見解は、 米政府の対日政策担当者が実際に日本をどう見ていたかがよく分かります」 と解説。
テレビ朝日 「放送ステーション」 (9日) の古舘キャスターも 「傲慢な発言だ。 日本全体で抗議すべきだ。 電話でルース大使に伝えるレベルの話ではない。 直接呼んで抗議すべきだ」 とコメントした。 2人のキャスターのコメントは正しい指摘だが、 ニュースの中身が伴わないのが問題だ。 一過性で終わり、 継続しないという難点もある。
メア暴言の掘り下げ不足は、 テレビ報道にとって治すことのできない持病なのか。 メア暴言の信ぴょう性を質す記者の質問を、 キャンベル次官補はあれこれ言い繕ってかわすだけだった。 このキャンベル氏の対応をヒントに取材を深め、 真実の情報を提供することこそ、 テレビ報道の任務である。
メア暴言の 「思いやり予算で、 米国は日本と非常に得な取引をしている」 とうい部分は取材の大きなヒントになる。 裏を返せば 「日本は非常に損な取引をしている」 ということだ。 この暴言を入口にして、 テレビは思いやり予算に取材のカメラを向けるべきだ。 メア暴言は不平等な日米関係を掘り下げて取材するチャンスではないか。
メア暴言を明るみに出した学生の一人、 トーリ ・ ミヤギさんは 「メア部長が変われば済むのではなく、 変わってほしいのは彼の考えだ」 とコメントしている (10日、 日本テレビ午前のニュース)。 「彼の考え」 イコール米政府の考えだ。 言を左右に逃げるキャンベル発言の核心を取材すれば、 普天間解決を阻む米政府の政策に到達する。
米国の政策を変えるには、 テレビや新聞など日本のメディアがキャンベル国務次官補やメア暴言をヒントに、 思いやり予算の実態や問題点を掘り下げて取材し、 継続的に世界に発信することが必要だ。 現在沖縄で問題となっている高江村の米軍ヘリパッド建設強行の問題も、 沖縄県内のローカルニュースにとどめず、 全国ニュースで伝えるべきだ。
■米軍の震災救援政治利用に 「売名行為」 と批判
大田元知事 「メア暴言契機に辺野古新基地つぶす必要」
冒頭でも触れた通り、 メディアは連日、 東日本大震災と東電福島原発災害の報道に追われている。 趙巨大震災報道の陰に隠れる形で、 メア暴言問題がテレビや新聞から姿を消したことに、 日米両政府はほくそ笑んでいる。
それどころか、 何と、 米海兵隊による巨大地震の政治利用が始まっているのだ。 在日米軍は 「トモダチ作戦」 と称して救援活動に乗り出しているが、 在沖米海兵隊は14日 「普天間基地の位置は、 第3海兵遠征軍の災害対応活動に極めて重要であることが証明された」 と、 ここぞとばかりに海兵隊の貢献の宣伝に努めている (17日、 琉球新報)。
米軍は震災救援に名を借りて、 普天間基地の 「死活的重要性」 や海兵隊の存在意義をアピールしようとしているが、 沖縄県民の感情を逆なでする、 姑息なパフォーマンスだ。 沖縄では 「火事場泥棒に似た行為に兵士を巻き込む」 「震災の政治利用は厳に慎むべきだ」 (22日、 沖縄タイムス社説) などと批判が高まっている。
一方、 国務省は、 更迭したばかりのメア氏を東日本大震災の調整担当として、 復権させようとしている。 メア氏は15日までに省内に設置された東日本大震災本部に加わり、 日米間の調整担当の職務に就いている。 暴言については反省も撤回もせず、 再び外交の窓口に出てくることがあれば、 県民の怒りの火に油を注ぐ。
5月の連休中には、 外務、 防衛担当閣僚による日米安保協議委員会 (2プラス2) がワシントンで開かれる予定だ。 米国のシファー国防副次官補は15日の米下院軍事委員会公聴会で証言し、 辺野古新基地の滑走路の形状などの詳細がこの2プラス2で決定される見通しであることを明らかにしている。
松本外相は23日の衆院外務委員会で、 メア暴言について 「沖縄のみならず日本国民を傷つけるもので容認できない」 と述べたが、 「個別の言葉を取り上げるのは適切ではない」 としてメア暴言の内容に言及することは避けた。 普天間基地が、 米軍の銃剣とブルドーザーで住民を追い立て、 造成された事実についても、 自らの認識は示さなかった。
とにかく、 呆れるばかりの弱腰な対米外交姿勢だ。 5月の2プラス2では、 米国に押しまくられ、 国民不在の無責任な決断に踏み切る危険性がある。 国民の関心が東日本大震災と東電福島原発の放射線物質大量流出災害に集まっているドサクサに紛れて、 辺野古新基地の詳細にサインすることは許されない。
ここで問われるのが、 テレビや新聞など、 メディアの報道姿勢と取材力である。 大田元沖縄県知事は 「メア氏は辺野古移設が出来ると強く推していた張本人であり、 今回の発言を契機に辺野古移設をつぶしていく必要がある」 とコメントしている (8日、 毎日)。
琉球新報は3月18日の社説で、 米軍が災害支援に絡めて海兵隊の存在意義をアピールしていることに 「強い違和感を覚える」 と不快感を示し、 「はっきりさせよう。 米軍がどのようなレトリックを使おうとも、 県民を危険にさらす普天間飛行場やその代替施設は沖縄にはいらない」 と主張している。
テレビや新聞は、 東日本大震災と東電福島原発災害で厳しい取材が続くが、 暴言で更迭されたメア氏の 「復権」 の動きにも監視の目を光らせてほしい。 メア氏 「復権」 が事実なら暴言の解明は欠かせない。 在日米軍の実態や沖縄県民の戦いの現状も、 掘り下げて継続的に、 全国の視聴者 ・ 読者に伝えてほしい。