河野慎二/ジャーナリスト・元日本テレビ社会部長/テレビウオッチ(57)11月沖縄県知事選、安倍焦りボーリング調査強行 ― TBS「報道特集」テレ朝「報ステ」積極取材を展開 14/08/25
11月沖縄県知事選、安倍焦りボーリング調査強行
TBS「報道特集」テレ朝「報ステ」積極取材を展開
河野慎二 (ジャーナリスト ・ 元日本テレビ社会部長)
沖縄の命運を決める県知事選が11月16日に行われる。この選挙の最大の争点は、辺野古基地新設を県民が認めるかどうかだ。昨年末「県外移設」の公約を破り県民を裏切った仲井真弘多知事が8月7日、立候補を正式に表明。辺野古新基地建設反対の立場を鮮明にしている翁長雄志那覇市長も来月出馬表明の予定だ。
今度の知事選は、これまでの「保革対決」の構図が一変している。共産党や社民党、社会大衆党などの革新が、保守の重鎮である自民党沖縄県連の元幹事長を、仲井真への対抗馬として担いだのだ。政府・自民と直結する辺野古新基地推進陣営に、辺野古新基地は造らせないとする保革大結集の「オール沖縄」陣営が挑む。知事選は、辺野古新基地を巡る事実上の県民投票になる。
この闘いは、文字通り沖縄の命運を賭けた天王山の闘いになる。仲井真が勝利すれば、安倍政権は一気呵成に辺野古新基地建設に突き進む。辺野古の美しい海と豊かな自然体系は無残にも破壊される。逆に翁長が当選すれば、辺野古新基地「NO」の民意が1月の名護市長選に続いて明確に示されることになる。沖縄だけでなく、日米関係も含めたこれからの日本のあり方にも大きなインパクトを与える。
安倍政権にとって、この知事選は死活的な影響を与える。「仲井真が負けると、辺野古移設は難しくなる」との観測が防衛省内に広がっている。政府は14日、辺野古沖に設定した立ち入り制限水域に、ブイ(浮標灯)の設置工事を強行した。辺野古新基地実現に向けた既成事実作りが目的で、「知事が誰になろうと、辺野古新基地は建設する」という官邸サイドのなりふり構わぬ姿勢を示したものだ。裏を返せば、仲井真が敗北することも想定に入れた、焦りの表われとも取れる。
ここで問われるのは、東京発の沖縄報道だ。沖縄に関する東京の大手紙やテレビの報道は、貧弱の一語に尽きる。米軍基地に起因する事件・事故については、よほど大きなもの以外はすべて沖縄ローカル扱いだ。沖縄駐留の海兵隊ひとつ取っても「抑止力」一点張りの伝え方で、現実とかけ離れた報道に終始している。ワシントンの見解こそが、日米安保と沖縄問題の根幹とする誤った認識から脱却できず、思考停止状態だ。
こうした報道姿勢が、沖縄の問題を解決する道を阻んでいる一因だ。東京の大手紙やテレビがこうしたスタンスを改めて、知事選を巡る真実に迫る報道ができるかどうか。米軍普天間基地の県内移設撤回を求める沖縄の民意は、70%の高水準で維持されている。東京のメディアはこうした県民の強い意志に依拠して、取材を強化すべきだ。テレビが掘り下げた報道を、継続的に競い合うことがまさに今、求められている。
■「報ステ」、稲嶺市政の検証取材で安倍の焦りの背景暴く
対照的な「NW9」、政府発表の枠に縛られる東京目線報道
沖縄防衛局は14日、名護市辺野古沿岸部の埋め立てに向け、立ち入り禁止区域を示すためのブイの設置作業を強行した。午前7時前、沖縄防衛局の委託を受けた業者を乗せた作業船30隻が黄色いブイを次々と投げ入れた。設置に反対する市民らはカヌーやボートで抗議の声を上げたが、海上保安庁のゴムボートが取り囲み阻止。海上は騒然となった。沖合には巨大な海保の巡視船が停泊し、睨みを効かす。異様な光景が広がった。
テレビ各局は設置作業強行を、辺野古の海上に取材船を出すなどして報道した。沖縄の苦しみや市民の怒りに軸足を置いた取材が見られる一方、「移設計画が一歩進んだ」として辺野古新基地建設を推進する政府に傾斜した東京目線の報道も少なくなかった。
テレビ朝日「報道ステーション」は、山口豊ニュースリポーターが辺野古沖の海上から「海保の船がカヌーを阻止しています」などとリポート。海保の監視員が山口に現場から離れ、港へ戻れと威嚇する。抗議のカヌーは10数隻。ブイ投げ込みの作業船に近づこうとするが、海保のゴムボートに進路を阻まれ、動きが取れない。山口のマイクに市民が怒りをぶちまける。「なぜ全然変わらないのか、日本は。政府は沖縄を人間扱いしていない」「沖縄に対する最悪の差別だ」。
山口は現場リポートだけでなく、今年1月再選された稲嶺市政の下で、辺野古移設の現状がどうなっているかを取材。山口「沖縄防衛局は辺野古沿岸を埋め立てて、波消しブロックなどを造りたいとしているが、市は許可していない」と、稲嶺が公約通り市政を進めている実態をリポートする。稲嶺は、資材置き場設置のための漁港使用を認める考えはない。作業用車両のための道路使用や河川の水路切り替えなど、市長の権限は大きい。
琉球新報(7月19日)によると、安倍は7月上旬、官邸執務室に防衛省幹部を呼び「なぜ作業が遅れている。さっさとやれ」などとブイ設置や海底調査の遅れについて声を荒げて叱責。机を叩いてまくし立てたという。山口の取材で明らかになったように、公約を守る稲嶺市政の下で工事が遅れているため、安倍は焦りを募らせている。知事選の前にボーリング調査を強行し、「既成事実化」を図ってしまおうという魂胆がありありだ。11月の知事選が推進、反対双方の陣営にとって、極めて重要だということがよく分かる。
対照的なのが、NHKの「ニュースウオッチ9(NW9)」だ。冒頭のキャスターコメントは「沖縄の普天間移設が新たな局面を迎えました」。ブイの設置作業を、記者が海上の取材船からリポート。「動き始めた移設計画」というスーパーが入る。1995年の日米合意からの経過を振り返る。「鳩山政権が『最低でも県外移設』を目指したが、移設先が見つからなかった」。昨年暮れ、仲井真が「基準に適合と判断、承認した」。
「NW9」はキャンプ・シュワブゲート前の抗議行動を2、3ショット放映し、「戦争が起こると、真っ先に基地が狙われる。基地を阻止しないといけない」とする反対派の声を伝える。しかし、ここでまとめに入るのではなく、「ボーリング調査に1年、埋め立てに5年、移設完了まで9年かかる。沖縄防衛局は出来るだけ早く工事を進めたいとしている」と政府の計画を無批判に伝える。典型的な東京発、東京目線の沖縄報道だ。
■金平キャスター「前代未聞の地殻変動」を現地で丹念に取材
金平のマイクに翁長「辺野古移設反対はパーフェクトに貫く」
他局に先駆けて11月の知事選を特集したのが、8月2日のTBS「報道特集」だ。タイトルは「沖縄知事選に地殻変動」。金平茂紀キャスターが番組冒頭、「沖縄の米軍基地問題については、本土と沖縄の間に大きな温度差があるといわれる。そんな中、辺野古移設問題が最大の争点になる11月の知事選に、前代未聞の地殻変動が起きている。現地を取材した」と特集全体の問題意識を要約して伝えるキャスターコメント。
金平が取材に向かったのは、名護市の米軍基地キャンプ・シュワブのゲート前。辺野古埋め立てに向けた資材を積んで、トラックがゲート内に入る。その度に、反対派の市民が「帰ってください!」と抗議の声を上げる。金平は「目につくのは、民間のガードマンが前線に出ていることだ。警察はゲートの奥に控えている。不可思議な光景が広がっている」とリポート。市民ともみ合い、抗議行動を阻止しているのは警備会社のガードマンだ。
ゲート前の歩道には、山型の突起が出た鉄板が敷かれている。日中は鉄板の上は50度以上になる。転倒すれば火傷をする。この鉄板は前日夜、金平のカメラが捉えていた。金平の目の前で、キャンプ・シュワブのゲート前に突如目隠し用のフェンスが設置され、鉄板の溶接作業が行われていた。歩道に敷き詰められたのは、その鉄板だった。沖縄防衛局は「トラックの泥を落とすため」などと説明するが、座り込み抗議を排除するのが目的であることは明らかだ。反対派市民の怒りは倍加する。
金平は稲嶺進名護市長にインタビューする。「1月の選挙で市民が意思をはっきり示したにもかかわらず、政府は民意を無視して、情報を全く開示しない」と憤る稲嶺に、金平が「地元の首長には、ある種の情報提供、開示はあるのでは」と質す。稲嶺は「一切ありません。ある日突然(工事などが)始まって、県からは『(工事は)出来るんだ』と」。安倍は地方の声を聴くと言いながら、自分の意に沿わない自治体には排除の論理で臨んでいる。安倍は稲嶺に一度も会っていない。
金平は、元小学校教師松田藤子さんを取材する。これまでは政治的な動きには沈黙してきたが、今は新基地建設反対の先頭に立つ。松田を突き動かしたのは、これまで県外移設を主張してきた仲井真が去年暮れ、埋め立てを承認した変節だ。それと市長選に示された民意が無意味のように扱われていることが許せない。松田は「(安倍は)沖縄に寄り添ってと言うが、賛成派にばかりに目を向けて、こちらには何も言ってこない」と憤る。今、声を上げなければ、本当に基地が出来てしまうと焦りを覚える。
仲井真の変節は、沖縄の政界に地殻変動を引き起こしている。7月末、自民党に所属する那覇市議17人中12人に処分通知が送りつけられた。金平「3名が除名、9名が離党勧告という処分」。市議会自民党会派の金城透会長には「除名」通知だ。翁長に県知事選への出馬を申請したのが、除名の理由だ。変節した仲井真を推す自民党について金城は「公約を破った側が守った側を処分する。失礼だ」と怒りを露わにする。
異変が起きているのは、保守だけではない。共産や社民など野党4党が一致して翁長支持を決めた。これを受けて、翁長は「しっかり重く受け止め、沖縄の将来のために考えて行く」と出馬に意欲を示している。金平は共産党の赤嶺政賢衆議院議員にマイクを向ける。赤嶺「沖縄の歴史の中でも今までになかった天王山の闘いだから、保守を推すことにためらいはない。基地を造らせないために全力を挙げる」。
こうした動きは経済界にも波及している。沖縄ハム総合食品の長濱徳松会長。沖縄経済界で翁長を推す中心人物だ。米軍基地は経済発展の阻害要因として、県内移設断念を求めている。長濱「保守対革新と言えば、経済界は大体右手(保守)を挙げていたが、(今回は)そうじゃないと。生活権獲得のため、生きるために闘おうと」。7月27日、普天間移設と県内新基地建設断念を求めて、保革総結集の集会に2千人が参加した。壇上には翁長を推す議員が与野党の枠を超えて肩を並べた。従来の枠組みを超えた翁長支持が広がる。
自民党の世論調査では、翁長が仲井真を大きくリードしている。仲井真の変節に女性層が大きく反発しているのが要因と見られる。政権与党の公明党はまだ旗幟を鮮明にしていない。金平が翁長にインタビュー。翁長は「(辺野古移設反対は)パーフェクトに貫きます。そうでないと、これからの沖縄は厳しいですから」と明快だ。「沖縄県知事選の動きは、安倍政権の今後にも影響を与えかねない」と番組は締めくくる。
■沖縄の怒り限界に近づく、安倍暴走続けば大暴発の危険も
テレビは一過性の報道で終わらせず、継続して取材強化を
ボーリング調査強行と知事選の問題は、21日のテレビ朝日「モーニングバード」でも取り上げられた。玉川徹キャスターが取材船でボーリング調査の現場に向かう。海保の警戒艇が「行く先を知らせろ」と牽制する。ものものしい警戒が続く。玉川は、前泊博盛沖縄国際大学教授にインタビューする。前泊は今度の知事選について「沖縄のアイデンティティを確立する選挙だ。沖縄のことは沖縄の人間が決める。自分たちで実行できるようにする闘いだ」と強調する。
玉川は、沖縄のホテル・観光産業の「かりゆしグループ」を率いる平良朝敬CEOを取材。「観光は平和産業。辺野古移設は断固反対」を主張する平良は、仲井真が「辺野古移設反対」の公約を裏切ったため、今回翁長支持に踏み切った。玉川「政府は辺野古移設を容認する代わりに、沖縄振興策をセットで用意している」。平良「振興策は要らない。カネを渡すから言うことを聞け、というのは通用しない。米軍基地は、沖縄経済発展の阻害要因になっている」と反論する。
平良は、安倍のボーリング調査強行が最悪の事態につながる危険性を指摘する。沖縄返還直前の1970年、コザ暴動が発生した。米兵による交通事故が相次いだことに、群衆が怒りを爆発させ、米兵の車に次々と放火、17人が逮捕された。平良は「もっと凄い運動になる。死者が出る事態もあり得る。沖縄の人は我慢強いが、爆発すると大きな行動に出る」と警告する。
スタジオで玉川は、「沖縄は経済界も基地推進と、不要論の二つに割れている。中央に従うだけなのか、沖縄が自分で決めるのかという状況になっている」と解説。辺野古新基地推進派は従来通りの中央集権型で、反対派は自己決定型と分類する。その上で玉川は「移設反対派の知事が誕生した場合、それでも政府が埋め立て工事を強行すると、大混乱になる」と指摘。米国との関係で安倍政権が孤立する危険に言及して番組を終える。
23日、キャンプ・シュワブ前で辺野古移設の中止を求める集会が開かれた。集会には3600人が参加した。TBS「報道特集」は「美しい海を埋め立てて基地を造るのは許せない」など市民の声を交えて集会の模様を伝えた。「報道特集」は同時に海上保安庁の「過剰警備」についても報道した。立ち入り制限区域外で、港に帰る抗議船に海保の警備艇(大型ゴムボート)が近づき、保安庁警備員が抗議船に乗りこみエンジンのキーを一方的に引き抜く。迫力ある映像は危険な過剰警備の実態を浮き彫りにした。
8月に入って、沖縄の知事選や辺野古新基地問題について、積極的に取り上げた番組を検証した。しかし、「NW9」のように政府の計画に忠実な報道をはじめ、掘り下げた報道は少なく、テレビの報道はまだまだ十分ではない。ブイの設置強行は濃淡の差はあれ、各局が一斉に取り上げたが、大半が一過性の報道で終わっている。継続した報道には不熱心というメディアに特有な積年の病弊が顔をのぞかせている。
テレビに今求められるのは、「報道特集」のように取材の目を日常的に光らせ、細かい動きもボツにせず、しつこく伝えて行く報道姿勢だ。テレビは海底ボーリング調査の実態を丹念にフォローし、伝えてほしい。ボーリング調査は16か所で実施したとされるが、政府はその実態を国民に報告する義務がある。テレビはその点についても詳しく情報を明らかにしてほしい。11月の知事選に向けて、沖縄県民の願いを実現するには、テレビ局の継続的な報道が不可欠の要件である。
(敬称略)