河野慎二/ジャーナリスト・元日本テレビ社会部長/テレビウオッチ(58)翁長当選、総選挙でも「オール沖縄」が自民に完勝 ― テレビは「辺野古新基地NO」をどう報道したか 15/01/11
翁長当選、総選挙でも「オール沖縄」が自民に完勝
テレビは「辺野古新基地NO」をどう報道したか
河野慎二 (ジャーナリスト ・ 元日本テレビ社会部長)
2015年が幕を開けた。今年は、日本が第2次世界大戦で敗戦してから70年目の節目の年だ。戦後50年、60年と歩みを重ねて来たが、今年はこれまでとは全く異なる情勢の下で、戦後70年を迎えた。安倍政権は、昨年12月の総選挙で公明党と合わせて公示前議席を確保したことをもって「政策は信任された」と自称し、通常国会で集団的自衛権行使の関係法整備に突き進もうとしている。そして、その先にあるのは安倍流の〝改憲クーデター〟である。軍靴の足音が聞こえてくる戦後70年だ。
沖縄も戦後70年を迎えた。沖縄の人々にとって、沖縄の戦後70年とは、一般県民17万人を死に巻き込んだ旧日本軍と米軍との地上戦が真っ先によみがえる。沖縄タイムスは、1月1日の社説で「この島々に鉄の暴風が吹き荒れたあの年から、今年で70年になる」と表現している。昨秋初当選した翁長雄志沖縄県知事も12月10日、就任の記者会見で「来年は沖縄戦から70年。この節目に歴史の新しい1ページを開く意味でも知事就任を重く受け止め、全力を挙げて頑張って行く」と述べている。
辺野古新基地建設問題は、安倍政権と沖縄県民との間で最大の対立点となっている。その沖縄で昨年暮れ、安倍政権に深刻な打撃を与える事態が起こった。衆議院総選挙の沖縄全4選挙区で、辺野古新基地反対の4候補が新基地建設を容認する自民党候補に完勝したのだ。昨年1月の名護市長選、9月の名護市議選、11月の県知事選に続いて、沖縄県民は4回連続辺野古移設拒否の意思を明確に示した。辺野古新基地NOの民意は揺るぎのないものとなった。
今回の結果について、沖縄の人々は「沖縄の尊厳と誇りは保たれた」と強調する。保守革新の対立を乗り越えた「オール沖縄」勢力が完勝した最大の要因は、前回の総選挙で「県内移設反対」を公約して当選した自民党と仲井真弘多前知事の裏切りにある。安倍政権のカネと圧力の屈服し「いい正月が迎えられる」と嘯いた仲井真と自民党は、県民の尊厳と誇りを傷つけた。米軍に自ら基地を提供することだけは絶対にしないという決意で「オール沖縄」共闘体制が結成され、歴史的な成果を現実のものとした。
この「オール沖縄」方式の勝利は、日本の政治全体の地殻変動にもつながるヒントになる。「オール沖縄」は、普天間基地の撤去とオスプレイの配備撤回を求めて県内41市町村の全首長が大同団結した2013年の「建白書」をベースにしている。まだ緒に就いたばかりだが、東京など各地で「オール沖縄」に相通ずる運動が起きている。特定秘密保護法に反対する市民運動や集団的自衛権に反対する運動、反原発の官邸前金曜デモなどがそうだ。国の権力行使は憲法の拘束の下でのみ行われるべきだとする「立憲デモクラシーの会」には、改憲論者も加わって進められている。今後、こうした運動をどう横につなげて、全国的に広げて行くか。戦後70年を迎えた2015年の最大の課題になる。
■テレ朝情報番組「2015年は沖縄から日本が動く」と報道
翁長「辺野古に新基地はノーの民意はぶれていない」
テレビは沖縄の問題をどう伝えたか。12月25日、テレビ朝日の情報番組「モーニングバード」が玉川徹キャスターのコーナーで取り上げた。タイトルは「衆院選でも辺野古移設はNO!沖縄から日本が動く?」と刺激的だ。
玉川が翁長知事にインタビューする。翁長はまず自らが勝利した県知事選を振り返り「私は『オール沖縄』『イデオロギーよりアイデンティティ』と訴えて、新しい基地は造らせないということで当選した」と指摘。「県内移設はさせないという思いが県民に強くあって、(総選挙でも)1区から4区まで知事選と連動して勝利した。沖縄県民の民意がぶれていなかったことが、衆院選でも示された」。
玉川が重ねて「沖縄の民意は知事選、衆院選を通じて辺野古ノーだったということか」と質す。これに対して翁長は「その通りだ。争点は衆院選でもほとんど基地問題だった。(2014年は)戦後69年になるが、沖縄が自ら提供した基地はない。銃剣とブルド‐ザーで強制接収された。そういう中で今まで来ているから、普天間基地が世界一危険な基地だとしても、沖縄に移設の場所を求めるということ自体が、県民からすると残念至極なことだ」と、沖縄県民の原点を語る。
辺野古移設を認めないという課題をどう実現するか。翁長は「仲井真前知事が昨年末、全部ひっくるめて承認したので、どう変わったのか検証する」と述べると同時に、「沖縄の実情がアメリカ政府にきちんと伝わっていないので、ワシントンに駐在員を置いて沖縄の情報を発信し、米側の情報を収集する」と〝沖縄外交〟構想を明らかにする。その上で「もう一点は、私が訪米してペンタゴンやホワイトハウス、連邦議会などに、今の沖縄の民意を含め、沖縄の実情を訴えるつもりだ」と述べる。
玉川が「日本政府が実際に辺野古の埋め立て工事を始めた場合どうするか」。翁長は「私はまだ日本という国を信じている。1月の名護市長選、9月の名護市議選、11月の県知事選、そして衆院選4選挙区の結果(が出ている)。全部(辺野古移設)ノーという意思表示をしたわけだから、他の都道府県でこれだけの民意が示されたら、日本国がそれを押しつぶすことが本当にあり得るのか。沖縄県民が思っているのは、いつもそれなんです」と、沖縄に民主主義を適用するよう求める。
翁長の視線はアジアから世界に向かう。その原点は、沖縄が日本とアジアを結ぶ拠点となる地政学的に有利な条件にあるという認識にある。実際、沖縄は日本と中国、韓国、東南アジアの流通拠点として、存在感を増している。翁長は言う。「国際世論は見ている。日本という民主主義国家が、アジアや世界に冠たる国家としてリードしていくとしたら、(強硬策は)日本にとって大変厳しいのではないか。(その実態は)国際社会にも、県民にも可視化できるので、よろしくない」。
■前泊教授「沖縄は日本の民主主義を問う試金石になる」
「民意を無視し、基地建設工事を強行すれば流血の事態も」
次に玉川は、2015年に沖縄で起こりうる問題に議論を進め、「日本人はどういう風に考えるべきか」と沖縄国際大学の前泊博盛教授にインタビューする。前泊は「沖縄は敗北したが、全国では勝ったと称して、安倍政権は『粛々と建設を進める』としている。反対する民意を表明したにもかかわらず政府が強行するなら、衝突が起こる可能性がある。このまま行くと、血が流れる恐れがある」と指摘する。現実にキャンプ・シュワブ前では抗議する市民と警官隊の間で、小競り合いが発生しけが人も出ている。
画面には「2015年は沖縄から日本が変わる?辺野古移設問題は沖縄だけの問題なのか」のサブタイトルスーパー。前泊は「国民同士が、住民と機動隊などがぶつかりあって血を流し、国家権力が住民を抑え込んで基地を造ろうとしている。その基地はどこの(国の)基地なのかということを、国民全体が忘れている。ここは米軍の基地で、外国の軍隊の基地を造るために、日本人同士が血を流しあう。これはどういうことかという疑問に、なぜ誰も気がつかないのだろうか」と根本的な疑問を投げかける。
前泊はさらに「少数(意見)、あるいは地方を犠牲にして全体が利益を得るという形がある。沖縄でそうなる(辺野古新基地が建設される)と、次は原発、次は集団的自衛権、最後は憲法改正の問題で、反対の声は全部封じられて、我々(政府)はすべて信任を得たんだと、今の政権は強行してくるかもしれない」。その上で前泊は「極端なことを言えば」との条件付きで、改憲や集団的自衛権の先に〝徴兵制〟を持ち出す危険を指摘し「沖縄は、日本の民主主義を問うための試金石になる」と警告する。
「モーニングバード」はストレートなニュース番組ではない。ワイドショーに近い情報番組である。その中で、毎週木曜日の玉川のコーナーは、時の政権の政策について、様々な角度から問題点や疑問を率直に指摘して視聴者に問題提起してきた。ところが、今回総選挙期間中はテーマの取り上げ方が慎重に過ぎて、自民党のテレビ局への「申し入れ文書」の影響を感じさせた。しかし、25日の同番組はいくつかの点で示唆に富む内容となり、玉川が売り物にしてきた〝鼻っ柱の強さ〟も取り戻した。
■「報道ステーション」「NEWS23」「報道特集」などが取材
翁長「今、基地を認めると、沖縄は永久に基地の島になる」
辺野古新基地を巡る沖縄の問題については、回数が少ないのが難点ではあるが、各局の番組が取り上げている。翁長知事当選から総選挙終了後までの期間の番組について、概要を振り返ってみよう。
△BSTBS「沖縄知事選スペシャル」(11月16日、20時~23時)
BS放送ならではの大型編成。投票が締め切られると同時に「当選確実」が出た翁 長事務所か らの生中継で番組が始まる。喜びが弾ける翁長陣営。翁長が「今、基地 を認めると、耐用年数が 200年あるから、沖縄は永久に〝基地の島〟になってしま う」と勝利の意義を強調する。「仲 井真がもっと肉薄すると思っていた」と、苦虫を噛 み潰した森本敏元防衛相の表情が体制側のシ ョックの大きさを浮き彫りにする。
△テレビ朝日「報道ステーション」(11月17日、21時54分~23時10分)
古館キャスターが約1時間沖縄辺野古海岸から生中継。前半の「安倍首相、あす 解散表明へ」 を東京のスタジオと掛け合いで伝えた後、「翁長圧勝」をリポート。翁長 は、普天間基地の撤去 を掲げた仲井真に対し、同基地のある宜野湾市でも3千票 近い差をつけて勝利した。市内で保育 園を経営する新垣さん親子は意見が分かれ た。元々は保守系で、長男の健太さん(30)は仲井真 に一票を投じたが、父親の善 正さん(61)は「こんな小さな沖縄に日米安保を全部背負わせるの か。沖縄県民とし てこれ以上沖縄を汚したくない」と翁長を支持した。
沖縄は日本の国土の0・6%を占めるに過ぎない。その狭い地域に在日米軍施設の 74%を押 し付ける。古館は、ヘリで米軍施設を取材する。宜野湾市の4分の1を占 める普天間基地。キャ ンプ・ハンセン、キャンプ・コートニー、嘉手納空軍基地など。 沖縄本島の2割が米軍基地で占 められている。古館は、辺野古基地が建設される 大浦湾を海上から取材。「(辺野古新基地は)滑 走路というより、海から突き出た巨大 なカベとなる。高さは海上から10メートルにもなる」と リポート。大浦湾の豊かな自然 は完全に破壊される。沖縄防衛局の監視船が「速やかに退去せよ」 と行く手を阻む。
翁長が古館のインタビューに答える。翁長は「9月に菅官房長官が沖縄に来て『辺野 古は過去 の問題』と話したので、私は『いや、未来の問題なんだ』と返した。私たちの 誇りというものは そう簡単に崩せるものじゃない。私たちは不退転の決意で前へ進む 。これが大切だと思っていま す」と断言。古館「今、安倍首相に何か一言をと言われ たら、どんなメッセージを送るか」。翁 長「『日本を取り戻す』という言葉の中に『沖縄 は入っていますか?』と言いたい。『戦後レジ ームからの脱却』と言うが、沖縄だけは 『戦後レジームの死守』みたいな感じなので、しっかり 聞いてみたい」とピシャリ。
△TBS「NEWS23」(12月11日 22時54分~23時50分)
沖縄全4選挙区で自民党が完敗した「オール沖縄」共闘の実態を取材。1区では、 赤嶺政賢候 補(共産)を自民党を除名された那覇市議団が応援し、4区では仲里利 信候補(無所属、元自民党) を共産党が応援する。生粋の自民党員だった金城徹那 覇市議と赤嶺のツーショット映像は〝百聞 は一見に如かず〟「オール沖縄」がよく分 かる。岸井キャスターが「沖縄に米軍基地は要らない とする『オール沖縄』のアイデ ンティティは広がっている」と解説する。
△「報道ステーション」(12月12日)
安倍政権にも近い外交評論家の岡本行夫氏がゲストコメンテーターとして出演。辺 野古新基地 建設は困難との認識を示した。岡本「県民の8割くらいが反対しており、 基地建設はなかなか難 しいのではないか」。古館「ジョセフ・ナイも沖縄に基地が集 中するのはよくないと言っている」。 岡本「辺野古基地を造るのが最善の策だが、最 善の次は次善、三善の策がある。今はそれを考え ざるをえない。(翁長当選で)情勢 が変ってきて、(辺野古移設は)いろいろ難しい点が出てきた」 とコメント。
△TBS「報道特集」(12月20日、17時半~18時55分)
金平キャスターが「一か所だけ、全く異なる風が吹いた場所がある」として、自民党 が完敗し た沖縄を取り上げた。開票日、「勝因は?」と向けた金平のマイクに、赤嶺 政賢が「辺野古に基 地は造らせないとの一点で県民が団結したこと」と答える。翁長 が「知事選で示された民意が全 くぶれていなかった。これから、日本の民主主義の あり方が問われることになる」と「オール沖 縄」の完勝宣言。スタジオで金平は、テレ ビの選挙報道について「公正、中立」を求めた自民党 の「お願い文書」に言及。「こう いう文書をテレビ局に出すのはどういうことか。テレビがどう いう影響を受けたのか、 検証が必要」とコメントした。
ニュース番組ではないが、日本テレビ系列のNNNドキュメント14「希望と翻弄の狭間で 基地の 島沖縄で暮らす」(11月17日、午前零時59分~1時29分)も紹介して置こう。有事の対米協力を含 む「日米防衛協力のための指針」(新ガイドライン)が合意された1997年に生まれた渡具知武 龍君と双子の姉妹を主人公に、名護市民17年の闘いを描くドキュメントだ。17歳になった武 龍君が「ここへ来て、辺野古の海を見るだけでいい」。妹は「きれいな海で、いつでも遊べる海 であってほしい」と海辺で語り合うラストシーン。「最低でも県外移設」の公約を覆した鳩山政 権と、カネと圧力に屈した仲井真の裏切り。番組は、政治が子供の未来を翻弄することは許され ないと訴える。
■安倍、翁長との対話拒否、異常な冷遇の先にあるのは…?
戦後70年 沖縄を伝える大手メディアは「覚悟」が問われる
2015年、沖縄の辺野古新基地問題はどう動くか。衆院選開票翌日の記者会見で安倍
は「辺野古移設は唯一の解決策であり、その考えに変化はない」と言い切った。安倍は12月26日、挨拶のため上京した翁長の面会要請を拒否。辺野古埋め立て工事についても、政府は強行突破の構えを崩していない。翁長への冷遇は年明け、さらに露骨になっている。自民党本部は8日、沖縄振興予算を議論する調査会を開いたが、翁長に出席を求めなかった。沖縄県のトップを排除して、振興予算を1割以上カットする。沖縄県民の民意無視を通り越して、県民を敵視するに等しい異常な対応である。
これについては、8日の「報道ステーション」や日本テレビのニュース「ZERO」が取り上げた。「報道ステーション」は、農水相がサトウキビ交付金問題でJAの代表には会ったのに、翁長との面会は拒否したことなど、一日の動きを伝えた。古館は「あまりにも露骨」とコメント。惠村コメンテーターが「翁長知事の話を聞かないということは、沖縄の民意を聞かないということだ」と述べた。「ZERO」の村尾キャスターも「仮に、政府の政策に反対する自治体があっても、そのことで予算を減らすのは、あってはならないことだ。今後も予算編成の過程をしっかり注目して行きたい」とコメントした。
安倍政権と自民党の対話拒否について、翁長は「あるがままの状況を県民や本土の方に見てもらい、考えてもらえればいい」と述べている。翁長のメッセージ、即ち沖縄の民意を伝えるには、メディアの積極的な取材が欠かせない。東京のテレビや新聞など、大手メディアはこれまで、日米安保体制を聖域視する傾向が強く、沖縄の問題を全国ネットで継続的に取材する姿勢が弱かったが、沖縄がこれほど明確に「辺野古新基地NO」の民意を示した以上、従来通りのスタンスではメディアとしての責任は果たせない。
琉球新報は8日の社説で「安倍政権は県知事選と衆院選の県内選挙区で完敗した意味をよく理解できていないのではないか」「知事冷遇への反発が広がる沖縄の民意を今こそ直視し、その非民主的な対応を恥じるべきだ」と指摘している。翁長に対する安倍政権の異常な冷遇の先にあるのは、辺野古新基地建設へ向けた強行突破だ。そうなると、流血の事態も懸念される。沖縄に民主主義は適用されないのか。戦後70年。沖縄を報道する東京の大手メディアも「覚悟」が問われる年になる。(敬称略)