水久保文明(JCJ会員 千代田区労協事務局長 元毎日新聞労組書記)

「ヘボやんの独り言」より転載 

捏造したのは逆だった-植村名誉棄損裁判傍聴記①   18/03/26

 「為(ため)にする」という言葉がある。それは①ある別の目的をもって、また、自分の利益にしようとする下心があって、事を行う。 「 - ・するところあっての議論」(大辞林第三版)②ある目的に役立てようとする下心をもって事を行う。「我輩固(もと)より―◦する所ありて私立を主張するに非ず」〈福沢・学問のすゝめ〉(デジタル大辞泉)③ある目的を達しようとする下心があって事をおこなうのにいう(広辞苑)――ということになる。

 元朝日新聞記者・植村隆さんの書いた原稿への〝捏造記事〟攻撃は、まさにこの「為にする」ものであったことが明らかになった。

 3月23日、昼休み休憩をはさんで午前10時30分から午後4時50分まで、札幌地裁において植村さんが提起した「私は捏造記者ではない」という名誉棄損裁判は山場を迎え、原告・植村さんと、被告・櫻井よしこ氏双方の証人尋問が行われた。前日札幌入りした私は、傍聴席でその様子を見てきた。以下、その報告である。

 まず原告の植村さんから証言席へ。植村さんは「高知県で母子家庭の子として育ったとき、朝鮮人がいじめられる様子に耐えられなかった。人は平等であるべきだと思ったし、差別問題は新聞記者としての原点になった」「慰安婦問題はその延長で、人権問題として位置づけ取材を重ねてきた」と、慰安婦問題と自分のかかわりについて説明した。

 事件のきっかけとなったのは植村さんが執筆した1991年8月の朝日新聞の記事。はるか昔の記事を引き合いにして、2014年1月からから2月にかけて、「週刊文春」「WiLL」が西岡力氏、櫻井よしこ氏のコメントや論文を掲載し「植村氏の記事は意図的にねじまげたねつ造である」と批判したもの。櫻井氏はニュースキャスターだったこともあり、テレビでも同様の発言を繰り返していた。

 これによって札幌に住んでいた植村さん一家は、右翼などから嫌がらせを受けるようになった。「1週間に250通もの手紙やはがきが届いた」という。合わせて娘さんの顔写真がネットに流され、家族が危険な状況に陥った。

 植村さんへの反対尋問は、「連行」と「強制連行」はどう違うのか、「挺身隊と慰安婦は違うものではないか」など、すでに決着がついている問題に終始した感があった。本件とは直接関係ない従軍慰安婦問題で虚偽の著作を出した吉田清治氏について執拗に質問してきた。

 なぜだろうと疑問に思ったが、はたと気づいた。吉田氏の著作物と植村さんの記事を同列視することによって「捏造」であることを印象づけようとしたのだ。あの、どこかの首相が大好きな〝印象操作〟である。しかし、植村さんの反論によりそれらは粉砕された。

(次回につづく)

★脈絡のないきょうの一行
八ヶ岳で7人が滑落、3人が死亡。悲しい事件。この種の事故は避けられないのだろうか……。


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