坂本陸郎(JCJ運営委員;広告支部会員)
(本稿は主に安田浩一著『沖縄の新聞は本当に偏向しているのか』を資料とし綴ったものです。その他の著書からも引用しながら連載の予定です)
デマゴギー
事実を歪める情報がネット上で散乱し、誤解と偏見を生んいる。それらが沖縄を理解するうえで、国民に影響を及ぼしてはいないだろうか。
例えば、「基地の地主は年収何千万円なんですよ。みんな六本木ヒルズとかに住んでいる。基地がなくなると、お金が無くなるから困る。沖縄はそれでも本当に基地被害者なのか」といった著名人のまことしやかな発言内容がブログやネットで流れている。
かと思えば、辺野古で新基地建設に抗議する人々に対して、「朝から酒を飲み、日当2万円をもらっている」という、とんでもないデマがまかり通る。さては、「米軍普天間飛行場は、もともと田んぼの中にあり、周りには何もなかった。基地ができると商売になると、基地の周りに人が住み出した」といった事実を歪めるものもあり、「辺野古基金には、中国からの工作資金が基地建設妨害勢力に流れている」といった荒唐無稽なものもある。
これらの、米軍基地建設に反対する沖縄県民に向けられたデマゴギーが、沖縄県民のみならず、本土の国民の正しい理解を妨げている。
「基地依存」
そのひとつが、「沖縄は基地がなければやっていけない」といった言説である。基地なしには沖縄の経済は成り立たないというものなのだが、果たして、そうだろうか。
沖縄県の調べによれば、軍用地料、基地雇用者収入など基地関連収入の割合(基地依存度)は、現在わずか5%に過ぎない。たしかに、本土の高度経済成長と切り離されていた72年の復帰直後の依存度は15,5%だったが、その後は年々、依存度は低下している。
沖縄観光コンベンションビューロー会長で、沖縄きってのホテル業大手「かりゆしグループ」CEOの平良朝敬氏がこのように語っている。
「基地の存在こそが、沖縄経済にとっては阻害要因だ。そもそも沖縄が米軍基地を誘致したわけでもない。“銃剣とブルトーザーで土地を奪って基地がつくられた。そうであるのに、”沖縄は基地で食っている“などという物言いが飛び出すところに、誤解というよりも、沖縄への蔑視が感じられます」。
続けて、「沖縄経済の市場規模は年間4兆円、そのうち基地関連収入は約2千億円です。全体から見れば、基地関連収入はさほど大きな額でもなく、当然ながら、それは沖縄が食っていけるだけの規模でもない。さらに、観光産業から見れば、非常に魅力的場所に米軍基地が集中している。これは実にもったいないことなんですよ。雇用も利益も生み出すことのできる場所に基地が存在することで、ビジネスチャンスを失っている」。
ビジネスチヤンス
基地は経済発展の阻害要因だと平良氏は言う。では、基地が撤去されれば、どうなるのだろうか。
平良氏は、2015年4月に返還された北中城村跡の大規模ショッピングモール「イオンライカム」を例として挙げている。
ここでは、米軍の専用ゴルフ場だった跡地17万5千平方メートルに、県内最大の商業施設が建設され、大型スーパーをはじめ、220店舗が軒を連ね、複合型映画館も備わり、南国沖縄らしいリゾートの雰囲気が演出され、地元の買い物客だけでなく、内外から訪れる観光客にとっても名所の一つとなっている。
そこでは、米軍のゴルフ場だった以前に比べると、雇用は飛躍的に増大した。ゴルフ施設では日本人は38人しか雇用されていなかったのに、現在そこで働く人は約3千人である。集客数も、2016年には予想を100万人上回る1300万人となった。
米軍の施設が返還されてのち一変したのは、この北中城村跡地だけではない。1987年に全面返還された那覇市の米軍牧港住宅跡地の「新都心地区」では、高層マンション、ホテル、それに県や国の出先機関、博物館、展示館、商業施設が立ち並び、そこは大都市の景観を呈するまでになっている。しかも、返還後の経済規模は、返還前の年間57億円から1624億円へと、約28倍に増大し、雇用も485人から1万6475人へと、約34倍となっている。平良氏は、新基地建設で揺れる辺野古にも、大型リゾート施設ができれば、数千人の雇用と数百億円の経済効果が期待できると語っている。
平和産業
「観光は究極の平和産業だ」と、常々語る平良氏は、東京で大学生だったころ、神奈川県の湘南海岸を見た時、観光資源なら、沖縄は日本のどこにも負けないポテンシャルを持っていると確信したのだという。
現在も、沖縄を訪れる観光客は増加の一途をたどっている。2015年に沖縄を訪れた観光客は776万3千人、前年比で70万4700人の増、率にして10%の伸びである。3年連続で国内国外ともに過去最高を更新した。特に、海外からの観光客は増える一方である。もちろん、基地を見ようと訪れる人はいないであろう。
かつては、沖縄の経済は基地、公共事業、観光の頭文字を取って、「3K依存」とも言われてきた。だが現在は、確実に基地と公共事業への依存から脱却してきている。今後の経済発展も期待できるであろう。平良氏は、次のような展望を語っている。
沖縄を中心とする半径3千キロ以内に約20億人、4千キロ以内に約30億人が居住している。そのアジア全域にわたる商圏は、今後の沖縄県の発展を約束しているといえるだろう。基地が全面返還された後の沖縄の変貌は、扇の要としての地理的条件からして有望なのである。