戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
高級官僚の人事を一手に握る「内閣人事局」が設置されたのが2014年6月、初代局長が加藤勝信、次が荻生田光一で今は杉田和博である。杉田氏は警視庁公安畑出身でこの前まで内閣官房副長官を務めていた。この内閣人事局、今更ながら多くの問題が指摘されている。「疑惑隠しに批判の声」「安倍政権の官僚人事私物化」「隠ぺい加担に〝論功行賞〟」「調査拒否を徹底」(8月21日付『赤旗』)。
『赤旗』が疑惑隠し”栄転〟人事だとして第一に問題にするのは、森友疑惑の渦中で財務省理財局長をしていた佐川宣寿氏の国税庁長官就任。佐川長官は歴代長官が恒例としてきた就任会見もしない。ひたすら批判を避け続けている。安倍明恵首相夫人付職員の谷査恵子氏もイタリア大使館一等書記官になった。
この内閣人事局については22日付『毎日』も、「いびつな政権運営 内閣が掌握した人事」のタイトルでジャーナリストの森健氏にその異常さを語らせている。「人事権が官僚側だけで収められていた状況であれば、防衛省でも内閣府でも文科省でも、事実に基いた適切な証言がなされた可能性がある。だが、内閣人事局に官僚の人事も握られたことで、官僚は政治にモノが言えなくなってしまった」。
森氏は福田康夫元首相が共同通信のインタビューで「政治家が人事をやってはいけない。安倍内閣最大の失敗だ」と発言したのを紹介、「こうした動きで思い出されるのは戦中の東条英機内閣である」と指摘する。東条は、憲兵を使って批判派を四六時中監視し、翼賛政治体制をつくりあげたというのだ。
自民党内部から福田元首相のほかにも〝翼賛人事〟に対する不協和音が聞こえ始めた。次期総裁候補の1人石破茂氏は20日、佐川国税庁長官の態度を「国税庁長官は、みなさんに(税金を)払ってくださいという立場だ」「会見しないというのは、納税者1人ひとりと本当に向き合っているのか」と批判。
同党の平沢勝栄議員も「官邸が官僚組織を、人事を通じて丸ごと掌握する形が果たしてよかったのかどうかは、再検討すべきと感じます」と疑問を投げかけている。
日本の官僚というのはそれなりに優秀だし、力も発揮する。森氏が言うように「事実に基いた適切な証言」が得られる可能性もある。しかしそれは政治権力からの独立が保証されていることが前提になる。内閣人事局に首根っこを押さえられていては持っている能力を発揮することもできない。政権の狗に過ぎなくなるのではないか