戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「フリーランス独禁法で保護」「公取委検討 労働環境改善図る」「芸能関係も注視」(3日付『毎日』)。公取委がフリーランスの法的位置付けを検討する有識者検討会をこの8月に始動させた。まずフリーランスの実態調査を始めるという。フリーランスにはフリーのエンジニア、コンサルタント、などのほか芸能人やプロスポーツの選手も含まれる。これらは労基法と独禁法のグレーゾーンという認識だ。
過去1年で雇用とは別に収入を得た人が推計1122万人。副業タイプが目立っているが、プログラマーやエンジニア、個人事業主ら専門性の高い仕事をする人も300万人に上る。これらの人材の引き抜き競争が過熱しているのだそうだ。公取委は既に芸能事務所やスポーツ団体から聞き取りを始めた。
おれも労働委員の現役当時、労働者性を争った事件をいくつか担当したことがある。日刊ゲンダイのフリー記者、NHKの受信料集金人、車持ちトラック運転手、合唱団員などだ。いずれも労働者性が認定されて救済されている。労使対等の話し合いによって事件はすべて解決へ向かった。
さて今度の公取委によるフリーランスの独禁法適用の方針だが、例の安倍政権の「働き方改革」と通じているようでどうも危険な臭いがする。独禁法でフリーランスを救済するふりをして、狙いは労働者性を否定するところにあるのではないか。独禁法はそもそも企業間の法的秩序を示す法律なのだ。
確かにフリーランスの労働者としての権利が脅かされていることは事実だ。芸能界やプロ野球では人身売買まがいの事務所間、球団間の移動が強制される。タレントや選手と交わした契約が企業の一方的な意思に変更される。過酷な懲罰が課せられる。今回の巨人軍山口俊投手への球団による仕打ちがいい例だ。
だから、フリーランスの無権利状態を放置しておくわけにはいかない。なんとか救済しなければならない。しかし、その救済手段を独禁法に求めるのはいかがなものか。フリーランスを支配従属関係においてその労働の成果を安く買いたたこうとしている企業の側に有利になるだけではないだろうか。
おれはやはりフリーランスの労働者性と団結権を認め、保証すること。それを侵害したら不当労働行為として企業にペナルティを課し、労働者を救済することが原則だと思う。労働者は団結してはじめて使用者と対等の立場に立てるのだ。フリーランスの権利擁護はまずそこから始められなければならない。