戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
11日にプロ野球選手会が都労委に不当労働行為救済申立をした。相手側は巨人軍と日本野球機構(NPB)。選手会は巨人軍山口俊投手の懲戒処分問題にからんで団交をしていたが、巨人軍、NPBともに「処分は不当ではない」として一方的に打ち切った、選手会は誠実な対応とを求めて申立に及んだ。
山口投手はDeNAで活躍、16年にFA権を行使して巨人に移籍した。移籍条件は年俸2億5000万円、複数年契約3年といわれている。その山口投手が今年の7月11日、酒に酔って怪我をし、傷の手当てに行った病院で警備員を殴りドアを蹴飛ばして破損させた。8月18日に書類送検されたが、22日に不起訴になっている。被害者とは示談が成立し、本人は深く反省している。
巨人軍は山口投手に対して7月11日から11月30日までの出場停止とその間の年俸をカットする処分を科した。カット分は約1億円である。巨人軍は「本人は納得している」というが、選手会は①カット処分が重過ぎる、②契約見直しを迫り本人に押し付けた、③FA権の侵害に通じる、として処分反対を表明、巨人軍と話し合ってきた。NPBについても「義務的団交事項」と認めるよう要請していた。
選手会が都労委に申し立ててまでこの問題にこだわるのは、選手と球団との契約(法的には労働契約)が一方的に破棄、変更されることへの危惧からだ。山口投手は巨人軍と締結していた複数年契約の見直しを迫られ、応じなければ契約破棄(解雇)もあると脅された。特に山口選手の契約は長年の努力の結晶であるFA権行使に基くものであり、こんなことが許されればFA権の根幹が揺るがされかねねない。
ヤフーニュースで発信されている佐々木亮弁護士のツィッターによれば、この選手会による都労委申立には3つの争点があると指摘する。一つは巨人軍の「交渉の一方的打ち切り」が団交拒否になるかどうかということ。交渉が尽くされていれば打ち切りもあり得る。そこが争点だ。
第二は、巨人軍が山口選手との個別交渉で無理矢理処分に同意させたのは、選手会の無視であり、支配介入にあたるのではないか。第三に一応団交はやるが、姿勢が形式的であり資料提出にも応じない。これは不誠実団交ではないか。この3点が争点になるだろうという。おれもそう思う。
プロ野球選手会が都労委から労働組合としてその資格を認定されたのは1985年である。それから32年、その選手会から申し立てられた不当労働行為事件だ。都労委の対応が注目される。