戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

紛争処理は対話(外交)しかない 17/12/1

明日へのうたより転載

 北朝鮮がまたミサイルをぶっ放した。おれはあらゆる紛争処理において話し合い、対話、交渉、労使関係で言えば団交が絶対に必要だと思っている。国家間の紛争の場合はやはり外交だろう。紛争だから双方に言い分がある。それをきちんと出し合い、合意点を探る努力が今こそ必要なのではないか。

 おれは18年間、都労委労働者委員として労使紛争処理の現場にいた。労働委員会は労使紛争の調整と不当労働行為の審査という二つの機能を持っている。調整は労使どちらからも申請できるが、審査の申立権は労働者の側にしかない。いずれにしても紛争は解雇、差別、支配介入などの使用者の行為に原因がある。もっとも使用者に言わせればそれらの行為は企業存続のための正当な措置だと主張する。

 おれは18年間に219件の不当労働行為事件に関与した。労働委員会に持ち込まれた段階では労使が取っ組み合いの最中で、双方カッカときていることが多い。労働委員会の最初の仕事は「紛争の争点整理」である。頭に来て熱くなっている当事者にはそもそも何が争点なのか整理できない事件が多い。

 次に双方の言い分を公開の席上で証言する「審問」という手続きに入る。この頃になると双方とも大分冷静になる。それぞれ弁護士がつくのであまり無茶な主張は言いにくくなる(もっとも当事者に輪をかけた暴論を吐く弁護士もたまにはいるけどね)。そして結審、命令待ちということになる。

 この段階で都労委では必ず「和解」の打診をすることにしている。和解手続きというのは要するに労働委員会の会議室で行う「団体交渉」だ。ただし基本的には労使別々に面接し、公労使三者委員が主張を聞いて調整する。つまり労使の直接交渉ではない。しかしこれも団交の一形態だとおれは思っている。

 これで一応和解の枠組みはできたと言えるが、だからと言ってそう簡単には話は進まない。特に10年来の差別事件などはもう駄目かと何度も諦めかける。おれが関わった富士火災の差別事件は54回の和解期日、5年を費やして和解成立にこぎつけた。話し合えば必ず結果が付いてくるとおれは確信する。

 逆に話し合いを拒否して、労働者を敵視し続けている企業もある。株式会社明治・明治乳業だ。裁判長に勧告されても、「『労務上がり社長』は絶滅品種」(「ZAITEN」17年10月号)と揶揄されても断固話し合いに応じない。そんな経営者の顔がどこかの国の首相に見える。