戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「理研が無期逃れ」「5年雇い止め 組合、都労委に」申し立て」(19日付『赤旗』)。2014年春、小保方晴子さんのSTAP細胞捏造で問題になった理研。小保方さんは1年更新の非常勤職員だった。めぼしい研究成果をあげないと契約更新が危ない。そんな事情が彼女の焦りを呼んだ。
理研(理化学研究所)は100年前の1917年に財団法人として設立。戦後の一時期は株式会社になったこともある。58年に特殊法人、小泉内閣の時代に独立行政法人となり現在に至っている。国からの研究費交付が運営の財源だ。小保方さんのような非常勤職員が4209人もいる。
ところで5年前の民主党政権時代に法改正になった労働契約法第18条が来年4月に発効する。有期雇用契約の労働者が5年経って無期契約を申し出れば使用者は受け入れざるを得ない。この「無期転換ルール」の適用を巡って今いろんな企業で問題が起こっており、今回の理研事件もその一つだ。
理研はこの無期転換ルールを逃れるため16年4月、終業規則を「非常勤職員の契約は5年を上限」と変更。さらに「再雇用に6ヵ月のクーリング期間を設ける」とした。これには労働者過半数代表も理研労働組合も反対したが当局はそれを無視して5年を超える非常勤職員を雇い止めするする構えだ。
「組合側は団体交渉で(雇い止めの)撤回を申し入れましたが、当局側は撤回を拒否し、雇い止めの理由や必要性を具体的に明らかにしないため、不当労働行為の救済を申し立てたものです」。形式的には団交に応じても具体的な説明もしないのは「不誠実団交」として労組法7条違反になる。
都労委申立後の記者会見で、雇い止めの対象にされている労働者は「引き継ぎの職員は、すぐには理解できず、私に聞きにくる。こんな無駄な雇い止めをなぜするのか」「競争している研究成果の緊急発表の支援など、規定を理解した職員がいないとできない」と訴えている。
金井保之理研労組委員長も「職員は研究がスムーズにいくよう支えている。ベテランがいなくなれば研究現場は混乱し、回らなくなる」と指摘する。小保方さんが辛い思いをした理研の雇用・組織の環境がそのまま現在に引きずられている。それにしても小保方さんは今どこで何をしているのだろう。