戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「産経記事 おわび・削除」「『米兵が日本人救助』報道」「沖縄地元紙非難」「識者 紙面検証『不十分』」(9日付『毎日』)。産経新聞が12月12日付の朝刊紙面で、地元紙が米兵の交通事故を報じなかったことを非難する記事を載せたが、その非難が的外れだった。産経はその言い訳と地元紙への「おわび」を8日付同紙1面に掲載したと。産経が削除した記事とはとんなものだったのか。
昨年12月1日、沖縄自動車道で6台の多重衝突事故があった。それに巻き込まれた米軍曹長が怪我をしたが、彼は怪我の前に日本人男性を救助したというのが産経記事。ところが記事はそこでおしまいでない。この米兵の美談を報道しない地元紙を「『反米色』に染まる地元紙メディアは黙殺を決め込んでいる」「メディア、報道機関を名乗る資格はない。日本人として恥だ」とののしった。ここで「日本人として」が出てくるあたりに昨今の国家主義・戦前回帰の風潮の反映が見られる。
ところが後日の沖縄県警の発表では、そもそも米軍曹長の日本人救助との「美談」は存在しない。産経は米テレビや海兵隊の取材はしたが、県警への取材はしなかったことがはっきりした。交通事故の取材はまず警察からというのが報道の基本である。産経こそ、報道機関を名乗る資格はないではないか。
米海兵隊も「曹長の美談」を否定したことから、追いつめられた産経新聞が遅ればせながら「おわびと記事の削除」をしたというのがこの話の顛末である。産経新聞東京本社乾正人編集局長は「再発防止のために記者教育を徹底する」と言うが、問題はそんな程度の言い訳で済む話ではないだろう。
『毎日』記事で服部孝章立教大教授は「深刻な問題だ。産経新聞は沖縄メディアに対し、いわれのない非難をしたからだ。・・・一部勢力に支持されようとして書かれたと思われるが、検証はそうした事情を明らかにしていないのも問題だ」と指摘している。当然の指摘である。
いま、沖縄では米軍駐留や基地拡大に反対する運動に対していわれのない誹謗中傷が強まっている。中心的指導者の平和運動センター山城博治議長は微罪で152日間も拘留された。沖縄2紙を潰せのかけ声のもと、基地反対運動には中国人朝鮮人がいる等のデマがふりまかれている。
そのデマの急先鋒が産経新聞なのだ。こんどの「おわび・削除」に対して、非難された側の琉球新報普久原編集局長も沖縄タイムス石川編集局長も「率直に詫びた姿勢に敬意を表します」「報道機関として評価します」と大人の対応でこたえた。それはそれで立派だとは思うがおれにはちょっと「きれいごと過ぎる」とも思えるのだが。