戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

マルクスガブリエルの言いたい放題 18/05/16

明日へのうたより転載

 14日付『毎日』のオピニオンページが読み応えあった。38歳のドイツの哲学者マルクス・ガブリエルへの一問一答。タイトルは「そこが聞きたい ポピュリズム現象とは?」。ドイツの昨年総選挙で右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が野党第一党になった。右派ポピュリズムとはどんな思想なのか。

 マルクスガブリエルは右派ポピュリズムをキリスト教原理主義だと定義する。「(原理主義は)「歴史的事実を否定し、事実に合致しないアイデンティティをでっちあげます」。だから右派ポピュリズムの政治は「ウソの物語に基づいて」「誤った事実と認識」で行われることになる危険が大きい。

 そんな危険な政治が何故人々から支持されもてはやされるのか。ちょっと長いが、マルクスガブリエルの言をそのままコピーする。

「人の文化的活動は、心理学者フロイトが名付けた(本能的に欲求を満たす)『快楽主義』と、(社会の仕組みを考慮し欲求を制限する)『現実原則』が調和している時に成り立ちます。このバランスが崩れると人は心を病みますが、私たちはこの二つが一致しにくい病める社会に暮らしているため、複雑な現実を単純化して提示してくれるポピュリズムのような(都合の良い)『幻想』を求めるのです」。

 このマルクスガブリエルの言葉は、今の日本の政治、国民の心理状況をピタリ言い表しているのではないだろうか。事実を顧慮せず断定的に確信を持ったふりをして、政治の場で平然とウソをつく。単純な大衆受けする単語をばらまいて国民の幻想を誘う。そんなウソの政治に対抗軸はないのか。

 マルクスガブリエルは必要なのは「他人の哲学、考えに耳を傾ける『友情の政治』」だという。この対極にあるのが『敵意の政治』で、自分と相容れない人や思想に対して対立の構図を作る。敵対することが良いことだと決めつける。匿名の批判をネットで広げる。そんな国民が右派ポピュリズムの餌食になる。

 一方でマルクスガブリエルはこんなことも言う。「哲学界に『悪いやつ』がいたことは明らかです。(社会主義独裁につながった)カールマルクスや(ナチに利用された)ニーチェ、ハイデッガーらです」。これはちょっと酷い断定の仕方じゃないのかな、とおれは思った。