戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「働き方改革法案」が衆議院を通過した。政府与党は何が何でも今国会でで成立させるつもりらしい。彼らがそれだけ熱を入れるのには訳がある。法案成立は財界筋(日米独占資本)の強い意向であり、それに応えることが国民の信頼を失いつつある政府自民党の唯一の生き残る道だからである。
この法案、中でも高度プロフェッショナル制度に対して野党は「過労死促進法」だとして強く反対している。もちろんその捉え方は間違ってはいない。「過労死被害家族会」の訴えは説得力がある。しかし、高プロ制度を過労死との関連だけで糾弾するのでは少し狭すぎるのでないか、とおれは思う。
高プロ制度は戦後70年続いた日本の労働基準法体系を根本からひっくり返そうとするものだ、というのがおれの見方だ。現行の労基法には労働時間、休憩時間、休日、有給休暇、時間外労働、時間外・深夜労働割増賃金などの規制・規定が明示されている。その規制が十分かどうかは別だが・・・。
今度政府・財界が導入しようとしている高プロ制度はそれらの規制をきれいさっぱり取り払ってしまう。労働時間という概念が消えてしまうのだ。確かに今まででもタクシーの運転手や一部セールスマンにはなんぼ金を稼いだからいくらという歩合制賃金のところがあった。しかしそれらの歩合制労働者も1日8時間、週40時間の規制は適用される。もちろん最低賃金制も適用なので無制限な長時間・低賃金労働は禁止された。
何故資本主義社会なのに労働者の労働条件保護が法律で決められねばならないのか。それは資本主義を維持するためである。資本主義といっても働くものがいなければ社会は成り立たない。労働力の再生産が必要なのだ。いわば「持続可能な労働力」かあって初めて資本主義が存在できるだ。
労働時間の規制は労働者の要求であると同時に資本主義の成立要件でもある。何故なら労働者が生理的条件を超えて働くようになったら、労働力の補充は途切れ、生産はストップせざるを得なくなる。日本の財界筋・独占資本はそこのところが分かっていない(分かっている人もいるのかも知れないが)。
目先の利益にしか頭が働かない。アベノミスクとかいっても景気は一向によくならない。生産が落ち込んでも利益は確保したい。それには1人の労働者からより搾り取るしかない。そのためには8時間労働なんかに構ってはいられない。3人に8時間ずつ働かせるより2人に12時間ずつ働かせるほうがずっと安くつく。それが本音だ。「働き方改革」は亡国の法案だとおれは思う。