戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「働き方改革法」が29日の参議院本会議で可決成立した。30日付『毎日』の見出しを拾う。「高プロ来年4月導入」(1面)「『不備』批判押し切り」「政府成立強行」「監督・指導に限界」(2面)「労働時間規制なくす『高プロ』」「条文あいまい対象拡大根強い懸念」「運用は省令次第」(3面)
「野党亀裂戦略見直し」「働き方改革法成立許す」(5面)「『働き方改革法』が成立 健康と生活守るために」「労基署は監督の強化を」「多様な労働実現しよう」(社説)「財界高プロ歓迎」「非正規改善企業に課題」(7面)「チェック体制整備必要」「有期雇用例外措置に」「『同一賃金』議論深めよ」(9面・論点)「『裁量はない』『非正規に賞与配分』」「労働者困惑と期待」「解説・働き手の視点で運用を」「『過労死防止と矛盾』遺族ら記者会見」(31面)。
社会面に「労働者困惑と期待」とある。記事の大部分は高プロの適用に不安を感じる外資系企業のシステムエンジニアの「困惑」についてだ。「同一賃金」が明記されたことにより非正規でも賞与をもらえるようになるかも知れないという「期待」も取り上げているが、これは期待外れが目に見えている。
社説でいう「多様な労働実現しよう」とは、「介護や育児をしながら働く人は増え、地域での活動や副業、趣味などにもっと時間をかけたい人も多いはずだ」という認識が前提になっている。確かにそういう人たちはいるだろう。しかしそのために新しい法律を作る必要がどこにあるのか。
財界は本法案を「働きがいと生産性の向上、イノベーションを生み出す改革の実現に向けて取り組みを加速する」「多様な人材が生き生きと働ける環境の整備につながる」と歓迎している。『毎日』社説も財界談話も「多様な労働」「多様な人材」と労働の多様性を殊更強調し「新しい労働システム」の必要性を鼓吹する。
しかし多様かも知れないが労働は労働だ。労働者は労働者だ。むしろ労働が多様になればなるほど労働のあり方、働かせ方の規範を厳しく規定する必要があるのではないか。今よりもっと使用者を縛る労働基準法がなければならない。それを多様性を隠れ蓑にして現行労基法のなし崩し解体を目指す。それが高プロであり、今回の働き方改革法なのだとおれは思う。社会の富は労働によって築かれる。労働を粗末にする国は滅びるしかない。