戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「猛暑五輪に懸念」「海外メディアが次々と」(26日付『毎日』)。そうだろう。当たり前だ。7月末から8月初めにかけての東京なんてまるで蒸し風呂。人間の体温に近い気温が連日続く。オリンピックはピクニックとは違う。体力の限りを尽くして速さ、高さ、耐久力、跳躍力などを競うのだ。
「英紙『ガーディアン電子版』は23日、日本全国で過去2週間に暑さが原因で死亡し、数十人が病院に運ばれたと報じた。そのうえで、東京五輪のマラソンコースは晴天の場合、ランナーにとって『危険』または『極めて危険』なレベルになるとの東大の研究結果を紹介。日本最北の北海道で開催したり、午前7時予定のスタート時間を午前2時に変更したりするなどの改善案を検討すべきだという専門家の見方も伝えている」。午前2時の競技なんて前代未聞だ。それだけ真夏の東京五輪は無理筋だということだ。
このような海外からの懸念に対して日本のオリパラ組織委員会はなにをどう言っているのか。23日、組織委員長の森喜朗会長は記者会見で「この暑さでやれるという確信を得ないといけない。あるい意味、五輪関係者にとってはチャンスで、本当に大丈夫か、どう暑さに打ち勝つか、何の問題もなくやれたかを試す、こんな機会はない」と息巻いたという。まるで戦前の「撃ちてし止まん」の「特攻精神」ではないか。
暑さもダメージだが、台風襲来の可能性も大きい。今まさに台風12号が南方海上にあって、「3、4日後には関東地方直撃も」という予報がテレビで流れている。もし五輪開催中なら屋外競技は総べてお流れだ。おまけにこのところ関東地方でも震度3から4の地震が頻繁に起こっている。競技中にグラッときたら地震のない国の選手はパニックになってしまう。絶対起こらないという保証などない。
そもそも東京へオリパラを持ってくるという考え自体が無理筋だった。5年前の2013年9月、IOC総会に安倍晋三自身が乗り込んで「福島原発事故による放射能被害はアンダーコントロールされており、何ら心配は要らない」とうそをついてオリパラ東京招致をかすめ取った。これがボタンの掛け違いだった。その結果ここへきて、海外メディアが「殺人オリンピック」と警鐘を鳴らす事態を呼んだのだ。
開催時期を変えて前回同様10月にしたらどうか、という声もあるらしいが、そんなに無理をする必要はない。今すぐに開催返上をIOCに申し出ればいい。確かに「2020年オリパラ」を目標に精進してきた選手たちはがっかりするだろうが、命には代えられない。それが世界中のアスリート、スポーツファンに対する日本としての誠意ある態度ではないだろうか。