戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

ソ連嫌いのジョルジュさんの思い出 18/08/31

明日へのうたより転載

 作家の高村薫さんが28日付『毎日』の「平成という時代」と題する座談会で次のように述べている。「冷戦が終わった時に、一つだけ一瞬の喜びを感じたのは共産主義が『退場』したこと、それだけです。私の人生の中で、一瞬の夢を見た時だったと思います」。ソ連崩壊が夢のように嬉しかったようだ。そういえば我が尊敬する不破哲三も、ソ連崩壊を「もろ手を挙げて」歓迎したよな。

 2001年8月、井川旅行団でチェコへ行った。市内観光の女性ガイドは顔は可愛いが言うことが凄まじかった。「共産党政権時代は財産を持っていた人はすべて取り上げられた。住んでる家からも追い出され、冬でもコートも着せられずにトラックで馬小屋みたいなところに運ばれた。抵抗したら殺された」。

 それから井川君のお友だちでハンガリー観光局のジョルジュさん、彼も大のソ連嫌いでソ連崩壊が東欧解放に結びついたことを心から喜んでいた。「ソ連に支配されたハンガリーの共産党時代は、弾圧と人殺し、人民抑圧の政治だった。ナジも殺された。声も上げられなかった」。

 おれはジョルジュさんに別の角度から反論を試みた。「共産党時代がいかに悪かったかということはよく分かった。それはそうなんだろうけど、世界史的に見て社会主義はどうなのか。ソ連や共産党時代のハンガリー政治が悪かったからといって、社会主義の掲げた理想や第二次世界大戦で果たした反ファシズムのたたかいの役割まで否定するのはどうなのか。そういうことにも配慮した言い方ができないか」。

 しかしジョルジュさんは一歩も引かない。「ソ連が悪いということは共産主義・社会主義が悪いということだ。平和と民主主義、国民の生活安定の敵だ」と断言した上で「日本共産党がどう言おうが勝手だが、そう言うなら日本共産党が一つでも実績を挙げてからにしてほしい」と痛いところを突く。話は終わりにするしかない。あれから17年、ジョルジュさんも井川君ももうこの世の人ではない。

 「共産党の退場」に一瞬の喜びを感じた高村さんだったが、今の日本社会について「未来に対する絶望が絶望の上塗り状態になっています」「世界規模で資本主義がそろそろ限界を迎えているのではないか」と嘆き節にならざるを得ない。ジョルジュさんも生きていたら高村さんと同じ言葉を吐いたのではなかろうか。

 今日で8月が終わる。蝉の声も聞こえなくなったこの近所だが、昨夜部屋の隅をゴキブリが走り過ぎた。